勇者ギルド in ブリウォーデン勇王国 5
「燃えるな」
ラプサムとガルドルの二人は向き合うように立っていた。その状況に思わずガルドルが呟いた。
二人はまさか一回戦で当たるとは思ってもみなかった。
「俺たちが初戦でぶつかるとはな」
ガルドルの言葉に答えるようにラプサムが返した。
「まあ、俺的には勇者の剣なんてどうでもいいんだが・・・」
ガルドルが体内の魔力を練り上げていく。ガルドルの肌が赤く染まり、さらに体の周りから炎のような紅い光が発せられる。
「俺も正直どうでもいい。だが、お前らには借りはかえなさいといけないといけないと思っていたからな」
そう答えたラプサムの体からも白い煙のようなものがふわふわと体から出てくる。
「借りか」
ガルドルの口から出た言葉に思わずラプサムは肩を竦め、あまり心当たりがないような空気を出す。
「わかっているだろ?」
「俺はお前に感謝している。面白いものが思いついたからな。今日はその返礼のつもりだ」
「無視か。随分と偉くなったなお前」
「それはこっちのセリフだぜ。ガルドル」
ラプサムがそういうと同時に二人の周りの気圧が高くなる。それを見計らって、鐘の音がなる。
ラプサムの周りには白い霧のような揺らめく白い炎のようなもの、ガルドルの周りには紅に近い色の炎が体から出される。
ガルドルは“炎身”というものだ。対するラプサムのそれもガルドルの“炎身”のようなものに似ているが色が違った。
いや、足元が霜に包まれる当たり、冷気のようなものらしい。
「とんでもないな。“炎身”に魔力が足らない分を逆側にベクトルを変えることによって、“炎身”の逆のものを生み出すなんてな」
「驚いたか?」
「おもしろい。だが、猿真似になるなよ」
「言ってろ!」
二人の姿が消え、白と赤の軌跡が闘技場内に広がっていた。花火を見ているように反発をし、火花を散らしていた。
場内は炎で燃やされるが、霜に覆われるかに別れ、二人が火花を散らせるのだった。
「やるな。今の俺の炎身と打ち合えるなんて、お前くらいなもんだ。ラプサム」
「そいつは光栄だ。ガルドル」
時間にして10秒も満たない間に二人の体からは玉のような汗がでていた。激しい剣の打ち合いのようなものがあったのだろう。
その余波が会場の所々で見られた不思議な現状だったのだ。
「うれしいなぁ。行儀の悪いあんたが返ってきてくれて」
「そうかい。なんとなく、荷物が降りたからじゃないのか?」
「俺が背負わせたってことか?」
「さあな」
「こっからはすげえのを見せてやる」
「ほう」
「行くぜ」
ガルドルはそういうとその体がふわっと浮いた。そして、その背後に見えるは赤い翼。
「運よく、不死鳥と契約した」
「おいおい、マジでとんでもない勇者だな。お前、その契約も、勇者の剣もいらねえだろ」
「まあ、さっきの打ち合いであれでは勝てないらしいからな。だからみせてやる。俺のとっておきを」
「うれしくないんだがな!スノー!」
ラプサムはガルドルを見上げながら、巨剣を大地に突き立てた。そのとたん、大地から一人の豪華なドレスをきた女性が姿を見せた。
『フェニックスか。面白い』
その女性が内を開けて、風と吐くとラプサムを中心にブリザードが吹き荒れる。
「契約したのか?」
「友人関係を結んだだけだ。お前らのように魔力は共有されていない」
「魔力を共有しなくても勝てるとでも?」
「まあ、見てればわかる」
「ふざける・・・っ!」
ガルドルは言いかけて息をのんだ。いつのまにか、空がいつもよりも暗い気がした。あたりがうっすらと暗いのだ。
同時にキラキラとダイヤモンドダストが漂い始めていた。
「強力か、そんなもので惑わされると?叩き潰す!」
ガルドルがそういうと剣を振り下ろした。その途端、竜巻が巻き起こった。炎によりすべて氷により消され、ブリザードが竜巻になり、空に飛んでいった。
「無駄だ!」
ガルドルが言った後、周りを見た。正確には自分の体を見つめた。
いつの間にか銀色の鎖がガルドルの体を包み込んでいた。銀色の鎖がガルドルの力を奪っていくのがよくわかった。
「これは・・・」
「止水の鎖。魔法をかき消し分散させ、封じる鎖だ。まさか、お前がフェニックスと契約しているとはな」
フェニックスは精霊の中でも、一部では神如き信仰えるほどの高等な精霊である。それ契約してるとは思わなかった。
どれほどの試練を乗り越えてきたのかラプサムにはわからないが、相当な苦労を積んできたことだけはわかった。同時にこの結果が残念でならなかった。
「まさか・・・さっきのダイヤモンドダストはこれを隠すための・・・」
「そういうことだ」
「お・・・お前」
「すまんな、もっている武器の差が出ちまったな」
ラプサムが指を振って言った。
「くそ・・・」
「俺の勝ちだ。ガルドル」
「今回は俺の負けだ。ラプサム。次はこうはいかない」
「次がないことを願うぜ。ガルドル」
ラプサムは苦笑いを浮かべた。
「氷身を使って、さらに鎖まで使わせるのはお前だけだ。その点は霧の勇者よりも強いぞ」
「あの怪物よりも強いということがわかっただけでも良しとするか」
ガルドルは少しだけ不満そうに、そして、楽しそうに返した。
「お前は・・・いや、おかえりというべきか、ライバル」
「ライバルか・・・つうか、どんどん人間やめてないか?不死鳥ってことは不死だろ、お前」
「それはそれに勝った奴が言うセリフではない」
「違いない」
二人はそういうとしばらく笑いあってから、ラプサムは鎖を解除し、右手を上げて退場した。
ラプサムがガルドルに勝利した瞬間でもあった。
そして、それが同時にガルドルが“不死鳥の契約者”ということが全世界に広がり始める瞬間でもあった。