勇者ギルド in ブリウォーデン勇王国 10
「見えない軍団を使えるものを出してきたか、義兄もだいぶマジだね」
嵐の将軍を義兄に持つ、神の薬師はそう呟いた。
「そうかい?」
そんな義弟の背後に義兄である嵐の将軍がいつの間にか立っていた。
「いたのか?」
尋ねると肩を竦めた。来る気は最初から来る気はそれほどなかったように思える動きだ。
「いちお、あいつは王族だしな。警備は必要だろう。それに王族として、名を売っておくこともいいことだしな」
「義兄さんが出る予定のはずでは?」
「勇者の剣なんぞ、俺が必要か?一人で万の軍を破れるんだぞ。俺個人の腕と軍団の腕を上げる方が俺にとっては大事だろ?」
「箔がつくのでは?」
「これ以上の箔がいるか?」
「・・・・確かに」
「だろ?だが、俺以外はそうはいかない。それが軍ってもんだ。俺も所詮は消耗品だしな。だから、俺並みの後継者がいる」
「それが彼と?」
「その候補だ。今回の件でうまくいけば、箔が付くだろう」
「王子がその候補とは・・・」
「まあ、あれが王になってくれれば、俺も楽ができるしな」
「むしろそっちが本命でしょ」
「バレたか」
「バレバレ」
「まあ、俺も武功を上げすぎたし、引退したいな」
「それは他国が許さんでしょ」
「まあなあ、危ない国が多いももんな。聖王国とか、勇王国とか、海王国とか・・・」
「まあ、うちみたいな田舎の小国とは違うんですよ」
「国土だけはひろいんだけどな」
「本島じゃないし」
「しゃあねえ、かつて暗黒大陸とか呼ばれた地だしな」
彼らの出身地は暗黒大陸や竜の庭などと言われ、光の戦乙女の契約者の子孫が立てた王国であり、中央大陸と呼ばれている大陸と比べるとまだ歴史が新しいのだ。
「まあねえ」
「しかし、バルザックか、あいつはあぶねえな」
「義兄さんの予感は当たるからな。注意はするように言っておくよ」
「そっかそっか」
そんなうれしそうな兄横顔をみて、神の薬師と呼ばれた男は嫌なものを感じた。
「あれは魔王なのかね」
「そこまではわからないけど、先ほどの試合を見る限り、ただものじゃないね。あいつの対応も明らかに違ったしね」
「現役の魔王と元魔王の対決といったところか、何かしたようにも見えたな」
「試合を見たのかい?」
「なんとなくだがね。あのバルザックはあれをしなければいけないほどやばいのか?」
「さあねえ。彼がどういうつもりであれをしたのか不明だけどね」
「いずれにせよ。準決勝でそれが明かされるか」
「まあ、そういうことになるだろうねえ。そういえば、義兄さんの手駒の次の相手は聖騎士だけど、義兄さん的にはどっち勝つことになってるんだい?」
「まあ、ざっと見た感じだと、あの騎士には難しいだろうな。お前があれを仕込んでいるだろうしな」
「当然。けど、義兄さんの手駒も業を仕込んでいるんでしょ」
「効率が違うしな。元々の腕が立たないと厳しいぞ」
嵐の将軍は肩を竦めて言った。あまり勝利を確信していないようだった。
「お前らのつまらん劇に付き合う身にもなれ」
「仕方ないこれも彼女の試練だしね」
「勇者か」
「ああ」
「だりぃな」
「仕方ない。それが勇者だしね」
神の薬師はのんびりと呟いた。嵐の将軍はそれに特に反論しなかった。