勇者ギルド in 魔術学園都市 50
「いくぜ」
ラプサムが叫ぶとあたりが白い炎に包まれた。
「これは見たことが・・・いえ、炎身?のオリジナル」
アレスが驚いた表情になって言った。展開する霧がすべて氷になって地面に落ちていた。
トキアの泥水もすべて凍り付かされている。こんな方法で自分たちの技を封じられるとは思わなかった。
「こんな弱点があるとは・・・」
アレスが展開しようとするが、ラプサムの凍気は魔力を食らうものだ。アレスの対抗呪文の要素を含んだ霧をもってしても、魔力から食われてしまう。
「相性の問題ですね」
「まあ、そういうこともあるだろう」
ラプサムが氷の剣を振ったがアレスがそれを止める。
「私たちも行くわよ」
レミアがいうとヘレンも頷いた。
レミアが魔力障壁を打ち破る気弾、ヘレンが風の刃を放った。
すべて、トキアが作り出した水の膜ではじかれた。プロテクションと呼ばれている水属性の魔法だ。レミアの気弾やヘレンの風を防ぐとはかなり強力なプロテクションになっていた。
「いつのまに」
ヘレンが驚いた顔になって言った。
「随分と訓練されてましたもんね」
レミアが感心したように言った。トキアがここにきてアレスに協力をしながらも水属性の魔法の研究を積んでいた。
泉の精霊の助けもあり、トキアはよりその才能を開花させつつあった。
料理で魔力を使うことを慣れ、泥人形で魔力操作を鍛えた今のトキアは魔術師しての適正はかなり高いものになっていた。
下手な魔法使いよりも高い防御力を持っている。
「アレスは私が守ります」
トキアが言った。
まさか、二人がかりで攻めあぐねる日がくるなんてトキアは思わなかった。あのはかなそうな女性が子供ができ、それを失ったことでここまで強くなったのだ。
あなたは“母”なのね。
レミアはうれしくも寂しくもある気がした。自分と同じ世代のおめでたなんてよくきくものだ。
ラプサムと相談し、いまでこそ何度も交わっていたが、それにいたっていない。それが悔しかった。
これが“母”というものなのね。
レミアはトキアを見ながら、そんな風に思った。こういう強さがほしくなってきた。
「いい表情よ。トキア。あなたとの戦いは楽しみだわ」
「私たちは精霊がないですが、経験が違います」
ヘレンも静かに言った。
「だからといって、アレスに手出しはさせません」
「ラプサムが負けるなんて思わないことね。あいつは強いわよ」
「アレスも、一般あの人の下で訓練を積んできたのです。だから・・・」
「ラプサムだって、死線を超えてきたのよ」
二人は自分たちのことではなく、彼のことについて語り始める。そんな彼女たちをほっといて、二人の男性はぶつかり合っていた。
ラプサムに力を封じられているアレスだったが、偽物の勇者の剣も使って戦っていた。
「ふざけんな」
アレスが偽物の剣を魔力で操りながら、ラプサムに攻撃をしていた。ラプサムはその剣を受け止めながら、近づこうとしていた。
近づけば、ラプサムの“白炎”で魔力ごと奪えるのだが、アレスの剣は遠隔操作ように作られた剣だ。まるで意思を持つかのように動いていた。
加えて、その剣の魔力はラプサムの“白炎”でも魔力を奪えることはできなかった。
明らかにガルドル対策のために作られた剣だ。隙を見せれば、アレスの刀が飛んでくる。
遠隔操作もそれなりにやってきたつもりだが、アレスのように霧そのものを武器にしてきた経緯から考えれば、アレスも相当使いこなしている。
最大の能力を封じられているにも関わらずとんでもない柔軟性を見せている。
おかげで“白炎”の弱点もわかったし、強さもわかった。そして、アレスも届かない相手ではないということがはっきりとした。
これに解析の力がある“勇者の剣”がついていたとしたら、とんでもない勇者な気がした。
いや、このモドキもなかなかものだ。解析の能力はないにしても、アレスの操作に対応し、生身のアレスと同様の効果を持つ。
しかも、“白炎”で消えないということはおそらく、“嵐”の見えない軍団よりも使える場面が多い。
アレスもたまに見えない軍団に近しいことをしているが、すべて“白炎”が飲み込んでいる。有効手段がこのモドキなのだ。
ラプサムも見えない軍団を使えるので仕掛けてみるが、アレスが一瞬霧を展開し、霧散させてしまう。見えない軍団はアレスの霧とは相性がよくないのだ。そもそも・・・
見えない軍団は風を武器として威力を持たせるまで圧縮しなければならない。だが、アレスの霧には水魔法の性質の魔力を分散させると性質があり、その性質のため風の圧縮するさいその霧が混じり、中から風の武器を崩壊させる。それによってただの風になり、ほぼ無力化されるのだ。
魔剣を魔力で作るという方法もあるが、アレスは魔吸空間も作れるので、直接魔剣を魔吸空間で破壊できるのだ。
そうした中でのでの、魔力で動くモドキの剣、厄介この上ない。
「まだやりますか?」
「うっせえ」
くやしくなってラプサムは叫んだ。仲間ながら、とんでもない奴だと毒づいた。