勇者ギルド in ブリウォーデン勇王国 3
「ふざけるな!」
勇者は文句をつけた。
「てめえが出るのは反則だろ。アレス」
「そうだね。まあ、これは警告だよ。この国へのね」
「何?」
「フィンへの不正があった場合。国の意地のために俺を襲ってきた暗殺者と同じ末路を辿りたくなければ、襲ってこないこと、と俺が今はもう勇者の剣が必要ないことを示すためのいい機会だからね」
「はあ?」
気が付けば、あたりが霧に包まれていた。視界が完全にふさがれていた。
「これは・・・」
勇者の剣が警告を出す。それに反応し、後ろを向いてその一撃を止めた。不可視の刃だった。
だが、足元から黒い刃が飛んできた。影で出来た刃だった。それは何とか逃げる様に後ろに下がってよける。そこに上から刃が飛んできた。
剣を掲げそれ止めた。だが、すぐに足元からいくつもの黒い影の刃が突き出してきた。
大きく飛び上がって、それをよけて見せた。だが、すぐに宙に浮かぶ身に不可視の刃が飛んできた。いくつもだ。
「ざけんな!」
勇者は文句をいうように叫ぶと周りに防御壁を張ってそれを止めた。その後、重力に身を任せ着地をした。
すると霧の中から一人の男が姿を見せた。それが姿を見せ、切りつけてきた。
アレスだ。
叫び声を上げたく案る衝動を抑え、その剣を止めた。その剣技はさっきとは違った素直な剣だった。踊るような華麗さもない愚直な剣。だが、その分、威力が高かった。
刀の一撃にも関わらず重い一撃だった。
吹き飛ばされないように耐えるのがやっとだった。
なんとか、その剣を弾じくと、アレスを睨みつけた。だが、目の前のアレスはすぐに下がってその身を霧の中に隠した。
この霧がアレスが生み出した霧で感覚を同調させているので、アレスは目に見えなくても、霧が相手の位置や動きを教えてくれるらしい。
そんな情報が勇者の剣が教えてくれた。
この霧を維持できるのも、アレスが泉の精霊と契約しているからで、勇者にはできないことらしい。もしも、同じように対抗した場合、一瞬で全魔力を失う事態になるらしい。
親切にそんなことまで教えてくれた。
魔力吸収する空間を俺も作ればいいという思いを勇者は巡らせるが、元々アレスの霧にもその力が混ぜてあり、訓練をしてない勇者にはできないらしい。
ふざけるな!絶望的な回答が頭の中に入ってきた。
万能と言われていた剣が、何でもできると言われていた剣がここまでできないとは知らなかった。
「その剣は全知全能であるが、それにも訓練や慣れが必要だ。そして、自分のスタイルを産むためにはある程度必要になるだろうけど・・・」
前の方から、聞こえた声が突如上から聞こえるようなった。
「極めることはできない」
勇者は上を向いて、勇者が上から飛んできたそのひと振りを止めた。
同時に影の刃と不可視の刃が襲ってきた。それもそれぞれ四方からだ。回避する選択肢などもなく、切りつけられた。
そのまま、ゆっくりと倒れた。
「まあ、こんなもんだ」
アレスはゆっくりと勇者を宙で刀を押して、離れ、地面に着地すると静かに呟いた。
霧がすでに一瞬で消えてなくなっていた。観客からすれば、一瞬霧が現れたと思ったら、数秒後には霧が晴れ、傷ついた勇者がアレスの前に倒れていたということになっていた。
誰もが、瞬時に悟った。
本物の勇者と偽物の勇者というもの差を・・・
「俺は本来、出場権がないからね。ここで棄権させてもらうけど・・・君に優勝ができるとは思えないが、まあ、頑張ってくれ」
アレスはゆっくりと近づいていた。
「ふむ、最低限の防御機構もこの体たらくはではね」
アレスがそういうとゆっくりと一人の少女が駆け寄ってきた。
聖女であるセイラである。
「さすが、アレス様。トキア様とネヴィルがいなけらば、あなたのお嫁さんになりかかったですわ」
「御冗談を・・・王女様」
セイラの世辞を聞いて、うやましくアレスはお辞儀をした。
セイラが近づいて、偽勇者の体に触り、その体に魔法をかける。蘇生の魔法である。
「これで済みましたわ。恐ろしい方」
「そうか?」
「ええ。けど、それもトキア様のためと思えば、すばらしいわ」
「さて、どうだろうな。俺は好きに行きたいだけなんだがね」
アレスは肩を竦めるとゆっくりと歩き出した。その歩みを止めるものは誰もいなかった。
それを聖女は嬉しそうに見つめていた。それから呟く。
「この方はどうなるのでしょうかね」
それから偽物をみた。それはほとんど動くことはなく、気を失っていた。致命傷を受け、その後、蘇生の魔法を受けたのだ。
そう簡単に動けるものではなかった。