勇者ギルド in ブリウォーデン勇王国 2
「アレスには死んでもらった。この顔は頂いたものだ」
衝撃の言葉があたりを包み込んだ。影の刃というダークエルフがそんなことを言ってマントのフードを外しながら言った。
やたらと長い手足。異形ともいえる姿。それを見た観客たちが一斉に息をのんだ。明らかに既知のアレスとは違った姿である。
オープニングマッチともいえる勇王国の勇者と海王国の影の刃との一戦が始まったとたん、そんな言葉がでた。
「ふざけるな!」
その美しいとも言われるルックスが無残なものになっている。その目はどこかうつろである。
それに応対していた男は焦りのような表情をしていた。その手には“勇者の剣”が握られている。勇王国から与えられたものだ。
何故か、彼だけがその剣の使用を認められ、それを使っているのである。
影の刃は黒い刀身の刀を握り締めて、ゆっくりと近づいていった。
「貴様!」
勇者は剣を握り締めて構えをとった。力が流れてくるような気がした。
すると、影の刃が姿が消え、いつのまにか勇者の前に立っていた。黒い刃が閃いた。
影の刃的に言えば、一撃死のはずの首への切り上げの一太刀だった。だが、それをあっさり勇者の剣が止めていた。
「死なぬか!」
同時に影の刃の影が勇者の影に触れた。だが、そんなことに観客のほとんどは気が付かない。いや、対戦相手の勇者ですら気が付かなかっただろう。
だが、勇者の剣はそのことに気が付き、勇者に警告を出した。
「?」
「捕まえた」
影の刃は少し下がってもう一度、切りつけようとしたが、勇者がそれを受け止めた。
「ほう」
すぐに後ろに下がった。勇者の額から汗が流れ出る。そこに影の刃の足元から多数の黒い狼が飛び出し、勇者に襲い掛かった。
それをすべて勇者の剣が切り裂いていった。
「どうだ。これが勇者の剣の力だ。これがあれば、俺でも勝てる!」
勇者がそんなことを口にした。
それをみて、影の刃は切りつけるため、前に出た。
「いくらっても、俺には効かないぞ!」
勇者は強気に言った。それから、飛んできた影の刃の剣を止めた。影の刃はその細い刀で勇者の剣と打ち合いをした。黒い刃が踊るように切りつける。
その剣速に重くて大きい両手剣の勇者は必然的に防御寄りになる。
攻守が変われば、一気に両手剣で叩きつけれるはずだが、そうはさせない。だが、勇者も両手剣になれたもので、ほとんど足を動からさず、影の刃の剣をさばいていた。
「俺はここから動いていないぞ。その程度か!」
「うるさい男だ」
影の刃はゆっくりと離れながら言った。
「罠にかかってるぞ」
「何?」
勇者は足元を見た。気が付けば、足に黒い手のようなものがまとわりついていた。
「なんだと?」
「この程度か」
影の刃の姿が消えた。
「っく!」
ガキンという音がして、黒い影が勇者の周りから吹き飛んだ。
「はあはあ」
勇者がひざをついた。
拭き取んだ影がゆっくりと立ち上がる。そこには異形の姿はなかった。そこには白い鎧を着た美形の男が立っていた。
「ふう、さすが勇者の剣だね。強制的に防御壁を周りに張って防御するとはね」
「アレス・・・てめえだったのか」
「そだよ。ちなみにさっきまでのスタイルは影の刃の戦法を俺なりに変えたものだよ」
「・・・・・・」
「はじめまして、勇王国の勇者。そして、僕が故郷を出る原因になった人」
「はん。こいつがあれば、俺はおまえにも勝てる。さっきのだって無理くり・・・」
そこで勇者は気が付いた。さっきのスタイルは影の刃のスタイルだった。それをあっさりやってのけて見せたのだ。
「天才・・・」
「これくらいはできないと、その剣の力は出し切れないよ。君は剣に引っ張られているだけだよ」
そういわれて、勇者は剣を強く握りしめた。
「ふざけるな!」
一歩踏み出そうとして、下がった。
地面に切り込みが入った。それはアレスが放った不意打ちの刃。それを勇者の剣が警告して、それに勇者が反応して下がったのだ。
「残念よけられたね」
「ふざけるな」
勇者がお返しに放った。不可視の刃をアレスは特に動くようなこともなく、防御壁で防いだ。
魔力を吸い取る空間を前に置いた防御壁は不可視の刃をあっさり止めて見せた。
「なんだそれは?」
初めて感じるものだった。恐怖に近いものがあった。魔力を吸い取る空間。それに触れたら、魔力を奪われ、相手の力にされる。
聖拳技の延長にある技らしいが、それを使いこなすまでにそれなりの努力と時間が必要となる魔力操作の技術だ。
「ふざけるな!」
「俺の力はこんなものじゃないよ」
アレスは笑顔を浮かべ静かに言った。アレスの体の周りから白い煙のようなものが漂ってきた。
“霧の怪物”が襲い掛かる。
勇者は絶望に近いものを感じた。