僕と勇者の出会い 9
僕と勇者とのであい 9
しかし、世の中には例外が存在する。
その空間を壊そうする礼を失った男が・・・
「ふざけるな!・・・・・・貴様など剣がなければただのガキなんだからな!」
フェイルズはそう叫ぶと凶刃を振るうべく高く飛び上がり、その悪夢の元凶である勇者に剣を向けて振った。
『光の戦乙女が告ぐ、我の祝福を受けた剣よ。真の勇者の前に顕現せよ!』
何処からともなく、そんな女性の声が響き渡る。薬師の契約したヴァルキリーにそう宣言させた。
その文は薬師が適当に作ったものであるが、反応する感触はあった。
二人の祝福するようについでに登場させたら演出的にいいかなと思って、ヴァルキリーと念話をしていたら、勇者の剣を呼べるぞとか言われたので、アドリブでやらせたのだ。
ちなみに所持者の元にヴァルキリーが念じるだけで飛べるらしいのだが、演出的にしゃべらせているのだ。
ついでにヴァルキリーには勇者アレンの背後で具現化して周りに見えるようにする。これも演出だ。
キン。
という金属音と共に聖剣が勇者アレンの前に突き刺さっていた。
その突き刺さった聖剣が二人をフェイルズの不可視の刃から守ったのだ。
「バカな・・・戦乙女だと!なんでこんなところに!」
「契約者いるのか?」
「しかし、かの国でも契約者はまだいないと・・・」
「どこかに消えたらしいぞ」
「ある貴族が預かっているはず」
完全に周辺にいる貴族たちが混乱し、口々にそう言った。
この国にヴァルキリーがいるはずがないのだ。そして、ヴァルキリーと契約しているのは名のある騎士か貴族のはず。
それにかなう貴族がこの国には呼ばれていないと、ワルシャル国の貴族たちは思っていた。
まさか、目の前にいる庶民である夫婦がそのヴァルキリーの契約者であるなんて露も思わないだろう。
「勇者様の危機に戦乙女が来たに違いありません」
念話は妻にも聞こえたので、ゆえにノリノリでいう。
「これはまさに奇跡です!」
当然、夫も悪乗りしながら、ヴァルキリーの姿を消し、自分の影へ戻す。
「これは・・・」
アレスは少々驚きつつも、冷たい目で薬師の方を見た。
さっさと抜け、勇者という目で薬師は返した。
ため息と抜くと、剣を抜いて右手で構えた。それと同時にリーンと静かな金属音が響き渡った。
左手はトキアの右肩に手を置き、しっかり抱きしめている。
「どうやら剣は僕を勇者と認めてくれたようです」
まあ、誰かさんが呼んだんですけど・・・なんてセリフをいいたかったが、もちろん、言わなかった。
お膳立てしてくれた舞台から自分から降りるのもなんだと思っているからだ。
「ふざけるな!」
フェイルズは的を得ている発言に素直にそうだなと勇者アレスは思った。薬屋の演出の茶番劇だ。
フェイルズはそういうことを知ってか、知らずか、足に魔力をかけて飛び上がった。
5mある王宮のサロン天井ギリギリまで高く飛び上がっていた。スピードもたいしたものである。
それだけでかなりの体術の使い手であることがわかった。
そんなフェイルズに対して、アレスは剣を持ったまま興味なさそうな目線を送るだけだった。
フェイルズは驚きの表情を作った。
届いたはずの刃が届かなかったのだ。二人の男女が傷つくはずが一切傷ついていない。
「なるほど・・・こうすればいいのか」
アレスはそういうだけであった。
そんなアレスにフェイルズはそのまま飛び掛かった。その途中で剣をめちゃくちゃに振り回した。
アレスはトキアを守る様に背中を向け、剣をわずかに動かすだけだった。
「バカめ!」
フェイルズはアレスがトキアを守る道を選べば、勝てると思った。自分よりも大切な少女を守るためなら自分の身を差し出す。
そんな愚か者だと思ったのだ。
そして、アレスとフェイルズの剣がぶつかり合った。その瞬間、フェイルズの背中に熱いものがいくつも走った。
「何?」
背後を向いた。そこには誰もいなかった。
「正面にいるのに俺は誰に切られた?」
フェイルズはそのまま床に倒れこんだ。
「さすが勇者様!」
薬師は拍手師ながら言った。
「ありゃあ、俺以上の天才だわ。あんな簡単にできるもんじゃないんだけどな・・・しかも俺よりも上行きやがった」
悔しそうにだが、どこかうれしそうに薬師は呟いた。
それを間近で聞いていた妻は聞き返した。
「どういうこと?」
「俺の剣のように作った魔力吸収空間をあいつは魔法防壁の要領でやりやがった」
「なるほどね。あなた以外それを使える人みたことないから・・・驚きね」
妻は苦笑いを浮かべていった。
「私、大雑把だから不得意なのよね」
「まあ、できることとできないことはある」
いちお、妻には教えているが、理解というか性格的にできないものは仕方ない。
その代わり、そういうものがあるぐらいは感じるらしい。
「その代わり彼の視線の先、少し離れた場所に変なもんがあるくらいはわかるわよ」
「わかってしまいますか」
アレスは感心したように夫婦を見た。やはり、油断ならない相手であることは明白だ。
「まあ、アレス君の表情ではわからないけど、力の入り具合で察知できるかな。何かあるってくらい」
妻は嬉しそうに目を細め、体を少しく曲げて色っぽく言った。
「彼は何も感じなかったようですね」
薬師はバカにするようにフェイルズに言った。
フェイルズはゆっくり体を起こしながら、周りを見た。
アレスは未だに愛しの人の体を抱きしめて左手でよしよしと頭を撫でている。トキアは少しづつ落ち着いているようだ。
腰に片手を当てて寄り添った状態の薬師夫婦。ワインなどに手を出し始めている。
「お前らいったいなんだよ。俺をバカにしたいのか?なあ、お前らふざけてんだろ?」
フェイルズは自分に回復魔法を無詠唱で使いながら、起き上がった。
「くそが!」
フェイルズは剣を悔しそうにたたきつけた。カランと魔剣が転がる。
「俺だって、勇者の剣があれば、勝てたんだよ!」
魔剣が転がり、薬屋のあと元まで転がってくる。
それを薬屋は拾った。
「それはないな」
薬屋がそれを見つめて掲げると魔剣が強い輝きを放った。
「悪くはない」
その魔剣からは嵐のような気配すら漂ってきた。
「魔剣開放?」
貴族の誰かがそう呟いた。かつて失われた技術とされ、失われてから誰も使ったことのない技術。
魔剣開放。それは魔剣の中に隠された真なる力を発揮するための技術だ。
一部の貴族でしか伝えられておらず、庶民には使えぬはずの技術。それをその男はあっさり使って見せたのだ。
「あれ?魔剣ってはじめて?」
妻が驚いたように言った。
「初めて触る。ふむ、これはこれはおもしろい」
魔剣を触りながら、興味深そうに見つめていた。その魔剣の輝きが強くなったり、弱くなったりを繰り返していた。
「うちにも魔剣あったけど、触ったことないわね」
「うん。義兄さんと剣を打ち合うだけだしね。最近は」
その輝きを見つめながら、そういう風に返すと貴族たちは妻の方を見た。魔剣があるうちなど、大抵は貴族なのだ。
王から剣をもらうか、ダンジョンの迷宮で魔剣を手にいれるしかない。それがうちにあるということは冒険者のそれなりの腕の娘となる。
「一回ご招待したほうがいいかしら」
「それは結婚してからにしよう。魔剣は僕が受け継ぐわけにはいかないしね」
「そうね。私を娶ってからの、お・た・の・し・み」
妻はそういうと嬉しそうに夫に抱き着き、口づけを交わす。夫もそれに当然のように答えた。
「正直、魔剣より、君がいい」
その魔剣をあっさり放り投げ、そんな風に言った。
熱い口づけ後にそんなことをうれしそうに言っていくれる夫に対し、妻は飛び跳ねるように抱き着き、二人はそこでくるくる回った。
うれしさを体を使って表すように・・・
二人の足元は花畑で周りには美しい花びらが待っているように見えた。
そんな幻覚を見せられて、そこにいたものは不快感を示さぬものはいなかった。