勇者ギルド in ブリウォーデン勇王国 11
「あんたが勇者か」
勇者の剣によく似た大剣をもった男が言った。ネヴィルという名前の男だ。特に性などは登録者としては書かれていなかった。
ただ、聖女の従者の一人として今回出場することになっていた。
「そうだ」
本物の勇者の剣を握り締めながら、ゆっくりと剣を構えた。前回は圧倒的に・・・バカにされた戦いをしてきた。
前回のような意味の分からない戦いにはなってほしくない。ただでさえ、圧倒的に負けてしまった。それでもほぼ温情に違い形で上がってきたのだ。
正直ふざけるなという気分であった。
「貴様も俺を舐めているのか?」
「舐められたくなければ、その腕を見せてみろ」
「ふざけるな!」
勇者は間合いを詰めて剣を振った。勇者の剣を持つ前ならばできなかった速く、鋭い一撃だった。
それをあっさりと剣で止められた。そこで気が付く、目の前の勇者の持つ、怪力と魔力に・・・
剣を押し込むつもりが逆に押し返されていた。
「くっ」
後ろに飛んだ。それと同時に突風が吹きつけてきた。魔法かと思ったが魔力を放出した魔法とはいいがたいものだった。
それを強引に剣で止めた。そこにネヴィルは被せる様に切りつけてきた。正面突破を狙うかのような愚の一撃。
だが、正面で強風を受け止めたため、ネヴィルの剣を弾くための遠心力を得ることができず腕の力のみで、その一撃を防ぐことになる。
体重も移動スピードも乗った単純な一撃は勇者の剣を吹き飛ばすには十分な威力があった。自分の剣が自分の体に飛んでくるような失態が起きてしまった。
それを辛うじて避けるが、その隙を相手が見逃すはずがなかった。
当たると思ったその瞬間、風魔法を使ってなんとか不自然な横移動して避けた。ネヴィルの剣が空を切る。
勇者は風魔法で移動した後、すぐに空振りをしたネヴィルの体に一撃を与えるべく剣を振ったが、そのネヴィルの姿が消えた。
転移の魔法。
そんなことが頭の中に入ってきた。すぐに上をみたがそこには敵はいなかった。すぐに後ろを向いた。
眼前にネヴィルの剣が届いていた。勇者の剣が動いて、それの剣を弾いた。
自分で動かしたのではなく、勇者の剣が反応したのだ。
「さすが、勇者の剣」
ネヴィルは舌を巻いて呟いた。最初に上空に転移魔法を使い、すぐに背後をとるように転移魔法を使った。そのすべてに反応されたのだ。
勇者の剣に・・・
ネヴィルはすぐに距離をとった。
「今の転移の魔法か、すげえな。お前どれだけ魔力を持っていやがるんだ」
「そうか?前所持者にはその場でパクられたが?」
「はあ?そんな魔力を持ってねえよ」
そういいながら、焦った表情を浮かべていたのは勇者だった。ネヴィルは明らかに余裕が見えていた。
転移の魔法など高度かつ、魔力の消費が激しい魔法を二発使っても、ネヴィルの表情は全く変わらず余裕そのものだった。
「ざっこ」
ネヴィルは呆れたように言った。この程度、ネヴィルには序の口だった。
「なめんな!」
勇者そういって切りかかってみるが、ネヴィルの姿が消えた。
いや、そこで気が付いた。ネヴィルはいると思った地点の半歩横にネヴィルがいたことに。逆に切られて、切り返されていることに。
「幻惑?」
どこからその魔法を使われたかわからなかった。ネヴィルは攻撃をずらされたのだ。
勇者の剣すら察することができないほどのタイミングで幻惑魔法を使ったのだ。
視界を塞いできたアレスとは違った対応をしてきた。これほどの技術どこにで手に入れてきたのだろうか?
すぐにネヴィルから距離をとりながら、勇者の剣を構えた。そこにネヴィルから剣が飛んできた。空中で踏ん張りがきかず地面に倒れこんでしまう。
倒れこみながら、ゴロゴロと転がって何とか立ち上がり、殺気を感じて剣を止めようとしてやめた。
殺気が発せられたところにはネヴィルはいなかった。代わりに横に立って蹴りを放っていた。走りこみながらの蹴りだった。
その一撃に一気に吹き飛んでしまう。ゴロゴロと転がりながら立ち上がる。
フザケルナという気分になった。大衆の前でこうも何度も地面を転がるような恥ずかしい真似をさせられたのだ。
一回は自ら、次は強制的に。こんなことがあってもいいのだろうか?
自分は勇者である。
そう心で告げて、立ち上がった。
「どうした。そんなもんか?」
肩でポンポンと大剣を叩きながらネヴィルがいった。全く汚れていないネヴィル。
対して、何度も地面を転がり、ほこりだらけになっている自分。明らかに地を這っているのは自分だった。
「くっ!」
ネヴィルがいつの間にか間合いを詰め、突きを放っていた。その一撃に胸を逸らして避けた。
それからネヴィルは突きをした勢いを使い体を回転させて、足を払い勇者を転がそうとした。思わぬ一撃に対処することができず無様に転がる。
「うぐっ」
頭部をそのまま地面にたたきつける形になり、一瞬視界が霞む。だが、気合で立ち上がりネヴィルが何をしようとしているのか見た。
溝内に肘を入れていた。
鎧を着ていたが、鎧越しにその衝撃が伝わり、さらに体が木の葉のように吹き飛んで地面に転がることになった。
辛うじて受け身はとることができたので、ダメージはさきほどの足払いと比べるとなかった。お世辞にも綺麗とはいいがたい喧嘩殺法で来るとは思わなかった。
「フ・・・ザケルナ」
立ち上がったが、その顎に後ろ回し蹴りがストレートパンチのような軌道で入った(プロレスでいうファーストフラッシュ)。
倒れたのを見計らって、ネヴィルは少し距離をとった。
それからゆっくり勇者が少し立ち上がろうして、膝をついたまま上体をあげたところに走りこんで、上から頭を踏みつけて地面に顔面を叩きつけた(プロレスで言うフットスタンプ)。
そして、勇者の頭を踏みつめたまま、ネヴィルは言った。
「おっと、体術を間違って使っちまったぜ」
審判の方を見た。
「これは反則だよな」
ネヴィルは大剣を地面に突き刺し、嬉しそうに言った。
「負けでいいや」
それを聞いて審判は目を点にしてからはっとして、尋ねた。
「降参か?」
「それでいいや。俺には相棒がいるしな」
ネヴィルはそういうとゆっくりと歩き出した。そこには痛みなどで動くことができない勇者が残った。
屈辱的な勝利だった。これほどの屈辱があるのだろうか?
勇者はその場で悔しそうな声を上げた。ネヴィルはその声に振り替えることなく去っていった。
「勝者・・・」
その勝鬨が上がるころにはネヴィルは退場していた。ブーイングの嵐が会場に響き渡っていた。
その声が誰が勝者なのか、明らかだった。