勇者ギルド in ブリウォーデン勇王国 18
「かつての勇者と魔王はこんなものかね」
フィンとシドは協力して全力で戦ったつもりだった。
それでも目の前の魔王以上の存在には勝てなかった。光の戦乙女の契約者にして、恐怖の王の契約者。
その剣術などは普通なのだが、いくら傷つけても、攻撃を仕掛けてもその体に致命傷を与えることすらできなかった。
素人の毛が生えた程度のフィンの剣技では、騎士時代にいじめというしごきを受け、毎日のように剣聖の剣の相手をさせられ、その才能を強固なものにした男にはかなわなかった。
加えてその魔法はすべて彼が考案した魔吸空間に座れ、その力にされる。
魔法を封じても、神の薬師という名ではせた薬による回復までやる。一瞬で毒薬を目の前で作られたときはどうしようもなかった。
そんな男を相手にさせられ、毎日課題を上げられ、それを克服してこうして二人はバルザックの前に立ったのだ。
「師がよかっただけだ」
驚愕に染まっているバルザックを見て、シドは言った。
「あなた弱い。彼と比べてね」
フィンもバルザックの背後に立って冷たく言った。
「お前らがそういう化け物にあってみたいぜ。少なくとも今大会には来てないな」
バルザックは息を切らしながら言った。いつのまにか、背中の腕が二本ともなくなっていた。
フィンに切られていたのだ。物のついでのようにバルザックの背中についていた腕が切り落とされたのだ。
「あなたが彼に会うことはない。あなたはここで死ぬから」
「ふざけるなよ。雑魚が」
「そう」
バルザックはフィンに意識を向けた。そのはずだった。だが、フィンがいると思ったところにフィンはすでにいなかった。
バルザックは自分の視界が変わっていることに気が付いた。
自分が動いていないのに視界が動く。それは首が飛んだことを意味していた。
魔力込めて回復を図ろうとした。それを吹き消す力を感じた。
シドである。
「ふざけるな!」
バルザックは声にならない声を上げた。首を斬られ、声帯が機能しなかったのだ。
バルザックの視界には爆散する自分の体が目に映った。そして、その塵となった体の向こうにたたずむシドとフィンの姿を見た。
二人は目線を交わし、うなづきあっているのを見た。
フィンがそれはもう愛しそうにシドを見つめているのをバルザックは確認した。叫ぼうと思った。
だが、声が出なかった。
かわりに優しい暗闇がバルザックの視界を塞いだ。
日本という国から魔王として転生し、その力を使いあらゆることを長年してきた。魔王としては長生きをし、好き勝手にやってきたつもりだ。
そんな自分がこんな最期を迎えるなんて思いもしなかった。
自分が殺した魔王と勇者の転生体に負ける最期を迎えるなんて・・・なんて趣味の悪い最悪のシナリオだろう。
バルザックは暗闇の中慟哭した。
「終わったか」
シドが言った。
「うん」
シドの言葉にフィンが短く答えた。シドはおちている剣を拾った。フィンが今大会でお世話になったアレスの大剣だ。
「あの人に返さないとな」
「うん」
「・・・どうした」
「なんでもない」
フィンは少しモジモジしているようだった。
「なんだよ」
「シドはこれからどうするの?」
「どうするって・・・ああ、お前の相棒を務めるつもりだが、いっそのこと人生のパートナーに」
「馬鹿」
フィンはシドの告白に軽くその胸を小突いた。
「なんだよ。もっと大げさに否定してくれよ。勘違いするだろ?」
「勘違い?」
「一緒にいていいって」
「あの時から一緒にいるのは決まっていたのでは?」
フィンを強引に勇者にしたあの時、シドはいつの間にかフィンのパートナーになっていた。
「・・・まあ、そうだな。っていてもいいのか?」
「うん」
フィンの気持ちはシドならば一緒にいてもいいような気がするようになっていた。結婚とか、恋人とか、そういう気持ちにはまだならないが、そういうのがそのうち変わるかもしれない。
変わるような気がした。
それは今ではなくても、近いうちに。
ようは恋人としてキープしておく程度のつもりだ。それでもシドはうれしがるだろうし、勘違いするかもしれない。
だから、あえて言わない。
「ありがたいぜ」
シドはうれしそうにわらった。フィンはそれだけで十分に楽しい気持ちになった。
「がんばろうぜ。勇者様」
「よろしく、魔導士」
二人は手を取り合って喜んだ。
「よう、お二人さん熱いね」
「ムードを壊すんじゃない。バカ王子」
フェミンとドレクはそんな二人に向かって祝福のような野次を飛ばした。二人の足元には魔王の力を王竜の力に食われた少女が転がっていた。
フェミンの王竜の爪で削れた暴食の力をドレクの王竜の咢が逆に喰らいつくしたのだ。
他にも魔王の手のものと思われる者たちが襲ってきたが、表彰場を襲った魔王軍ともどもは勇者ギルドの面々によって倒されていった。
五体の魔物がその会場付近を襲ったようだが、それぞれ、圧倒的ともいえる力で駆逐されていた。
一体は氷漬けさせられ砕かれ、一体は燃やし尽くされ灰になり、一体は雷に撃たれたように黒焦げにされ、一体は切り刻まれバラバラされ、最後の一体は巨大な何かに踏みつぶされたように潰れていた。
その日、勇王国ではありえない天候になっていたそうだった。