勇者ギルド in ブリウォーデン勇王国 14
「ここまできしまったか」
サミットは静かに言った。仲間内ではフィンを抜かして一番上まで上がって来てしまった。
明らかに自分よりも強いものがいたが、それでも上に来てしまった。
「まあ、なんでもいいけどね」
サミットは暢気に呟いた。前回参加した大会よりも明らかに良い結果がでているが、釈然としないものがあった。
そして目の前にいる対戦相手を見た。暗い顔をした対戦相手だ。
その顔に覇気はもうない。なぜなら、ほぼ負け試合を相手の反則負けで勝ち上がってきたのだ。
一人目は出場権のない相手にボロボロにされ、二人目は適当に戦われ、かってに降参し、終わった。
そして自分に当たることになる。
「あんたはまじめにやってくるのか?」
「さてね」
サミットは全身に力を込めた。先ほどの試合で見せたあれをぶつけるつもりだ。
ちなみにこれぐらいは勇者の剣の性能があれば防ぐことができるだろう。何せ、あの勇者の剣だ。
「いくよ」
サミットの姿が消えた。
勇者の剣はそれを防いでいた。完全とはいいがたいが、少し後ろに飛ぶ程度で防いでいた。
「降参だ」
サミットはそれを見て静かに言った。
「最大の一撃が防がれたからね」
勇者の剣に防がれていた。さすがというべきだろう。最大の一撃を防がれたのだ。これは素直に負けを認めるべきだと思った。
最大の一撃。素直に思えるものだった。
同時にもっと練り上げないといけないとも思った。あの勇者と勇者の剣に防がれてしまう程度ではまだまだ届かない。
サミットは深く反省し、より自分の高みを目指すべきだと心に誓った。
かりそめの勇者はサミットの言葉を聞き、そのままへたり込むように膝をつき、悔しそうに拳を地面に叩きつけた。動くことができなかったのだ。
その後、普通に剣を振られただけで負けていたのだ。それを何とか誤魔化していたが、試合が終わって気が抜け、誤魔化しきれなくなったのだ
試合後、係員に支えながら帰る勇者の姿が印象的だった。
「とうとうこの時がきたようですね」
「不快な試合の数々だ」
フィンとバルザックは向かい合ってそんな言葉を返した。
「すみませんね。私が至らないばかりに皆さん本気を出せなくて」
「出していたら、誰が優勝するんだ?」
「少なくても、私がここにいれるとは思えませんけどね」
「なるほどな。俺となぜそこまで戦わないといけないんだ?」
「いろいろあるんですよ。バルザック」
フィンは静かに剣を構えた。
「そうか、お前記憶が少し戻ったのか?」
「ええ、あの時の屈辱を、かえさせてもらいます。そのために皆さんがいろいろと協力してくれましたから」
「なるほどな。ところでその剣は勇者の剣ではないな」
「ええ、アレスさんから剣を借りています。トールさんに本来の力の一部を変更してもらって、勇者の剣の力に近いものをつけてもらっています」
フィンの姿が消えた。
「何!」
バルザックはすぐに上に剣を向け、フィンの攻撃をあっさり防いだ。
フィンはバルザックの力を使いながら、空中で回転してバルザックの首にに攻撃を行ったバルザックはあまりの速さに後ろに下がって避けるしかなかった。
「なんだそれ!」
バルザックはそうさけんだが、フィンは地面に降りることなく、宙でそこに地面があるように飛んで切りかかった。
「く!」
地面に落ちるものだと思っていたが、予想外の動きに足を止め防御に走った。
大剣で止めて見せるが、その力を使われて、さらに上に上昇した。さらに空気の塊をバルザックはフィンにぶつけられた。
少し吹き飛ばされる。その空気を塊を使った反動で浮き上がり、フィンは宙で止まる。
それが浮遊魔法という単純な魔法なのだが、一気に観客たちが湧いた。あまりにも華麗な剣舞に人々が称賛を送ったのだ。
わざとスピード、そして、魔法とも連携。
その技には花があった。前勇者が効率的な戦い方ならば、このフィンという勇者は魅せる戦いをしていた。
「ふぜけるな!」
バルザックは馬鹿にされたような気分になりつつ、飛び上がってフィンに切りかかった。
だが、フィンにぶつかる直前、振った剣の力を使われ、バルザックに切り上げ回転しながら軌道を変えて首筋に一撃が飛んできた。
単純に首を狙うだけの一撃。
バルザックもそれに対応しようと攻撃を返してみるものの、バルザックの攻撃は相手に致命傷を与えて殺すにはあまりにも遅かった。かわりにフィンの一撃は速く相手の命を奪うには十分なスピードがあることがわかった。
ゆえにバルザックは逃げるように魔法を使って吹き飛ばそうとした。だが、その魔法が不発に終わる。
「何?」
何が起きたの変わらないバルザックの首にフィンの刃が斬りこまれた。
バルザックの意識はそこでいったん途切れた。
空の勇者、天空の舞姫。
この試合を機にフィンはそう呼ばれるようになった。