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僕と勇者の出会い 8

僕と勇者とのであい 8



「ご安心をおっとは剣では私には敵いませんが、それ以外では最高のものでございます」



 心配そうにする若いカップルに向かって、そっと矢面にたった夫の妻が耳打ちをした。


「あなたは何者なんですか?」


 勇者は逆にその妻に尋ねられた。


「最高の妻を目指すものですわ。それが私から夫へのせめてものの尽くしとお思いください」


 二人の間に何があったの言うのだろうか?


 それほどまでに二人の関係は重く深い。


「いったい何が・・・」


「夫に私のすべてを救ってもらいました。心も体も何もかもを」


 妻は嬉しそうに答え、そして、頬を赤くした。


「愛しのご主人様。私にとって・・・。それが私の夫です」


 目を瞑っていろいろと妄想して、うれしそうに体を振り振りしはじめた。


 さすがにそんな女性を見て、カップルも引いた。ここまで相手を思ってはいない。


「夫は負けません。力があろうとなかろうと、剣が無かろうとあろうとも」


 そんな言葉を聞いて、勇者ははっとした。


 妻の言葉が勇者には刺さった。拳を握りしめて、二人の戦いを見守った。


「随分と距離を取られるのですね」


「ふん、貴様には理解できんだろうな」


「なるほど」


 フェイルズが剣を抜いた。夫は剣を抜かずナイフを振って、返した。


 なんでもないナイフのはずが、フェイルズの体が切り裂かれた。服が破れ、血が大量に出る。




「バカな・・・」



 己の出血に気が付き、フェイルズは間抜けにもそう呟いた。


 無造作に剣を振り、その一撃で仕留めるつもりだった。しかし、逆にやり返されたのだ。


「何故で、俺が傷つく」


 夫はため息をついた。


「何故でしょう」


 彼は両手を広げてバカにするように言った。フェイルズは信じられないものを見るように薬屋を見た。


「ふっ、そんなの簡単なことです」


 妻はフェイルズを小バカにするように言った。


「あなたの剣は魔力を刃に変えて放つ剣。夫はその刃を受け止める剣を作り、それで受け止めてあなたに返しただけですわ」


「バカな俺はまだ剣を使ってないのに、俺の刃を受け止めただと?」


 フェイルズの驚きの声に夫婦は冷笑を送った。


「馬上の剣、ましてや竜の背に乗って使う様な剣が普通の間合いでないのは容易に想像がつきますわ。そして、不自然なほどの距離の取り方」


「随分と距離を取られるんですねと聞いたでしょ?」


「その後のあなたのセリフは傑作でしたね。理解できんですって・・・」


 クスクス夫婦は笑い出した。アレスも笑いを堪えている。トキアがやめなさいよと、袖を引っ張る。


「ええ、そんなの誰でもわかることなのにね」


「後はあなたが魔力を込めるような動きを見れば、わかります。それくらいの目はありますよ」


 夫はいい加減にしろという目で見た。


「あなたは立派な魔剣、夫はただの短剣であなたに勝ってしまったようですね」


 妻は現実は何とも残酷ですねと言いたげだった。


「ただの短剣だと?」


「まあ、ピンチと共に越えてきた短剣なので相棒ですけどね。ただの冒険者のおさがりです。しかも、これ折れた剣を打ち直して作った短剣です」


「バカな・・・」


「僕の血が染みついているので、僕の魔法の発動体として優秀なんですがね」


 それを聞いてフェイルズはそれが普通よりもボロい短剣であることに気が付いた。


「バカな。そんなもので私の剣が負けるなど・・・」


「僕は薬屋ですから、物に魔力を込めるのが得意なんですよ。ゆえに、この己の血で染められたことがあるこれは魔力が通常の武器よりスムーズなんです」


「それで受け止めて返しただと?」


「です。けど、簡単にできるなんて思わないでくださいね。これは僕が小さい頃から薬草作りで修業して得た賜物ですから」


 本当はもっと単純なことをしている。


 いちいち、剣で魔力を受け止めて、同じ力を形成して返すこともできなくはないが、面倒くさいし威力が間違いなく弱まる。


 実は魔力の真空状態、逆に魔力を満たさない空間を作ったのだ。魔力の濃度に濃さがあるように、逆に薄いよりも無しの先、吸収してしまう空間を作ったのだ。


 吸収空間に魔法を納め、フェイルズに向けて開放したのだ。。


 ちなみに魔法でそんなことを術者を傷つけることはない。ただ、多くの魔剣は術者を認識していちいち発動はしていない。


 力が弱いものが使用することが多いため、そういう条件は外れていることが多い。そのため、発動者であるフェイルズが傷ついたというのである。


 この魔力の真空状態、魔力吸収空間、魔吸はヴァルキリーとの戦いの中で、剣に魔力を包む技術を嫌ってほど鍛え上げられたため、魔力を吸収するような空間を作ってみたらどうなるんだろうという考えから生まれたのである。


 これで剣を作ってみたら相手から魔力を奪えるのではないか、もしくは負担になるのではないか、そこからの発想で生まれた技だ。


 その成果は見ての通り、魔剣のような単純な力からは魔力を吸収し、そのまま返せるし。


 魔法などは多少の威力をさげ、その空間に僅かな時間止め、その力を魔法防壁や身体硬化など補助に回せることが分かってきた。


 これらはまだ実戦レベルでは、まだ試したことはない。


「くそが!」


 とまあ、悔しそうにしているが、自分ができるのだからやり返されるのは当たり前だと思うのだが、油断しすぎのような気がする。


 フェイルズが王竜の契約者がどれほどの存在かわからないが、危機感をもう少し持つべきではないのだろうか?


 魔剣の存在を認識いるなら回避の一つや二つしていただろう。そんな様子はなかった。


 おそらく、フェイルズの攻撃の攻勢が魔剣を使用することが前提の攻勢なのだろう。決闘をする姿勢としては如何なものかと思った。


 魔剣を禁止とした決闘も考えられるだろう。


 というか、フェイルズの相手をしてきたものは彼が魔剣を堂々と使うことを知らぬか、そんなバトルばかりをしてきたせいで、あっさり対抗されてやぶられたということだろう。


 あまりにも稚拙としかいいようのない。


「ふむ。未熟者ながら言わさせていただきますが、まずは相手を観察し、どのような技を使ってくるか観察するべきです。そして、何よりも足りないのは危険が迫った時を感知する能力の欠如ではないでしょうか?」


 と薬師はナイフを腰にしまいながら言った。


「ふざけるな」


 フェイルズは切り裂かれた傷を抑えながら言った。


「不可視の魔力の刃如き、返された程度で傷を負う様な者が、王竜の契約になれるほど甘いのですか?この国はそれほどに人災不足ですか?その程度の者に渡すぐらいなら私が名乗りを上げましょうか?」


 周りを見回しながら言った。そこにいたものたちは一斉に目線を反らした。


「それにくらべ、勇者殿はまだ未熟者でしょうが、飛竜に落とされて全身打撲の状況で生きていた生命力には感服しますな。加えて、その死よりも恐ろしい痛みの中で意識があったのですから」


 と薬師が事実を述べた。


 そのとたん、ガタっという音がした。


 一同が音の方を向くと、トキア王女が顔を真っ青にして座り込んでいた。


 トキア王女は信じらないという顔で共にいた愛しき人を見つめた。


「うそ、あの人はそんな状態じゃなくて・・・」


 トキア王女の頭の中が混乱していた。それを勇者アレスは苦しそうな顔で見つめた。


「その状態から秘薬を使ったとはいえ、三日で動けるようになりました。さてさて、その勇者様とあなたどちらが怪物ですか?」


 フェイルズはアレスの状態を思い出し、悔しそうに歯ぎしりをした。それを助けた男をにらみつけた。


「そんな状況だったの!」


 トキア王女は絶叫に近い声をあげていた。彼女は薬屋が直した状態しか見ていなかった。


 事故直後の彼の様子を知らなかったのだ。そして、そんな怪我を負っていることなど、本人も気が付くはずがない。気が付くほどの余裕はなかっただろう。


 猛烈な痛みで。


 だから、本人の口かた説明することはなかったのだ。否、説明ができなかったのだ。


「何せ、無事が骨を探す方が大変な状況だったな」


 薬屋はぼそっと呟いた。


「アレス・・・」


 トキアはゆっくりと立ち上がり、アレスに抱き着いた。


「あなたが生きていて良かった」


「言ったかもしれないけど、僕はこうして君に逢えるだけで、触れ合えるだけうれしいんだ。こうして再び君と出会えたことが奇跡と思っている。

 神のお導きかもしれない。

 こんな未熟な僕を神が助けてくれたんだよ。だから・・・だから・・・」


 アレスは精一杯トキアに優しく言う。




 「泣かないで」




 アレスはトキアの頭を優しくなでた。


 泣かないようにトキアは涙を止めようとするが、アレスの事を思うと涙も嗚咽も止まらなかった。


 その光景を見て、二人の絆を感じぬものなどいなかっただろう。


 少女を少年は優しくあやすその光景に胸を打たぬものはきっといない、貴族だの庶民だの、関係なく。


 穏やかな時間が続く・・・


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