集まる猛者 in ブリウォーデン勇王国 2
「今更、勇者の剣なんか持ってもな」
ベットの上で座っているガルドルが苦笑いを浮かべながら言った。
「子供の頃からの夢では?」
そんなガルドルを薄着のカミラが後ろから抱きしめながら囁く様な甘い声で言った。
「そんなんじゃねえよ。俺は親に認められればよかったんだよ。だから、勇者の称号が欲しかった」
ガルドルはそんなカミラの腕の感触を確かめながら、かつての自分のことを思った。
「勇者ね。そう呼ばれているからいいじゃない」
カミラが満足そうに言った。聖都の舞踏大会後からガルドルは炎の勇者と呼ばれるようになり、様々な貴族に好待遇で迎えられることが多くなった。
今も貴族に呼ばれて、その客間にいるというわけだ。ハニートラップでも仕掛けるつもりのようだが、ガルドルの側にはカミラが常についているのでそうしたことを事前に防ぐ形になっていた。
「まあ、わたしとしてはあなたが世間で認められることがうれしいけどね」
「そうか、俺と一緒に来てよかったか?」
「もちろん」
「そうか」
「当たり前か?」
「当り前よ」
「そうか・・・そうか」
カミラはガルドルの前まで猫のようにしなやかに回り込みキスをした。
「これでも不安?」
「不安じゃ・・・いや、不安だ。もっとお前が欲しい」
「バカ」
「俺は馬鹿でちょうどいいのさ。お前の前ではな」
「ほんといい男」
「ありがとう」
「愛している」
「愛している」
二人はそのまま仲良くベットに倒れこんだ。
「だりぃ」
嵐の将軍と呼ばれている男は欠伸をしながら言った。
「勇者の剣なんぞ、今更ほしいとは思わんね」
「まあ、わたしも持ったことがあるけど。私にもいらないしね」
剣聖と呼ばれている義妹がお茶を飲みながら暢気に返した。
「にしても、勇王国も相変わらずアレス君に冷たいようで・・・」
聖母と呼ばれ始めている嵐の将軍夫人はのんびりとした感じで言った。困っているような発言だが、その発言の主は実にゆったりした様子だった。
「まあ、別にあいつが出るわけでもないし、俺たちが出張っていくわけには行かないだろう。国防上の関係でな」
嵐の将軍は差出人をバカにするように言った。
それを聞いて聖母が返す。
「案外、あなたは国防上の要ですから、多くの国が国外に出てほしそうにしてますよ」
「英雄ってのはだりぃもんだな。やってみると」
「強くなりすぎたせいですよ」
「強くはなりたかったんだが、偉くはなりたくなかったんだよな」
「冒険者でもしてれば、よかったのでは?」
「お前のところに婿できた地点でそれは無理だろう。元将軍の娘のところに来たんだからな」
「あらあら」
「俺にとって、一番の自由はお前がそばにいてくれることだ。今は聖女候補と呼ばれ、あの頃は高根の花だったお前とこうしていれる。それが俺にとって一番の冒険譚だ」
「上手いことを言いますね」
口元を手で覆い少し恥ずかしそうに、だが、それ以上に嬉しそうな声色で聖母は返した。
「事実だよ」
「それはよかった」
聖母はのんびり返すと手に持っているお茶を見た。
「あなたがまた呼ばれるようなことがなければいいけど」
剣聖を見て笑顔で言った。剣聖は少し考えて、首を振った。
「今は魔王達が停滞しているけど、そのうちの動きが激しいものになるかもしれない。その際はもう一度、わたしが動くべきだと思う」
「そうね。あなたがいれば」
「違うわ」
「ごめんなさいね。あなたと彼がいれば、どんな敵も倒せるでしょう」
「もちろん」
剣聖と呼ばれる夫人はうれしそうに姉に笑みを返した。その顔は喜びに満ち溢れていた。