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勇者ギルド in ブリウォーデン勇王国 6



「まさか、影の刃が負けるとはな」



 巨大な剣を持った男がゆっくりと歩き出していた。海王国では処刑人とも言われているカトゥランだ。


 彼は異国より招かれたVIPである。海王国の推薦でやってきたものである。


「いや、余計な手出しをし、殺されたのだから自業自得というものか・・・」


「そうですか」


 フィンはトールよりもらった勇者の剣(仮)を右手もったままやってくる男を見つめた。


「あまり関心はないようだな」


「アレスさんが負けるところが想像できません」


「そうか・・・あの男の実力を知っていると?」


「彼のいちお後継者ということになっています。ご指名も受けましたしね。ありがたいことに・・・」


「顔見知りであると?」


「顔見知りではないですが、師匠とはいいがたいですね。彼は独特の道を歩きすぎて参考になりませんから」


「なんだと?それは意外だ」


「まあ、師には困ってないのですよ」


 フィンは間合いを詰めるとカトゥランに剣を振り下ろした。カトゥランもそれをギリギリで躱し、逆にフィンの首を切り裂くべく剣を振っていた。


 フィンはすぐに下がって避けた。それは恐怖に囚われた人間のように焦っているようにも見えた。


「ギリギリでよけたか」


 カトゥランは静かに返した。フィンの頬を冷や汗が下たる。


 今の一瞬で実力差を感じてしまった。首を刈ることに一命をかけた一撃、それ以外には興味がないようなそんな一撃だった。


 切り込んで、まさかの相手からの切り返しだった。今の一瞬で自分との剣の腕の差を感じた。異質ともいえるほどの圧倒的な剣術を相手が持っていたのだ。


 剣術の知識をフィンは前世の分も含めかなり持っている方だが、それにしても圧倒的も言えるほどのカトゥランの腕だった。


 まるで自分の一撃を意に返さない、首を刈るためだけの一撃だった。しかも、それを全力というよりも余裕をもっての返しだった。とんでもない男だ。


 処刑人。


 首を刈るためだけに研鑽を積んできたことがよくわかった。わかってしまった。


「恐ろしい腕ですね」


 フィンは呼吸を整えるために言った。戦いの際中にこんなことをいうのはおかしいのかもしれないが、これも一種の戦術である。


 だが、相手も様子を伺うためにそれに乗ってくる。容赦なく攻撃を仕掛けてくる可能性もあったが、そういうことは今回はしなかったようだ。


「見込みはある。だが、それもここまでのようだな・・・いや、蘇生があるから死なないというか、死ねないか」


「ですね」


「ならば、遠慮などはいらんな」


「そんなつもりなさそうに見えますね」


「異国故に好きにさせてもらう」


 カトゥランが間合いを詰める。そのスピードもかなりの速さである。


 その勢いを利用した首への切り上げの一撃、徹底した首を刈ることへの執着と意地。フィンは来るとわかっていてもその一撃を止めるのがやっとだった。


 さらなる切り返しの一撃が飛ぶ、しゃがんで避けてみるがカトゥランはその勢いのままフィンの首をはねるべく。持ち替えての振り下ろす一撃。その姿はまさに罪人の首を撥ねる処刑人だった。


 フィンは対面のことを一切気にせずぐるりと体を回し、剣で受け止める。トール特性の剣のなければ折れていたと思われる一撃だった。


「くっ」


「それでは届かんぞ」


 カトゥランは嬉しそうに笑みをこぼしていった。カトゥランは剣を振り上げたが、その瞬間、フィンは魔法防御壁を張ってカトゥランを動きを止めた。


「ほう。小技ができるとは・・・。竜王国の使い方だな」


 カトゥランはゆっくりと後ろに飛びのいて、少し距離を置いてフィンを見た。


「これくらいはできないと・・・」


 フィンは立ち上がりながら返す。その表情には余裕はない。対して、カトゥランにはその余裕があった。


「おもしろい。さすが、勇者」


 カトゥランはそういうとその姿が消えたように見えた。動きに緩急をつけることによって、消えたように見せる技術。


 長年の研鑽を積むことによってできる高等な技術。魔法のような技術だ。


 カトゥランの横薙ぎがフィンの首に伸びた。フィンはすぐさまに剣を受け止めた。


「いい剣だ」


 カトゥランはそれだけを言って、フィンの背後に回るように動き、さらに首を撥ねるような一撃を放った。


 その一撃をフィンは後ろ振り返って止める。あと数秒遅かったら首を撥ねられていただろう一撃だった。だが、少しだが太刀筋が目で追えている様な気がした。


 フィンにはカトゥランの動きがしっかりと予測されていた。


 紛い物ではあるが、勇者の剣の基本的な機能は抑えていた。つまり、相手の能力の鑑定。


 カトゥランのその剣撃は“処刑人の剣術”という能力によるものだ。否、正しくは技術が千年以上の研鑽を積むことによって異能と呼べるものになったものだ。


 だが、異能となっているのならば、それは勇者の剣の鑑定の対象となっているということであり、読み込むができる。


 読み込むこと出来れば、体現もできる。


 鑑定からの体現。それが元勇者のアレスが得意としていた動きだ。普通の勇者の所有者、フィンのようなかつての勇者は体現をするというよりは、その異能の対策としてしか使っていなかった。


 それが特別であり、アレスが歴代の勇者として最強とも言われた所以でもある。


 フィンもアレスと同じように体現をしてみせる。ただ、今回は魔力などの資質などは関係ない。単純な努力の結晶である。


 それをあっさり体現してしまうのは非常に割るような気がしたが、これは戦いであり、これから先に必要となるものでもある。

 

「ごめんなさい」


 フィンは静かに謝るとカトゥランのようにしゃがみながらカトゥランの首を落とすような一撃を放った。


 その一撃は体をひねるだけでよけて見せた。それから二人は距離をとった。


「ほう。殺しに来たか」


「あなたを超える」


「越える?貴様のような小娘が?面白い」


 前世含めて明らかにカトゥランの方が人生経験が長いだろう。だが、そんなことは関係なかった。


 それすら埋めてしまう力が勇者の剣には本来あるのだ。その力も今は限定的だが・・・


 二人は近づき、剣の打ち合いが始まった。激しい火花化が散り、それが10度繰り返すと・・・


「武器の差か」


 カトゥランはそういうと大剣を捨てた。


「負けを認めよう。若人よ」


「ありがとうございました」


「またいつか死合おう」


「はい」


 そういうとカトゥランはフィンに背を向け出口ゲートに向かって歩き出し、そのまま静かにゲートを通って退場した。


 フィンはその姿を見て静かに礼をした。



 こうして、新勇者フィンは一回戦を突破した。



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