勇者ギルド in 魔術学園都市 47
「ここが工場か・・・」
メディシン卿は静かに言った。脇を見た。そこには嬉しそうに笑みをこぼす男がいた。
そして反対側を見た。そこには愛しの女性が立っていた。
「なんできた?」
「おもしろそう」
「夫のピンチに妻がくるのは当然だよ」
メディシン卿は自分の妻と義兄に少し頭痛のようなものを覚えた。先日、この話を屋敷でしたとき、義兄は嬉しそう聞き、妻が興味深そうに話を聞いていた。
やたらと目がキラキラとしていたのはそのためだったらしい。
「いやあ、最近暴れてなくてな」
兄がいう。
「運動不足よくない」
妻がいう。
「いやね。これから、魔王のモドキが多数いる場所に行くんですが・・・観光に行くようなところではないはずですが・・・」
「そんなこといって、不安でしょ」
「ソロならいいが、1対多はあまり得意ではないだろ?お前。心配だから来てやったんだぜ」
と、それらしいことを言う二人。
最近、運動で暴れたりないらしい。そういえば、妻の方に手合わせを最近していないような気がした。
「ふんじゃあ、攻城戦を始めようぜ。まずは敵の位置の把握をするわ」
兄が楽しそうに言った。この男は拠点防衛よりは、攻城戦の方が圧倒的に得意だったりする。
「おうおう、なかなかおもしろうそうなもんがいっぱいいるな」
「殺さないで」
「そんなの早い者勝ちだろ?」
兄がいたずらぽく笑った。
「俺いるのか?」
メディシン卿は首を傾げて言った。
「いらねえかもしれないが、ほら俺たち此処にいちゃあいけない人間だから」
「そういうこと」
この二人は本来は王国にいるはずの人間である。ただ、高速移動ができることによって、魔術学園都市間を1日で移動できるのだ。
妻に至ってはおおよそ1分あれば、行って帰ってこれる。それぐらいの速さがあった。
「ふむ、100人中、10人か」
「思ったよりも生き残ったね」
「まあ、さすが魔王モドキだ。消しやがったのがいるな」
文句を言っているが、逆にうれしそう獰猛な笑みを浮かべる義兄。
「わたしもいくね」
「ゆっくりいかないと建物が壊れるぞ」
「わかった。ゆっくりいく」
妻の姿が消えた。彼女は亜光速で戦闘ができる。彼女が全力疾走するだけでそのソニックブームで人を殺せたりする。
もちろん、建物の中でそれをやったら、建物に猛烈な風が駆け巡り、これないかもしれないが、大きなヒビ等が走ってしまうだろう。
ガラスなどがあれば、砕け散るのがおちだ。
姿が消えたのは亜光速で移動したためだろう。
「やべえなあ、ほとんど倒している。容赦ねえなあ」
「任せて、一通りゆっくり探して倒してきた」
と、すぐ後ろに妻の姿現れた。どうやら、一通り回ってきたらしい。
「あんまり強くなかった。魔王も大したことがない」
自分の異常な強さをさておき、そんなことを言った。
「一人うまく逃げた奴がいるな。とっさにドアの陰に隠れたようだ」
「あちゃー、見逃してたか」
妻が困ったように言った。
「わかった。じゃあ、俺がやっておくよ。そいつが恐怖でガタガタ震えているからわかりやすい」
「酷い人」
「君に言われたくない。恐怖の原因」
メディシン卿が半目になって妻を睨むと、妻はそっぽを向いた。
「でも、かわいいでしょ」
「うん。かわいい」
「即答か。お前らすげえわ」
感心したように兄が言った。
「愛が深い」
「そういうこと」
妻の言葉に夫が続く。義兄はため息をつくと空を見た。
「見事だ。オールクリーン。というか、お前魔法が使えたのか?」
「影獣?いや、闇獣かもな。それを使った。なんか、遠距離でも攻撃ができる」
メディシン卿があっさりといった。
「というか、隠れた場所が悪かったね。クローゼットやロッカーの中は俺の精霊の住処だからな」
そういわれると義兄がポンと手をたたいた。
「そういえば、ちゃんと寝ないとクローゼットから現れる怪物か・・・」
「そういう恐ろしい躾に関わる精霊だからね。俺の“恐怖の魔王”は・・・」
「なるほど、自ら巣に入ったと」
「そういうこと」
メディシン卿の説明に素直に義兄は頷いた。
「これであらかた倒したかな・・・いやこれは」
義兄の表情が曇った。
「なるほど、そういう術なのかこいつは・・・」
驚いた表情を崩すことなく義兄が言った。
「おもしろくなってきたぜ」
義兄が立ち上がりながら言った。その目線の先には一人の男が立っていた。
カズヤ・シロキがそこには立っていた。
彼こそ、大量生産された魔王の複製体。その一人に見えた。
だが、他の複製体とは明らかに違う何かがそこにあった。