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集まる猛者 in ブリウォーデン勇王国 7



「貴様を殺し、メルキス様に捧げるのだ」



 黒い布を纏った男が嬉しそうにほほ笑んだ。


「よくここがわかったね」


「この方は?」


 トキアはソファーの上で寄り添っているアレスに尋ねた。興味があるというよりは話題作りのために尋ねたように見える。


 さほど興味はないという感情を表情に一切隠すようなことはしていなかった。


「メルキスというダークエルフの王の使いのようだね」


「あら、海王国の方々なのですね」


 海王国とは王国ということになっているが、海賊国家とも言われ、世界中の国々に海賊を行為をしているならず者の国家なのだ。


 ただ、どこの国も国としては認めていない。だが、その国力などを鑑みて、一般的な民衆の認識としては国家となっている。


 無論、そういう認識の貴族も決して少なくはない。トキアも元王女なのだが、かの国にはそういう認識をしている。


「何故ここに来たんです?」


「いっただろ?貴様を捧げるためだ」


「なるほどねえ」


 トキアは静かにほほ笑んだ。


「ここで貴様らを殺・・・す?」


 気が付けば、部屋が煙のような白い霧に包まれていた。足を踏み出そうとするとピチャと足元から音がした。


「?」


 ただの部屋の一室にいたはずなのに、どこかの沼に紛れ込んだような気分になった。


「馬鹿な・・・」


 転移の呪文の存在を知っているが、それで移動したような気がしなかった。同時に足が何かに掴まれたような気がした。いや、掴まれていた。


「いったいいつの間に」


 足元を確認するとそこには黒い触手のようなものが足に絡みついていた。


「く」


 暴れるとすぐそばの壁にぶつかった。感触的には宿屋の壁と同じだった。それが移動したわけではなく、いつのまにかどこかの沼に紛れ込んだと錯覚させるほどの泥水が足元に広がっていたのだ。


「泥使い?」


 そんな存在や魔法は聞いたことはなかった。泥を発生させる魔法なんて存在を聞いたことがなかった。


 森を呼ぶという魔法ならば、聞いたことがあるが、この魔法はそれとは明らかに違った。一気に泥の沼が展開された。


 そして、その泥が触手となり、足に絡みついたのだ。おそらく、先ほどの霧はこの泥の展開を気が付かせないための目くらましだったのだ。


「なんてことだ」


 つまり、どちらかが霧を展開し、もう一人が泥を展開したのだ。あのカップルにしか見えない若い夫婦がそれを行って見せたということだ。


 “影の刃”と呼ばれる海王国における最強の暗殺者である自分でも、こんな妙な魔法を知らなかった。


「くそが」


 不意打ちで襲い掛かるべきだった。あまりにも二人をなめていた。


 そのことを後悔した。ただの勇者の崩れだと思っていたが、はるかに強い戦闘力を持っていた。正直、メルキス王を破ったのを眉唾物だと思ってい部分はあった。


 だが、これほどの能力を持っているならば、メルキス王を正面から倒せる可能性があった。


「一般的にいう魔法ではないんだけどね。魔力は使うけど・・・」


 その声がしたあと、恐怖の戦慄を覚えた。目の前にリザードマンのようなトカゲの頭を持った醜い化け物がいた。


 それが口を開けたその姿はワニような咢になり、そのまま男を体に噛みついてきた。


 体が上半身から潰れていく感覚がした。



 それがその男の意識の最後だった。




「何故、その男がここに来たのでしょうか?」



 床が完ぺきに綺麗な状態になっているのを確認してトキアは目を細めていた。誇りもすべて、泥と一緒に消したため、宿の床が掃除をした後のようにきれいになっていた。


「悪名名高い“影の刃”だと思う。おそらく、俺を殺してボスに褒められるために来たのかな」


「この程度でアレス様に勝とうとはおろかですね」


「まあ、霧の展開にも泥の展開にも気が付かないくらいようだしね」


「たかが、知れています」


「僕らからしたらね・・・、そういえば、彼は出場者の予定だったはず」


「勇者を決める大会に?すでに出場者が決まっているんでしたっけ?」


「枠が決まっているからね。海王国からは2枠。その枠のうちの一つだよ。僕が参加させたからね」


「なるほど」


「しかも、彼は勇王国の勇者の第1回戦の相手だよ」


「なるほど・・・それはおもしろそうですね」


「だね」


 アレスは一枚の紙をいつの間にか手に取りながら、嬉しそうにもてあそんだ。


「その男の計画ではアレス様の死体の皮を被って出場するつもりだったようですね」


 それを横から覗き見ながら、トキアが訪ねた。不穏な文字などが書いてあっても、今の彼女は一切気にすることはなかった。


「随分な計画だけど、利用させてもらおうか」


「本気ですか?」


「あちらもそういう手を使うようだしね」


「目には目をといったところでしょうか?」


「そういうことになるかな」


「アレスの華麗なる腕を見せてあげましょう」


「そうだね。いい警告になるだろうねえ」


「ふふ」


 二人は嬉しそうに笑い、その距離が近づき、そして・・・

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