集まる猛者 in ブリウォーデン勇王国 5
「お前が出ろ」
王位継承者、第5位のアランは王よりも絶大な権力を持つといわれている“嵐”に呼ばれてそんなことを言われた。
渡されたのは勇者の剣の大会の招待状だった。
「なんで?」
「期限が迫ってるから送るのは俺が直接送るし、国防が俺がいれば大丈夫だから・・・」
「そういうことじゃなくて・・・」
アランは絶望の谷に落とされたような気分になった。“嵐”や“小さな英雄”に憧れてこの騎士団に入ったのに勇者なんかに興味はなかった。
小さい頃から“小さな英雄”の話を聞かされ、それを聞いて育ったともいえる第一世代のアランには絶望に近い気分だった。
そして、“小さい英雄”以上の現存する最強の将からそんな言葉を言われたのだ。アランにとっては父親以上の憧れの存在である。
というか、父親ですらこの男の前では子猫のようになってしまう。それほどの権力を握っている。
だからこそ、王族であっても“嵐”命令には逆らえないのだ。普通の国ではありえないことだ。だが、当然と言えば当然だろう。
“嵐”が本気を出したら、国の騎士団魔術師団を相手にたった一人で勝ち得るそんな力を持っているのだ。
彼自身に権力に興味がないゆえに王政が成り立っているが、彼がその気になれば、王政など容易く倒れるだろう。加えて、彼には家族がいる。
彼の家族も彼に負けずも劣らずの怪物ばかりだ。“聖母”と呼ばれる妻、“剣聖”と呼ばれる義妹、そして、“神の薬師”にして“光の戦乙女の契約者”である義弟。
義父が元騎士団長だったりするのだが、妻や義弟達と比べたら見劣りする。へたすると、王族よりも名高いロイヤルファミリーなのだ。
他国では、王よりも義弟であるメディシン家を呼んだ方が、ロイヤリティが高いとされている。“嵐”からすれば、王族など位の高い貴族程度の認識なのだ。
だから、不躾にこうやって呼ぶことができたのだ。
「“勇者の剣”を持ち帰ったら、継承権があがるだろうな」
「・・・・・・」
勇王国で開催が決まっている“勇者の剣”の所持者を決める大会についてのあらましは知っている。問題はその大会に出ても勝てる気がまったくしないことだ。
何せ、今では“嵐”以上に貴族社会に絶望を叩き込んでくれた元“勇者”が推薦したものがでるのだ。
勝てるはずがない。
そんな無意味なことはしたくはなかった。おそらく、“嵐”の出場を希望した勇王国が代わりとして、王国の王族を出すから納得しろということだろう。
「そんな・・・」
アランは“嵐”の都合で出場してしてしまうようことになり、絶望的な気分になった。
「お前は風の魔法が使えるだろ?最近だって、兵が呼べるようになったと喜んでいただろうが・・・」
「何故それを・・・」
「この辺の風は俺にいろいろと教えてくれる・・・」
“嵐”は嬉しそうに答えた。さすが、“嵐の精霊”の契約者といったところだろうか。そもそも、風の精霊はものを風で動かしたり、風圧で切り裂くだけではなく、感覚を広げたりするような魔法などがあり“嵐”感知能力は王都中に網を張っているとされている。
それができるからこそ、複雑な戦場のすべてを把握し、風を操って、的確に相手を仕留めることができるのだ。その風の刃は同時に300人を殺せると言われている。
それが“見えない軍団”の正体であり、“嵐”の圧倒的も言える力の根源だ。
アランもよくその訓練に突き合せているが、見えないくせに腕がやたらとよすぎて、一方的にやられることが多い。“剣聖”とよばれる義妹との戦いを見たが、ありえないスピードで戦っていたようにみえた。
「さすが、我が妹、5人でも仕留めきれないとは・・・」
「矢や槍などをつかってもよいのですよ」
「それでは訓練にならんだろうが・・・」
そんな会話をしながら、俺たちの相手もしていた“嵐”さん。そこにいた自分を含めた騎士団の方々はドン引きをしていたのをみた。
ちなみに盾を使ったお手本を義弟が見せてくれたが、「魔力の気配を感じれば、誰でも対処できますよ」ととか言いながらはじいていた。薬師とは思えない元騎士とかを超越した技能を持っていた。
あの一家に常識は通じないは騎士団の認識だった。王族よりも頼りになる。というか、王族の俺も彼らに付いていきたくなった。
その結果が騎士団入りということだ。事実を知っている多くの貴族はお近づきになりたくて、女性は“聖母”のいる治療院、男性は“嵐”のいる騎士団に入ることが多くみられるようになった。
近年は特にその傾向が強くなっていた。伝説の逆クーデターなんてことがあったが、それすら見事、正面から潰されていた。
そんな化け物に挑むような奴がいるはずもなく、その権力はますます高まっていた。副将軍なのに、他国では“嵐の将軍”を呼ばれ、王国もそれを黙認している状態である。
というか、俺も普通に“嵐の将軍”とか、大将とか呼んでいたりする。
大将は騎士団ではそう呼ぶのは将軍ではなく、“嵐の将軍”だ。私的な会話では大将がさ、大将の嫁さんがとかいうとそれがだれか、分かってしまうくらいには広まっている。
ちなみに王国の田舎の方では“嵐の将軍”がすでに将軍職だと思っている者がほとんどだ。
なまじ、移動力がハンパないので、手勢を連れて辺境移動を年中やっていて、それで辺境でも大変人気がある将軍である。「嵐の将軍様が来られた」と村人たちから自主的に供物が何故か届いたりするのが不思議だ。
まあ、ちょっと前まで“聖母”と一緒に移動していることが多くなり、その活躍もあり、“聖母”なんて呼ばれるようになったり、本当に話題には事欠かない一家だ。
「いかなきゃいけないんですか?」
「それが王族の務めだと思え」
「そうですね」
王よりも権力を持った副将軍を見て、目線を逸らしながら、いやいや返事を返した。
それをみて、ニタニタ笑っているのがむかついた。この男、強さを持っているが、かなりふざけたところも持っている。
無駄に強いと思われる強さの原因が、おそらく、個人で国を圧倒するとか笑えるだろうとか、そんなことが彼が強さを求める要因であり、今回も俺の代わりに王族を出すとか草みたいなノリで出しているのだろう。
この“嵐の将軍”とはそういう男なのだ。
「じゃあ、風魔法のコツを教えてやるよ。みっちりとな」
それを聞いて、嫌なものを感じた。この男は洒落で強くなったが、その強くなった方法がわりと洒落にならない方法だったりする。
「いやあ、楽しみだな」
俺はしばらく地獄のような特訓が待っていると考えるだけで気分が滅入った。王族にこんな仕打ちができるのはこの男だけだろう。
この広い世界でも・・・