集まる猛者 in ブリウォーデン勇王国 4
「主よ。とうとう陰りが?」
一番の部下にそういわれ、メルキス自身不快そうな表情を浮かべた。
「我に陰りではない。ならば、その実力を己が試して見せよ」
そういって、一枚の紙を見せた。
「嵐でも現れましたか?」
「それに近いな」
メルキスは無表情のまま言い放った。その紙を確認するとその男は目を大きく開いた。
「ほう、勇者の剣がかかった大会ですか?」
「この大会に出て優勝したもをダークエルフを王として認める」
メルキスは静かに言った。それを聞いて目の前にいるカトゥランは目を大きく開いた。
「つまり、私が出て優勝すれば王に認めてくれると?」
「私に勝ったあの男が出るのだからな。だが、この大会を易々と優勝できるとは思えないが・・・」
「ふっふふ、任せてください」
「まあ、汚い手は使うなよ。実力でとるのだ」
それを聞いてカトゥランは目を大きく開いた。
「策略を禁止すると?」
「私の王位がかかっているのだ。そんなことをすれば、私自ら・・・」
それを聞いてカトゥランは少し考え込んだ真似をした。
「わかりました。このカトゥラン。あなた様の命に従いまする」
「そうか、そうか」
メルキスはそれだけで納得した様子を見せた。
「さてさて、これでどれだけの裏切り者が出てくるか楽しみだな。カトゥラン」
うれしそうな残虐な笑みを浮かべてメルキスはつぶやいた。それにカトゥランは深々と頭を下げた。
「はい、そうです」
その声は弾むようにうれしさの色が混じりこんでいた。
処刑ができる。処刑人とも言われたカトゥランとしては新たな火種をいれることにより、混乱を起こさせそれ寄って出てくるだろう犠牲者を容赦なく殺すことが楽しみでしょうがなかった。
カトゥランという男はそういう男だった。
「どんな手で我に逆らうのか、どんな風に血祭りにあげてやろうか・・・悩みどころだ」
メルキスは嬉しそうに笑った。このダークエルフを長い間支配してきた王は基本的には残虐な王だ。いや、その残虐さゆえにダークエルフという悪しき者たちを恐怖でまとめているのだ。
この残虐さを利用し、ハイエルフと呼ばれた者たちをこの世界から追いやってきた。彼らがいずこかに消えたのも自分たちの力が強かったからだと認識している。
森のエルフと呼ばれる者たちがいるが、彼らなどメルキス率いるダークエルフの前には幼稚な集団に過ぎない。彼らが世界と隔絶した暮らしをしているのもダークをエルフを恐れてのことだと思っていた。
「どうしてくれようかな」
ダークエルフの王は嬉しそうにほほ笑んだ。次の殺戮が待っているような気がした。
「影の刃よ。依頼が来た」
黒い影の男がいた。その前には肌が黒めの少し耳がとがった・・・ダークエルフの男がいた。
「小生がうばってみせろと?」
「そういうお達しだ。できるよな」
黒い影の男は静かにうなづいた。
「さすがだ。“影の刃”。その顔をどうする?」
「小生、本来は顔を持たぬもの。しかし、この程度の大会で顔をさらすのはためらうばかりだ。だから、顔を借りよう」
「誰のだ?」
「我々を出場に追い込んだ男の顔にな」
「だが、どうやってやつになる?」
「それは簡単なことよ。私が影よりあやつを抹殺し、美しい奴の皮を被り、奴になって出ればよいだけのこと」
「それはできんな」
「何?」
「やつは大会には出れない。ただ、殺してもダメということではない。奴を殺してお前の名前で出ても構わない」
「なるほど、そういうことなら、お任せあれ」
「人間どもを見返してやれ」
「わかりもうした。我の標的は元勇者アレスということですな」
影の刃は嬉しそうにほほ笑んだ。それをみて、ダークエルフの男は満足気な笑顔を浮かべていた。
「バルザック様」
バルザックと呼ばれている憤怒の魔王は、冒険者ギルドのソファーに座り込んで足を組んでいた。
「俺が出ることに何の価値がある」
「他のに強いものがいないです」
「俺はそうは思わんが・・・勇者ギルドをちゃんと押しとけばよかったのでは?」
バルザックは頭を垂れている男に向かって冷たく言い放った。
「勇王国とつながりが深い現会長の首にすればよいだろう。もしくは降格でも」
「そんな・・・」
「本物と偽物の区別がつかなったんだ。その責任は会長がとるべきだろう。毎度、毎度担がれる俺の身にもなれ」
「ガルドル様方からは了承は得ています。あとは」
「俺というわけか」
「はい」
「現勇者も出るわけですし、あなたが勇者になれば」
「はっはは、俺が勇者か。・・・だが、柄でもないがおもしろそうだ。現勇者も出るらしいな」
「はい」
「わかった。その件は了承しよう。現勇者というものも見てみたい」
「お願いします」
そそくさとギルドの職員はそのままさって言った。これ以上バルザックの不評を買わないためだ。
「現勇者か」
かつてのことを思い出しながら、バルザックは笑みをこぼした。
「どんなやつなんだろうな」
あの時のことを思い出すだけで胸が高鳴るのをバルザックは感じた。