勇者ギルド in 魔術学園都市 45
「ねえ、知ってる。霧の怪物のこと・・・」
友人にそんなことを言われてビクりとミラクは反応した。
「う、うん、知ってる」
最近、魔術学園都市で起きている怪物騒ぎのことである。
「勇者ギルドも動くってさ」
ピルクも冷や汗のようなものを流しながら言った。
何故、そんな反応をしてしまっているかというと、その犯人を知っているからだ。
霧の中の怪物。
アレスが霧を起こし、その霧の中でトキアが泥の怪物を操り、次々に魔王教と呼ばれる集団の幹部を殺しているのだ。
霧に視界を閉ざされその中から突如現れる泥でできた不気味な生物。なんでも、あれはトキアが伝聞によって作ったクラーケンや蛇らしいのだが、不気味な容姿をしていることが多い。
ピルク、ミラクも二人の連携技を体験したことがあるが、正気が削られる思いがした。
イカの顔をした人型を見たとき、言い知れぬ恐怖を味わったのを覚えている。
「いやあ、勇者様に守ってもらいたいわ」
友人の一人がそんなことをいうが、その犯人がその勇者さまだとしたら、どんなリアクションをするのか聞いてみたい気がした。
表向き、アレスはまだ勇者である。
魔術学園都市の関係者のせいでアレスが剣をしなったとしたら、どんな非難がくるのかわからない。
それを回避するために公では発表はされていない。
勇者の初めての子が、陰謀によって死に、それによって勇者が勇者を辞めたとなれば、その関係者に対しての圧力は計り知れないためだ。
その件には魔王教と呼ばれる者たちが暗躍し、それを放置していた魔術学園都市の責任も問われることになるだろう。
魔術学園都市としてはある男にすべての罪をかぶってもらおうとしているが、その男が殺害もしくは捕縛するまではこの発表はできないのだ。
だが、徐々にであるが勇者ギルドがそれを追い詰めているのは確かだ。多くのものが自首し、その男の情報を小出しにしてきた。
「勇者さまにはトキア様がいるから無理だよ」
ミラクが言った。
「うん、二人の愛は深い」
ピルクがそれに続く。深いというか、深淵だけどねとピルクは心の中で言った。この子のためなら魔王すら倒せるという母の怨念をピルクは感じた。
「そっか、二人は勇者さまのこと知ってるもんね。トキア様にも会えるんだよね」
「ええ、そのうち」
「うん」
二人はトキアに既に会っているが、公式には竜王国にいるはずなので、ここではそう誤魔化しておいた。
二人には護衛という名の監視がついている。
フェミンのレミングはどこにでもいる。気が付けないだけで・・・
なんでもフェミンは町中に放ったレミングたちの情報を一人で処理しているらしい。フェミンの知能に驚くしかない。勇者ギルドには現在怪物しかないのだ。
自分たちを除いて・・・
あらゆる竜を従える“王竜の契約者”、精霊王と通じる“光の戦乙女の契約者”、霧の中の怪物を操る元“勇者”と元“王女”、圧倒的な情報量を得て同時に処理できる“黒猫”。
そこに“七星”に、元“聖女”、最強の戦略魔術師の名を持つ“紅蓮”と自分たち以外はそうそうたるメンバーである。
何故、自分たちがこんなところにいるのかよくわからなかった。
最近は普通の勇者と魔王がそこに加わった。二人は年下だが、どちらかというと自分たちよりな気がした。
黒猫以外に歯が立たないように思えた。黒猫さんは戦闘職でないので仕方ないともいえる。
「あったら、サインもらっといてよ。勇者さまと一緒に」
「うん、会えたらもらっておくね」
友人の言葉にミラクは少し声を震わせて言った。子供を失って以来、アレスにべた付きの彼女に近づきがたいものがあるが、竜王国に戻ることがあったらもらっておくべきだろう。
戻るようなことがあるのならば。
「ところでミラクもピルクも強くなったけどさ。勇者一行で一番強い人って誰なの・・・」
「“光の戦乙女の契約者”」
ピルクは速攻で答えた。あれは規格外だとピルクは思っている。そこが知れない。
勇者の師を目指し、研鑽を重ねた結果があれらしいが、とんでもない化け物だ。あれとは戦いたくはない。そう思える何かがあった。
「まあ、センセイだよね」
ミラクも続く。
アレスのあれがあっても、メディック卿にはさすがに届かないと思っている。メディック卿の攻撃はすべてを薙ぎ払うこともできるらしい。
見たことはないが、それくらいの高められた魔力を見たことがあるので本当のことなのだろう。
「そうなんだ。知らなかった。センセイか。凄そう」
友人が嬉しそうに言った。
「私も教えを被ったら強くなれるかな」
「たぶんね」
ミラクはあっさり答えた。
「まあ、人には教えられない方法があるからね。まあ、私たち最近ようやくできたけど」
ピルクも困ったような顔になった。
「他にもきっと何か持ってる」
「まあ、あの人の頭の中にはどんなネタが仕込んであることやら・・・」
「そんなにすごいの」
「「うん、すごい」」
二人が同時に頷いたのを見て、友人たちは呆けるしかなかった。