勇者ギルド in ブリウォーデン勇王国 12
「さてさて、本気出してよいのかわからんな」
エイルは少し困ったように言った。対戦相手は主が負けるように言われたフィンだった。
「どうします?」
「少し本気を見せますか」
エイルがそういうとエイルの体がビリビリと電撃が走っていた。
「それが精霊纏い」
「一瞬だけだ」
エイルの姿が消えた。だが、フィンはその殺気を読んで攻撃を防いだ。
それを見てエイルはほほ笑んだ。
「見事」
エイルの攻撃を防ぎ、雷撃を避けるように背後に周り、エイルの後ろから剣を下ろし、エイルの首に大剣を当てていたのだ。
観客には閃光と轟音が走った後、エイルがフィンの前に立ち、フィンがそのエイルの背後をとった形になっていた。
何が起きたか誰もわからなかった。だが、それに勝利したのはフィンであることは間違いなかった。
「一回戦相手がよかったな」
「ですね。あの方とやらなかったら、こうなってませんでした」
二人はゆっくりと離れ、エイルは膝をつき言った。
「降参です」
観客たちも何が起きたかわからなかったが、あの一瞬でフィンがロック殺しの英雄エイルを見事に倒したのだ。
エイルの動きも常人の目には捕えられなかったし、それを破ったフィンの動きも見事だったようだ。
明らかにその前に行われた偽物とは違う対決。この地点で誰が勇者の剣に相応しいのかは明らかになりつつあった。
「今回はリーダーよりも上に行けそうだ」
サミットは静かに言った。
「聖騎士様は随分と余裕だな」
「勇者ギルドでなければ、大抵は余裕だと思っているよ」
「あの方に勝てるとは思えないが」
「君らの将軍は別だよ。別」
サミットは苦笑いしていった。その姿が消えた。消えたように見えた。
ガンという鈍い音がして、サミットの盾を使った突撃を同じく盾で防いだのだ。
「大した体術だな。聖王国式聖拳技!」
そういいながら、サミットの力に押されることはなかった。それだけで、かなり魔力が錬られている。ちからなサミットに負けないだろう。
そんなサミットの背後に何かが立ち、剣を振り下ろした。なんとか、回避するものの回避先で足を地面がなくなり、大きく体勢を崩す。足元に人が丸々入れる穴が出来ていたのだ。
「な?」
そこにファイアボールが撃ち込まれた。サミットはそれを魔法障壁で防ぐ。
「やるな!」
サミットは思わずつぶやいた。そこに地面からいくつも礫が飛んでくるものの、サミットは一気に魔力障壁を円系に広げ、その魔力を食い散らかした。
「魔力無力化か!」
サミットは空いた穴から、向上した身体能力による跳躍で飛び上がると目の前の男をみた。足元は魔法がかけられないようにする。
「どうだい?俺のパーティーは?」
ニヤニヤしながら言った。
「見えない軍ではなく、一種の冒険者パーティーか。お前がタンクを務め、ヘイトをかい、風魔法による武器状攻撃、土魔法による有利地形の構築、炎魔法による攻撃、おそらく水魔法による対魔法をするつもりなんだろうな」
「正解」
サミットは自分で言いながらもなんて高度な魔法を絡めた戦闘技術だと思った。嵐の将軍を産んだあの地ならではの戦法とも言えよう。
騎士が魔法を使うなどありえない。そして、だが、風魔法を剣術のように扱う。
本来さほど四大元素魔法において火力の高くないとされている風魔法だが、火力が他の魔術と比べて低いというだけで、射程、発動スピードは速い方であり、短剣や矢よりも威力は高かったりする。
それを剣術などに応用し、魔法による剣術の再現。それが何を意味するのかというと、たった一人で複数人で行湧ければいけないことを行えるのだ。
一人の兵による多方向からの攻撃。対一、対複においてもこの技術が役に立つ。この技術を極めれば、一人で万軍もやぶることができるのである。
嵐の将軍のように・・・
ゆえに近衛騎士たちはこの技術を極めんとする者たちがあつまり、嵐の将軍のようなことができないので、別方向に進むものが出てきた。
その一例が見えない冒険者達なのだ。
「やるな」
サミットは感心したように言った。これにたどり着くまでどれほどの苦労を重ねてきたのか、サミットには理解できない。
馬鹿にされたこともあるだろう。侮蔑を受けたかもしれない。挫折を味わったのかもしれない。
それでもここまで完成させた。それに経緯を持つことができた。
「王に相応しいな」
「そうでもないさ。俺はまだまだ未熟だ。あの方と比べればな」
「けど、俺も負けれない。あいつやあいつらと並ぶためには・・・」
サミットはそういうと静かに気を練り上げた。
「見せてみろ」
「いくぞ」
サミットの姿が消えた。気が付けば、体が場内の壁に叩きつけられていた。一瞬だった。
「ば・・・バカだなあんた」
「時に愚直の方が強い時がある」
体内の魔力を一気に限界まで練り上げ、それと同時に体外にある魔力を貪るように体に取り込み、足と腕にその力をため、一気に爆発せて跳躍し、周りの魔力を食らいながら腕にため、敵にぶつかる瞬間、魔力を一気に開放した。
ただの突撃だった。だが、その突撃を行うためにどれほどの時間をかけ体に教え込み、そのスピードを高めたのか。
一瞬ともいえるスピードにパワー。すべてをかけた一撃ともいえる。
複雑なことを極める王国の流行とは乖離する技だった。だが、これは明らかにドラゴンや巨人などの巨体を持つ魔物に有効な一撃だった。
人を相手にするには大きすぎて無駄が多かった。ジャイアントキリングを目指した一撃。
「対一ならありかもな」
おそらく、全身骨折を起こしているだろう今の自分の姿を想像しながら、青空を見た。
時には大胆に攻めるというのも手と教えられた。負けてしまったが、これで強くなったような気がした。