勇者ギルド in 魔術学園都市 51
「私、日本人の転生体ですの」
目の前の女性はそんなことを口走った。
「いきなりだな」
シドは困ったようにいった。レンが苦笑いを浮かべていている。
「日本という国の生まれらしいよ」
「そうか・・・まあ、わからんでもないがな」
レンの説明にシドは頭を抱えてたくなった。シドの記憶では魔王のほとんどが彼女の言った日本という国から召喚されたものだ。
おそらく、彼女も魔王として召喚され、頭などをいじられ素敵に改造されたものの、その記憶がなくて、日本だけのことを思い出したのだろう。
転生者は転生でも元魔王の転生者だ。
「同じような人と出会えてうれしいです。シド様」
手を繋いでぶんぶんと手を振りながら、彼女は言った。
「魔王の記憶はないのか?」
シドが恐る恐る聞いた。
「魔王?魔王ってあの悪さをする魔王ですか?」
彼女はそういう実感がなくて、そんな風に言った。おそらく、あまりにも改造されすぎて・・・人格すら壊した結果なのだろう。
シドも壊された方なのでよくわかる。
「いや知らないならいい」
「?」
「魔王なら殺せば?」
現在、シドの付きでいるフィンがざっくりといった。
「ふぇえ、何でこの人こんなこと言うんですか?」
その子は涙を流しながら、そんなことを言った。フィンの殺気にやられたらしい。フィンは昔からきつい性格らしく、友達もいない。
というか、歳が近かった主ですら、それほど仲がいいという感じはなかった。
「なんかむかく」
かわいこぶっているのが、フィンには不快なのだろう。男性に媚を売っているあたりが気に入らないようだ。
シドたちに対して、そういう子は別に珍しくはないので、シドもレンもあえて突っ込むようなことはなかった。
シドもレンも期待の新人とされているからだ。シドは勇者ギルドに参加が決定、レンは言わずもがな天才名を魔術学園都市中に響かせている。
そんな彼らに色目を使わない女子の方が珍しいので、彼女の反応を彼らは普通だと思っている。
だが、そういうのもくそもへったくれもないフィンには唯々不快だった。
「こんなかわいい子をいじめるのはかわいそうだよ」
とレンがフォローを入れておく。さすがイケメンといったさわやかな笑顔だ。そんな心にもないことをそんな顔でいえるのは見事しか思えない。
「あたしとしては話としては面白いと思うけどね」
それまで黙っていたパールがのんびりとつぶやいた。
「パール様にそう言ってもらえると嬉しいです。私、魔力が弱いから錬金術師か、魔道具師になろうと思いますの」
魔道具師とは魔導具を研究し、道具として生活を便利にさせるものだ。
一見地味だが、これで下手な貴族よりも儲けているものがいるのだから、大したものである。
「へえ、生活が良くなるわね」
こうした研究をするものがいると世界が安定する。水洗便所などは魔王が開発したものが世界に普及していたりする。
千年以上前の魔王が作り出したものだ。それが魔王の中で継承され、最近、一般でも普及するようになった。
蛮族などと呼ばれている海王国などが簡易便所として、世界に広げている。自動的にトイレを製造する工場までがあるらしい。
この世界でトイレが異常に普及しているのは、海王国やそのトイレ工場のおかげなのだ。
そのトイレの行き先は異空間でどこで肥やしが集まっているのわからないが、便利なのでみんなが使っている。
設置する呪文は「トートー」だ。これを唱えると何故か設置される。
こうしたものが魔道具とよばれ、異次元バックなどの研究もされている。こちらはダンジョンでたまに見つかるもので、荷運びが便利になるものだ。
これらの開発が喜ばれたりする。
「任せて、立派な魔導具師になるから!」
少女は嬉しそうに言った。なんとなく、発音が先ほどと違うような気がした。
「まあ、がんばれや」
シドが適当に言うと、その子はレンに飛びついた。
「このサルビアにお任せください!」
少女は元気よく言った。
三人は顔を見合わせて、少々困った顔になった。フィンだけは冷たい目線を送っていた1