勇者ギルド in ブリウォーデン勇王国 7
「お前がバルザックか・・・」
ゆっくりと両手に小剣を構えたシドが言った。シドの前にはバルザックが嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「魔王に連なるものか、その転生者といったところか」
「ほう、前世の俺を・・・」
「覚えがあるのか?」
「裏切者か」
「前世持ちにそういわれるのは初めてだぜ。思い出してくれたかい?荒木戸」
「思い出してくれたか、人間側に寝返ったかと思ったら、まさかあんなことをしてくるとはな」
「楽しかったな」
「嘘つけ」
シドは魔力を練り上げた。
「さすがだな。そこまで練り上げることができるとは・・・人の身でもう魔法が使えるのではないか?」
「今日は随分と饒舌だな。春明!」
「懐かしいねえ。お前にそうやって呼ばれるのは・・・あの頃はそうやって呼んでくれなかったな。向こうに行ってもな」
「人間の仲間になったと思ったら、まさか、勇者の側にいるとは、しかも直接乗り込んでくるとはな」
「魔王の方があの頃は強かったからな。それ以降、王竜の契約者や光の戦乙女の契約者、含め、人間の方が強いからな」
「時代が変わったな」
「魔王なんて、素人集団もいいところだからな」
バルザックが間合いを詰め、シドに切り込んだ。シドはそれを跳躍の魔法でよけた。
追撃に備えて次の回避用の魔法を唱えようとしたが、次は来なかった。バルザックは大剣を肩に担いで様子を伺っていた。
「レベルが違うな。あの頃とは?」
「数百年生きてるからな」
シドはバルザックを見つめて言った。シドはそのまま地面に着地した。
そこにバルザックが間合いを詰め、剣を振り下ろした。それだけであたりに爆風が吹きあれ、土煙があたりにばらまかれる。
「くっ」
辛うじてよけたものの、その一撃のスピードのけた違いに戸惑いを覚えた。
「あまい!」
バルザックは剣をさらに振り、シドに攻撃を当てた。シドの体が大きく吹き飛び、城内にある壁間で吹き飛ばされた。リングアウトがある勝負なら負けていただろう一撃。
そもそも、魔法で強化されたシドの肉体でなければ、体の一部が消し飛んでいただろう一撃だった。
「バケモンが」
シドは悔しそうに吐き捨てる。そのシドの前にバルザックはすでに立っていた。
その爆風を伴った強大な一撃が振り下ろされた。シドの体はミンチになるかと思われた。
だが、そうはならなかった。バルザックの一撃をシドの魔法防壁が防いでいた。バルザックは大きく目を見張った。
「ばかな。その魔力では・・・俺の攻撃を防ぐことなど・・・」
「へ!」
シドは小剣をバルザックの腹に突き出した。それをギリギリで回避し、もう一撃を仕掛けようとしたが、シドがもう片方の手で器用にクロスさせるように突きをした。
その一撃では弱かったのか、バルザックの鎧を碌に傷つけることはできなかった。
「堅!」
シドは文句を言って、すぐに離れた。そうしなければ、バルザックの一撃に巻き込まれていたからだ。
圧倒的な力の一撃。強大な魔力を体に施すことによる、高速の一撃とそれに伴う暴風。それがバルザックの真の力である。
「諦めろ。お前では俺には勝てん」
「どうかな」
シドはそれでも余裕を崩すことなく言った。
「すでに体力を回復している?無詠唱で治癒魔法か」
「いいや、ただの活性化魔法だよ。身体のな。これくらいは治癒魔法なんてなくてもできないとな」
「新陳代謝をあげることによる体の回復?ふざけているのか?」
「新しい魔法といいたいのか?そんなの以前の俺なら余裕でできていた。それを思い出しただけだ」
シドはそういうとゆっくりと構えた。
「だが、そんなものをつかないと俺には勝てないとはなさけないな」
そんな姿を見てバルザックは嘲笑した。バルザックからすれば、それほどの高度な魔術を自らに施さなければ、自分に勝てないということに元魔王として何とも情けないことか・・・
「にべもない。だが、文句ばかりは言ってられないんだよな」
シドも魔王に生まれたなら、バルザックのような感想を浮かべるだろう。だが、幸か不幸か、シドは人間として今回は生を受けた。
魔王時にもらえるようなチート能力はいっさいもっていない。身体的なスペックもあの頃と比べたら、くそなほどだろう。
だが、あの頃とは違うこともある。フィンのことも含めて、シドにはあの頃にはなかった仲間というものができた。
師匠のような人間もいる。
「わりぃな。俺も道を示す必要があるんだよな」
フィンがこれを乗り越えるために、シドは生まれてきたようなものだと思っていた。あの頃の借りもソレで返すことができる。
「ふざけるな」
「偉くなったなお前」
バルザックが間合いを詰めて切った。そこで驚くべきことが起きた。
バルザックが放つ暴風の中をシドは特に問題なく動けていたのだ。よく見れば、その手に小剣はなかった。
「何?」
「ちなみに俺は今回、ジョブは魔法使いなんだよな」
シドは剣を掻い潜り、暴風に体全体を覆った魔法障壁で耐え、バルザックの体に振れた。
バルザックは一瞬視界が揺れるような気がした。同時に体中から力が抜けていくような気がした。
「何をした?」
「さてね」
バルザックは剣をシドに当てた。シドの体があっさり吹き飛んで、地面に叩きつけられる。それから立ち上がって両手を上げた。
「降参だ」
シドは両手を上げて嬉しそうに言った。
「き。きさま・・・」
「わりぃな、仕掛けをさせてもらった」
シドは嬉しそうな笑みを浮かべて言った。
バルザックは苦々しい顔でシドを見つめた。おそらく、聖女クラスではないと解けない呪いの魔法の可能性がある。
そして、聖女クラスの人間が何人かいるが、それはすべて勇者、というか、フィンよりの可能性があった。
「お・・・おのれ!」
「俺からあんたへの餞別だ」
そして、何より問題なのが、バルザックの鑑定の能力でもよくわからない効果の呪いをかけられているのである。おそらく、まだ発動はしていないため、どういう効果なのかわからない。
しっかりと隠蔽された高度な魔法だ。
この魔法をセットしたいたため、シドの魔法による身体強化があまり強くなかったのだ。
かつて、最強と言われ、バルザックも勇者と協力して倒した魔王である。
そのセンスと技術はあの頃とそれほど差がないということだ。好きな女に花を持たせるためになどのための演出だ。
あの頃からそうだった。
そういう男だった。
バルザックはシドを見つめ、怒りの気持ちが吹きあがっていた。
憤怒の魔王としての誇りが奴を殺せとささやき始めていた。