表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/190

僕と勇者の出会い 10

僕と勇者とのであい 10




「ふぉっふぉふぉ・・・」




 どこから、そんな声が掛かってきた。そこに現れたのはワルシャル王その人である。


 式典の着替えがようやく終えて、割とラフな格好で戻ってきたのである。さきほどまではかなりゴテゴテの服装だった。


「着替えに時間がかかった。わしの登場前に余興があったようじゃがな」


 血がサロンに広がっているのを見て、王はそういうと大臣の方を見た。


「して大臣、お主気になるようなことを言っておったらしいな」


「はっ、王竜の契約しゃがフェイルズ殿がよろしいかと?」


「ふむ」


 フェイルズの様子を見て首を傾げた。すでに貴族の誰かが回復魔法を唱え、傷は治っている。


「わしがそういったのか?」


 王の言葉を聞いて、大臣は驚いた顔になった。


「わしが王竜様の契約者をあやつと言ったのか?」


「いえ・・・」


「ふむ、そうじゃろうなあ。わしにこの小僧にそういうことを言ったこともないし、貴様伝承のみでしか聞いておらんじゃろな」


 大臣はそういうと王は首を傾げた。


「ああ、我が国の名誉職のあれのことか」


 ポンと王は手を叩いた。思いついたらしい。


「なるほど、なるほど」


「そうです。王から認定されるそれでございます」


 大臣はうれしそうに反応した。


「あれか・・・あれな・・・まあ、それならやってもいいが、あれと勇者殿では比肩にならんぞ」


「はあ?」


「あれをもらっても王竜様にはのれんしな」


 それを聞いて大臣の目が点になった。


「見ての通り、常人では勇者様と聖剣には歯が立たんのだよ。ただ、真の王竜の契約者なら可能だろうが・・・」


「はあ?はあ?!」


「そもそも、トキアは王竜の契約者と結婚させるために用意したものでもないしなぁ」


 一体何の話をしているのか大臣にも理解できなかった。


「お主も知らんのか?困るのぉ、我らが臣下は私ではなく、王竜様の臣下でなければならぬのにのう」


 王はふぉふぉっと笑った。


 大臣は顔色が悪くなっていた。王の言動を聞いて絶望的な気分になった。


「バカな我らは王ではなく」


「そうだ。貴様らが普段バカにしていた竜族に仕えるものだ。竜族様方が言うことを聞いてくださるから乗れたりできるものを・・・」


 王は周りの貴族たちを見てバカにするように言った。


「ふむ、今回の件、含めて、貴族の貴様らすべて権限をうばってもいいのじゃぞ」


 とんでもないことを王は言った。


 一人でこの数の人間を相手にするつもりらしい。誰も王をかばう様子はない。これでは裸の王様ではないか?


「愚かな王よ。我らとて誇りがあります。そのような口の利き方は・・・」


「ほう・・・。我が国は実力の主義の国。勇者様やそこにいる客人が我の敵に回らなければ、我一人で貴様らなど仰せる」


 王は嬉しそうに言った。


「貴様らの攻撃が竜の戯れよりも強いのかどうか見てみたい気もするな」


 竜の戯れとは、竜に軽く遊ばれたような経験がある様にしか思えない。それを王は戯れとして流せる技量があるのだ。


 竜は1体で一師団を相手にできると言われている。それを相手に一人で戯れるなど狂気の沙汰ともいえる。


「あら、おもしろそうですわ。私の腕も見せた方がいいですか?」


「危ないことは控えてもらいたいですね」


 妻が嬉しそうにいうのを夫は優しく制した。


「大丈夫ですか?」


「トキア、君は僕が守る」


 心配そうなトキア王女を勇者がしっかりと抱きしめて安心させる。


「勇者殿には一度見せておいた方がいい戦い方がありますのでね」


 王はここのすべてを相手に余裕たっぷりに言った。


「さてさて、呼ぶかのう」


 王は指笛をならすと、外でバサバサという羽音がした。城の窓の外には多数のワイヴァーン、レッサードラゴンが集まってきた。


「ふむ、いい臣下のものたちだ。いや、友ともいえるな」


 王の言葉に貴族たちの顔色が大きく変わる。


「これが王?」


「バカな、指笛だけで竜族を招集など・・・」


「これが真の竜騎士」


「王竜の契約者・・・」


 貴族たちは一斉に王の前に集まり、その膝をついた。


「ふむ、わかったか?わしをないがしろにしたらどうなるか。友が黙っておらんからのう」


 王は豪快に笑った。


 すると薬師は手を叩いた。


「王様、これは素晴らしい余興です。私如きのために大変ありがたい」


「これほどの名誉の何よりの宝ですわ」


 妻も夫に賛同し、二人は顔を合わせ、王に向かって深々と礼を述べる。


「「ワルシャル王こそ、王の中の王」」


 と同時に呟いた。


 それを聞いた王は



「ふぉっふぉふぉふぉふぉ」



 と大きな声で笑った。


 トキア王女も勇者アレスも夫婦にならい、同時に膝をついた。


 それを見て王は満足そうな表情を浮かべた。










「さてだ」


 王は薬屋を自分の私室に呼び出し、嬉しそうに言った。


 王の隣にはトキア王女がいて、勇者アレスもいた。二人が手を結んでいるのを王は特に咎めることはない。


「ふむ、貴族間が妙なことになっていてすまぬな。貴族の入れ替えも検討せねばな」


 王は困ったように言った。


「王としては兵士がいくら減りようが関係ないですようで」


「まあのう。わし強いし、わしの代わりはいるしのぅ」


 王は言った。代わりがいるということは同様の力をもったものが他にもいるということだ。


「貴族共の政治ゲームは好きにさせておったが、腐るのは困るんじゃよ。しかも娘を使ってもってのほかじゃ」


 王がそういうとトキアは悲しそうな顔になった。


 王はトキアと勇者の様子をみて笑みを零した。その頭を撫でた。


「トキアがここにいるのはわしの我儘じゃ。本来、王族は山にいなければならない。体が弱かったトキアにはそれがかわいそうでな」


「山?」


「王竜様のおわす山だ。我らはその山で王竜様とその配下のもの世話をするのがならわし」


 トキアは大きくため息を付いた。


「小さいのころから体の弱かった私は山での生活に耐えられなく、ましてや竜様方のお世話などができるはずがないので、この城にて貴族の真似事をして生活してました」


「トキアは普通の生活ならなんとかなるし、貴族のような生活なら、それほど体にも負担がかからんのでな」


「私も山の方々が世間で目立たないため、精一杯社交にがんばらせてもらいました」


「トキアが姫として、わしがいうのもなんじゃが美姫のため、民衆からも人気がありトキアを娶れば王になれるそんな空気が出てきたのだ。それがこのような結果を招いたのだ」


 王は困ったような顔になった。


「まあ、正直、勇者様がトキアと仲良くなり、こうした関係になってくれたのは計画通りじゃからうれしいが」


「お父様!」


 トキアが肘でつっついた。しかし、頑強な王は特に痛そうにしていない。


「私も勇者様とお付き合いするように言われた時は、貴族として普通の恋愛ができないと思っていたら・・・」


 トキアがアレスに抱き着いた。


「こんなに女の子みたいで、綺麗で、可愛らしくて、王子様みたいで、かっこいいですもの!」


「ははは」


 アレスが抱き着かれて恥ずかしそうに困っていた。


「最高です」


 アレスの頬に口づけをする。


「コラコラ、父の前だぞ」


 それにはさすがに困った気分になるのか、娘をたしなめる。


 というか、いちお、客人の前ではとか二人の夫婦は思ったが、お互いの顔を見て・・・致し方ないと思った。


 客人と言わなかったのも二人がきっと悪い。


「薬屋どのには・・・奥様はわからぬが、勇者殿のパーティメンバーに参加してほしいのじゃ」


「なるほど、それは大変名誉なことで」


「ただ、見ての取り、勇者殿は剣がなければ、それなりの剣士でしかありません」


「はい」


 少し悔しそうに勇者は頷いた。自分の力不足を痛感しているようにも見えた。


「我が国にて騎士とはなんたるか、竜騎士の神髄を叩き込む予定なので、それが終わり次第集まって、共に魔を倒しに行ってもらいたい」


「なるほど。それはどれほどの期間ですか?」


「わしの見積もりではあと5年から8年だ」


「以外と長いですね」


「勇者どのは、まだ、12歳、年齢や経験からしたら致し方ないこと」


 それを聞いて薬屋は深々と頷いた。


「当然の判断ですね。15歳で成人になるのが普通ですから、それから数年は正しい判断だと思います」


「私としてはもう一つお願いがあります」


「なんでしょう」


「勇者様がさきほど使われた秘術について、王竜の契約者の者にも伝えてほしいのです」


 それを聞いて薬屋は額にしわを寄せた。


「私の兄弟にあたるものです。入れ」


「はい。王様」


 中に入ってきたのは15歳くらいの若者だった。


「あれで勇者殿と同い年です」


 それを聞いて夫婦は額にしわを寄せた。顔は子供を抜け切れてないが背は成人男性ほどがある。骨格がまだ成熟しきっていないように見えた。


 ようはまだ伸びるしろがあるのだ。


「はじめまして。ドレクと言います。性は名乗ったことはありませんが、ワルシャルを名乗ることを許されています」


 つまりは王族ということだ。


 ドレクは自分の首の周りに纏わりつく、竜の子供を優しくなでた。


「あの子は王位継承権第3位です」


 トキアはそっと囁く、それを聞いて勇者も薬屋夫婦も驚きの顔で見つめる。


「彼のものは現在の王竜の契約者ですから、当然です。むしろ、ワルシャル国の王は元王竜の契約者がなることが習わしです」


「だから、彼は自分が王と言っていたのですか」


 薬屋がしたりという顔で頷いた。


「ただ、王竜の契約者は普通に育っていてもなれません。それが王族に許されているのは竜の世話人として生まれた時から竜と育ち、竜の息吹を受け続けて、初めて王竜の契約者として覚醒するのです」


「なるほど。つまり、王族は竜の世話人として、絶対的アドバンテージがあると」


「そういうことです。この国において、貴族は飛竜のような下級の竜の乗り手を育てるためのシステム。竜の息吹を受けず大きな縛りもなく、血なども関係なく才能がある程度あればできる仕組み。故に貴族と王族では意識に大きな隔たりがあるのです」


「ただ、貴族の多くは自分たちが特別と思っているようですが、真の王族からすれば、王の権威によって竜に乗れているにしか過ぎないのです」


「真に竜を友にできる貴族などもそれほどおらず。竜と会話ができるものなどいないありさま」


 トキアはため息をついた。


「長い間に竜を道具にしか、思っていないものが多くなり、彼らの知能を知らぬものが多くなりました」


 王はそういうとため息をついた。


「エルダードラゴンから勇者殿話を聞いているぜ。あんたも大変だったな。精霊の森で落とされるなんて、しかも精霊の森の力が及ばない範囲だからすげえ高さだよな」


 ドレクが感心したように言った。丁寧な口調ではない。王の眉がぴくっと反応した。


「生きているだけで十分に才能あると思うぜ。勇者殿は」


 ドレクの生意気な口調に苛立った様子であるが、王はそれ以上言わなかった。


 だが、トキアは気にくわなかったらしい。


「口の利き方がなってませんね。ドレク」


「おいおい、あっさりそっちに乗り換えた幼馴染さんよ。まあ、かわいいのは認めるぜ」


「のりかえてませんから。それに一緒にいたのは五歳までです!」


 ドレクはため息をついた。そして悲しそうに言った。


「俺の初恋が・・・」


「黙れませガキ」


 トキアもドレクには遠慮がないらしい。それだけで十分に二人の仲が察せるものだ。


「まあまあ、ドレク君もほめているだけですし」


「勇者もとんだやつを好きになったら、こいつ粘着気質だから気をつけろよ」


「なによ。粘着って、あんたはただの女好きでしょ。姉さんたちにも声かけていたの知っているんだからね」


 トキアが珍しく怒ったように言った。アレスと関係ことで怒ったのを見たの初めてな気が夫婦はした。


「これこれ、客人の前でやめんか。お前ら、これ以上は身内の恥になるぞ」


 と王はたしなめた。ようは村の話は王族の話になるのだ。村には王族の関係者しかいなく、村の話題は親族の話になるのだ。


「あはは、トキアに粘着されるなら僕は構わないよ」


 とアレスがいうと、トキアは無言になりそっとアレスに抱き着いた。すごくうれしそうだ。


 王もその様子に頭を抱えた。


「すまんな身内が」


「いえいえ」


「楽しそうな村ですね」


 夫が気にしてないと反応し、妻はのんきに答えた。


 王は無礼がないように配慮しながらいう。


「まあ、そういう村で王族しか入れぬ閉鎖的な村だが、あやつの女好きも周りの男どもも悪いのだ」


「というのは」


「王族と村のシステム上、ハーレムが推奨されているのだ」


 それを聞いてドレクを見て、夫婦はしたりという顔になった。


「それはしょうがないですね」


「村の人口を確保するためですね。村に人を呼ぶ一環と・・・」


「そういうことだ。竜の相手をしなければならないから、か弱い女は推奨されない」


「トキア姫のようなものは駄目と」


「そうなってしまう。竜の息吹が体にあわんものはこっちの暮らしになる。どっちがいいかはわからんがな」


 王はドレクを見ながらため息を付いた。


「なるほどドレク君も大変だ」


 薬屋はそういうとドレクを見た。ドレクは肩を竦めた。


「まあ、俺は村を出る気満々だったし、あんたらの仲間になるのはやぶさかではないぜ」


「なるほど」


「俺が一番強いしな」


「それは楽しみだ」


 ドレクの言葉に薬師は余裕たっぷり言った。それを聞くと王は首を振った。


「薬師殿の技をなめぬ方がいいぞ。あれは竜の奥義も効くか不明だ」


「いつか手合わせ願いたいものだ。我らが王にそれを言わせるとは・・・」


 ドレクは楽しそうに言った。


 それを聞いてトキアはため息を付いた。


「やっぱ、アレスがいい。あんな馬鹿みたいのよりは」


「コラコラ」


 とかいいながら、猫のように絡んでくるトキアの頭を嬉しそうに撫でるだけだった。それを感じてトキアは嬉しそうに目を細めた。


「まあ、こんな奴らだが仲良くしてくれ」


「わかりました」


 薬屋はうれしそうに頷いた。




 数か月後にドレクは薬屋を敬意をもって“ダンナ”、アレスは同じく敬意をもって“師”と自然に呼ぶようになるのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ