集まる猛者 in ブリウォーデン勇王国 6
「準備はできたかい?」
のんびりとした声がかかった。一人の少女とその隣にも少年がいた。
いや、二人ともつい成人になったばかりの歳の二人組だった。その二人が額などから大きな汗をかいているのは目の前にいる男のせいだ。
メディシン卿。世間ではその実力にあまり注目がいっていないが、二人から見たら世間からそう思われていないことが不思議なぐらいの実力の持ち主だった。
アレスとはまた違った方向で強かった。底なしの強さというものが感じた。どこまでも、いくらでも引き出しを持ち、それをすべて出し切れていない。
そんな深みのある強さを持っていた。
アレスと相対したときもかなりの化け物だと思ったが、こっちは負けずと劣らずの化け物である。
「いえいえ、足りないですよ」
勇者の剣をもった少女フィンは実力差がありすぎて、笑うしかないと言いたげな顔で言った。
「困るな。君はもっと強くなってもらわないとね」
「底知れねえバケモンに言われてもな」
一緒に修行を受けていたシドも嫌そうに言った。フィンを守るために強くなると言っていたが、まさか、二人がかりで全く歯が立たなかった。
この一か月確実に強くはなっている。だが、それでも全く届かなかった。
フィンも前世程度には強化されている。昨日まで全く素人だった女性だ。それだけでも大したものなのだが、勇者の剣の性質をよく理解しているのか、かなり効率よく鍛えられていた。
シドも前世の魔王としての能力をほぼ取り戻している。それでも、目の前にいる化け物には勝てないのだ。
その黒い鎧はあらゆるものを防ぎ、その剣はあらゆるものを斬り、そして、その魔法はどんな魔法使いよりも早く発動した。シドもそれなりに早い発動魔法、シド曰く、発想魔法を使うことができるが、それもあっさり止めて見せるのだ。
丁寧に拮抗呪文で打ち消してくる。
拮抗呪文とは、とある魔法に対して、真逆の効果を持つ魔法をタイミングよく発動させると、その魔法を打ち消すかなり高等な魔法だ。
そもそも、魔法が発動するまで普通はどんな魔法が唱えられているのか普通はわからない。それが思うだけで魔法が発動する発想呪文なら止める間もなく発動するはずだが、それすら対抗して見せる。
魔法使いとしてもかなりの化け物なのだ。加えて、フィンを寄せ付けない剣の腕。
勇者パーティー最強と言われるゆえんがよくわかった。とんでもない実力を持っていることは明らかだった。
しかも、絶壁から見下ろされているような気分になるほど、その実力差を感じ取ることができた。
「なんで、そんなつええんだよ」
シドがぼやくように言った。彼がそういうのも仕方ないだろう。それほどにメディシン卿は強かった。
「君たちも精霊と契約すればわかるよ。というか、魔王君はすでに精霊と契約しているんだろ?」
「確かに契約しているが、おれが振るえるのは魔王としての力だぜ。それ以上のことはできないよ」
「飽きらめたらそこで終わりだよ。人生は長く続く、その最期で諦めればいい。だが、今はそう簡単にあきらめるなよ。聖拳技も上がってきたのだろ?」
「確かにな。だが、あんたには全く届かない。なんでだと思う?」
「契約している。精霊の差」
「はっきり言ってくるな」
「君はそっちの方が好みだろ?」
「まあな」
「限界を設定しているなら、君はそこで終わりだ。君はかつての君の可能性もあるが、別の君の可能性もある。そのことを忘れるなよ」
「別の可能性・・・」
「そう、過去に縛られず。今を生きる君の力だ」
「俺の力・・・」
「それはあたしにも言えることですか?」
「もちろん」
「・・・・・・。私は勇者だ。だから、まだやめない。諦めたら、この剣を譲ってくれた人に悪いから」
「そうだねえ」
「とことん付き合うぜ」
「チャンと合わせるのよ」
「ちゃんと合わしているつもりなんだがな」
「あってないから、卿が立っているのでしょ。成功したら、腕の一、二本持って行ってあげるのに・・・」
「怖いことを言う人だ。そこがかわいいのかもしれないけどね。シド」
そんな話を嬉しそうに聞きながら、メディシン卿はシドに話を振った。
「何故、俺に振る」
シドは非常に居心地が悪そうに返した。
「言ってほしい?」
「やめろ。せめて自分の口から言わせろ」
「だろうねえ。さてさて、少し体力が戻ってきただろ?始めようか?」
「「はい」」
二人は元気よく答え、戦闘の構えをとった。