終わりは唐突に 前編
「これが神を殺す剣か」
トールは突然現れた男に唖然としていた。
「神を殺す頂きにたどり着くとは大した鍛冶師だ」
「鍛冶師がそんなことできるとでも?」
「そんなものが作れるものなど、もう必要ない」
「なに?」
トールは光に包まれた。そこにトールの姿はなくなっていた。
「主よ!」
声をかけたが、そこには死体すらなくなった主がいた。男はトールが作り出した神を殺す剣を持って背を向けた。
「ふっふふ、これで神を殺せる。俺が神となる日が来たらしいな」
男はそういうと姿を消した。
「主~」
主がいなくなったドラゴンは大きな声を上げた。
「大変だったね」
アレスは優しく言った。主が消えた場所にアレスがその一方と聞いてやってきたのだ。
「砂となったのか、灰燼となったのか、いずれにせよ私たちの出番ですね」
トキアがアレスの側に立ち、目を細めた。
「主を助けることができるのか?」
「部屋の換気をしなくてよかった。彼の残滓があるならいけるはず」
アレスはそういうと目を瞑った。
あたりがうっすらと曇っていく。霧が辺りを包み込んだ。そして、アレスの足元に肉片のようなものが集まっていく。
その隣のトキアもそれを見て、目を瞑った。泥が床に広がり、それが徐々に範囲を広げていく。
アレスの足元になる肉片が徐々に人の形になっていく。それは肉人形のようなものだった。
「凄い」
誰かが声を出した。
「まあ、後は私に任せなさい!」
とセイラが出てきて、その肉人形に触れた。
その人形が光に包まれ、そこにはトールが横たわっていた。
「まだ不完全ね」
「大丈夫。あの人が来る」
アレスがそう言ったタイミングで、メディシン卿がやってきた。
「後は俺に任せな」
メディシン卿がいうと黒い闇が一瞬あたりを包み込み、光が輝き、景色が元に戻った。
「ん?」
ゆっくりと起き上がるトール。
「おれは・・・おれはどうしていたんだ?というか、剣は?」
「成功したよ。神にモッテいかれたけど」
「そういうことか、神に俺は消されたのか。つうか、アレスにセイラにセンセイさんが来たってことはよっぽどのことあったのか?」
「君は灰燼になっていたよ。魂もかなり細かく分解されていたよ」
「なるほどな、記憶が変になっているのは回収できなかった分ってことか」
トールはため息を一つ付いた。
「普通に殺した程度では聖女様によみがえらせられる。ここまでやって俺が生きているってことが奴にはとっては以外の何物でもないってことか」
「そういうことになるね」
アレスが笑顔で言った。
「俺はあんたらが怪物に思えて仕方ない」
「こんな人たちと一緒にしないで。私は普通の聖女だからね」
セイラが非常識の塊のアレスとメディシン卿を指さして言った。
「というか、卿がいれば、私は必要なのでは?光魔法の最上位ともいえる蘇生魔法をあなたが使えないとは思えないのだけど?」
「使えなくはないとだけはいっておこう」
「はあ。これだから・・・」
セイラは肩を竦めた。
「オーディナル聖王国の悲願を簡単に使われては困るんですがね」
「君が特殊なのは王族だからのはずでは?」
「まあ、確かにそうなのですけどね」
メディシン卿の言葉にセイラは頷いた。
しばしの空白ができたあと、アレスが口を開いた。
「師よ。その力の解析ができた」
「ほう」
「新たなエネルギーだ。魔王達とも違う種類の力が働いている」
「それはやっかい・・・だが」
「ちょっと、見せてみる」
「さっすが」
メディシン卿がアレスの天才ぶりに称賛する。そして、アレスがその力を再現した。
それをメディシン卿の影が取り込んだ。
「なるほどな。魔王とも、魔力とも違う力だ」
「見たことのない力だ。神力と言える力だ。無駄にデカく、この世界の者たちには効率が悪いが・・・」
「強いな」
「はい」
「おそらく、それを効率よくのが、魔王の力でより効率よくのしたのが我々が使う魔力といったところか」
「遠縁の存在とも言えますね」
「使用できなくはない。これで何故奴が魔王などを使わなければいけないのか、わかったな」
「ええ」
「あれが力をふるうにはこの世界には効率が悪い」
「おそらく、この世界の神がかのものに対して対抗する手段として確立させたのでしょう」
「その対抗阻害の元がまさか魔力とは・・・」
メディシン卿は頭を抱えた。
「意外な事実でしたね」
「俺は魔王の方が先だと思っていたが、実は違っていたか。いずれにせよ、魔力がこの世界に必要なことがよくわかったが・・・」
「外なる神が力をふるうと瘴気として阻害するですか、やっかいですね」
「まあ、対抗手段も見つかったし。なんとかするさ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
「へえ」
メディシン卿の自信に満ちた目をみた。
「奴は人類最強の所に行き、それに剣をふるってもらうつもりらしい」
「人類最強?師匠以外に・・・なるほど」
アレスは自分たち以外にそういうたぐいの人物に心当たりがあった。
「俺の嫁に手を出す不届き物は成敗しないとな」