勇者ギルド in ブリウォーデン勇王国 17
「お前を殺す!」
大会の表彰が行われた後、そんな声が響き渡り、表彰場のど真ん中に一人の怪物が舞い降りた。
その怪物は背中にもう一組腕が生え、その顔は鬼のような形相を浮かべた男だった。
「おいおい、ハルアキ随分と変わったな」
シドが呆れたように言った。ちゃっかりフィンを守るような体勢になっていた。
そのシドの姿に思わずむっとした表情を浮かべたが、すぐに剣を抜いて構えた。
「ここで貴様らを殺す」
「どうやって、呪いを解除した」
「あの程度、暴食の魔物がいれば余裕だ」
「暴食の魔物に呪いごと食わせたのか?」
「そういうことだ」
バルザックはそういうと、大地を踏みしめた。それを合図に、地面から一人の少女が姿を見せた。
彼女は自分の周りをスライム状のものに身を包み、うつろな目をしていた。
「おいおい、いくら魔王でも同族を・・・、って、お前はそういうやつだったな」
「なに、こんな小娘、俺にかかれば・・・」
「えぐいことをしたようだな。趣味が悪いぞお前」
シドはそういうと国王に下がるように目くばせをした。そんな国王の前にいつのまにか、メディシン卿が立っていた。
「さあ、こちらへ」
メディシン卿に促されて、一緒に逃げることになる。まだ、あの王に使いようはある。
メディシン卿が王たちやその配下の者を連れて行く。
「そいつに手を出させるわけにはいかないな」
ドレクが客席からフェミンを伴って降りてきた。
「俺も、いや、俺らもいろいろと試しかかったしな」
あたりがうっすらと霧に包まれていく。そして、不気味な泥の生き物が起き上がってきた。
「アレスか」
「観客の無事は僕らが守るから安心して戦うといいよ」
「これなら、人がいても全力出しも大丈夫そうだな」
アレスの声がどことなく聞こえ、おそらく霧から出しているのだと思われる、ドレクは嬉しそうに答えた。
「あの女の子が私たちの相手?」
フェミンがつまらなそうに言った。
「そのようだな」
「まあ、ドレクが手を出す前にあたしがどうにかしないとね」
「性欲の化け物みたいにいうのやめてくれない?」
「・・・違うの?」
「お前だけだよ」
「・・・嘘つき」
フェミンがすぐに突進をした。
「おいおい、嘘じゃなねえっての!」
フェミンに近づこうとするスライム状の化け物はフェミンの周りに張られた壁によって阻まれた。
「私に逆らうな!」
フェミンの瞳が猫のように目が細くなった。竜眼と呼ばれる弱者を威圧する目である。
それは低知能のモンスターにも一定の効果があり、威圧することで動きを止めることができる。
動きを止められた。一瞬であるが、圧倒的ともいえるスピードを持つフェミンにとって、その一瞬で充分だった。
フェミンは少女に近づき、腕を振った。竜爪という技で少女の体を包む、スライム状のそれは切り裂かれた。
「なんだあいつら」
バルザックが驚きの声を上げた。あの状態の少女を相手するのはバルザックでも骨が折れる。
だが、対する二人は平然と対応して見せていた。
「馬鹿な。王竜の契約者を灰猫がこんなに強いという話は聞いていない」
バルザックが驚きの声を上げているうちにシドが前に立っていた。
「くっ」
バルザックが構えたが、その腹にシドの拳に魔力を纏っただけの攻撃がその腹を打ち抜く。
猛牛にその体を貫かれたと錯覚させられるような重い一撃だった。
「うぐっ」
そこにフィンの攻撃が上空から飛んできた。フィンの体を掴もうとするが、掴もうとした腕を切りつけられ、背後に回られた。
フィンに意識を向けたが、すぐにシドの方に意識が向けられる。シドがバルザックの目の前で魔法陣を描き、強力な魔法を放とうとしていたのだ。
それを食らったらただでは済まない破壊力のある規模の大きな術式だった。
バルザックはその術式を魔力で吹き飛ばした。人間の戦士でもあったバルザックにはそれくらいの魔力を使った技術は持っていた。
人間の戦士などが近接戦で魔法使いに優位とされているのは魔力のこうした使われ方が一般的に広がっているからだ。
大抵の術式は少しでも形を崩せば発動しないのが大抵なので、魔力の強弱はあまり関係なかった。
バルザックに魔術破壊をさせて気を引くための攻撃であり、運よく決まったら御の字くらいの認識の術式だろう。それにフィンなら避けれるとシドは思って発動した。
バルザックはそのシドの意図に乗り、術式をかき消した。
シドを巻き込むように吹き飛ばして見せたが、シドはそれに対して足を踏ん張らせることで耐えて見せた。そして、逆に錫杖を突き出した。
それがバルザックの体に突き刺さった。だが、防御魔法によって触ってはいるもののほとんどダメージを与えることはできていない。
だが、しかし、触られているのだ。とっさに張った防御魔法はあらかた無効にされていたのだ。ほとんどといっても、普通に錫杖による突きの衝撃まで防ぎきることはできなかった。
シドは魔法使いであり、魔力によって威力を高めている。その魔力によって高められた攻撃力を防いだというのが実際起きたことだ。
バルザックはシドに攻撃を仕掛けようとするが、それを避けて見せる。何気なくよけているが、バルザッククラスの腕のものの攻撃を避けて見せるのだ。
かなりの者だろうと思われた。
そこに魔力の塊を当てられ、魔力の飽和状態をあえて作ることにより、魔力障壁を張らないように、フィンにさせられた。
「くっ」
そこにフィンの攻撃。背中の腕が一本、二の腕の先から亡くなった。使うことはできないだろう。
少し休んで、魔力を使ってで回復させることができるが、それには数秒の時間が必要になる。
だが、目の前にいる二人コンビがそれを許すとは思えない。
さら腕を落とすべく、剣を振ろうとしたが、魔力の塊を飛ばし、フィンを吹き飛ばそうとした。フィンはそれを回避して避けて距離をとる。
同時に全人を焼くような痛みが走った。
気が付けば、シドが目の前で無詠唱で炎の魔法を放ち、バルザックに近距離で魔法を当てていたのだ。
「ぐっ」
シドに魔力の塊を放っていたが、シドはそれを魔法障壁で防いだ。
バルザックが知る限りこんな戦い方をするようなタイプではなかった。前に出て戦うと言うよりも一定の距離を保ちつつ動きで相手を翻弄し、タイミングを見計らって強力な魔法を当てるという方法と取っていたはずだった。
だが、インファイトで魔法でゴリゴリに身を固め、肉弾攻撃に近いような魔法で相手を攻撃するタイプではなかった。
まるで、フィンを立てるような戦略だ。同時に彼女から意識を自分の方に向けるような戦い方だ。
明らかに単純な力比べをしていたようなあの頃とは違う戦いになっていた。あの時のような戦いを二人がしてきたのなら、自力で勝るバルザックが圧倒していただろう。
だが、この二人はそういう戦いを挑んでこない。高次元のコンビネーションによる戦いを挑んできたのだ。
誰がこんな知恵をつけさせたのだと、バルザックは思っていた。前世の二人でもこんな戦い方をしているのを見たことがなかった。
最小限の力でお互いの力を引き出し、相手を圧倒し、倒す。
明らかに前世の時に一緒にいた自分よりもいいコンビネーションをしていた。
「お前ら、何と戦っていた!」
バルザックは思わず叫んでいた。