友の剣 8
「あの色欲のせいで・・・」
リリィとトールが一時的に作ったセーフティーハウスに戻るとゴルゴンがいて、いきなり愚痴をこぼした。
「あの女が私たちをこんな風に改造したんですよ」
そこには一目で醜いを言えてしまうような恐ろしい女三人がいた。
「この美しくない姿をどうにかできれば、人間を襲いません。魔王を殺します」
「どういう条件だよ」
トールはため息をついた。錬金術でどうにか石化を防ぐと、リリィがその能力を防ぐ。
トールをリリィの竜の体の中にいれることによって、石化を防いだらしい。
リリィの人化はとんでもないような気がした。
「なんなの」と叫んだゴルゴンに向かって、リリィが誇らしげに勝ち誇ったようにトールの能力を自慢し始めた。
それを聞いて、ゴルゴン達の目が変わり、こんなことになっている。
彼女たちの話よると“色欲の魔王”に出会い、一瞬で恋に落ち、気が付くとこんな化け物に改造されていたらしい。
とてつもない快楽の中で改造され、こんな化け物に近い姿に変えられたらしい。
彼女たちは元は人間ではなく、エルフだったらしい。
「心の底からできると信じないとできないからな」
トールは気合を入れて言った。やる気はあまり出なかったが、元に戻さないとここから出ていかないといったので、仕方なかった。
「わかった心の底から信じるということがどういうことかわからないが、お主ができると信じよう」
「わかった」
トールはそういって努力した。
結果、美しいエルフが三人そこにいるという状態ができていた。
「いやあ、すごいねえ」
「さすがだね」
「よ、稀代の錬金術師」
とほめながら、なぜかぐうたらしてそこに転がっていた。
「なんなの?」
「居心地がよくて・・・」
長女がすまなそうに言った。トールはため息をついた。
ここを出れば、灼熱の大地が待っている。徒歩で帰るには厳しい環境である。
トールもリリィに連れてきてもらわなければ、厳しい場所なのは確かだが、こいつらは・・・
「じゃあ、これ上げるから」
そういうと三人のエルフは髪の毛をブチっと抜き、うねうねと動く蛇を渡した。
「ゴルゴンの蛇。きっと役に立つ」
トールはソレを受け取りながら、三人を見た。
「お前ら、ここで暮らすつもりか?」
「いいじゃん、村の禁忌を犯し、村を追い出されて帰るところないんだから・・・」
長女が文句を言った。ほかの三人もうんうんと頷いた。
どうやら、この蛇がここの泊まる費用のつもりのようだ。たしかにゴルゴンの蛇はいい錬金術の材料や魔術の媒体になる。
しかも、生きているゴルゴンの蛇はそれなりに価値がある。そのことを知っててやっているのだろう。
「まあいいや、どうせここは使わないし」
「「「やったー」」」
エルフたちは喜んだ。随分、妙なエルフがいたものだとトールは思った。リリィの顔を見たが同じような印象に思える。
「つうか、何でお前らここに来たんだ?」
ふと、トールが素朴な疑問を上げた。すると、長女が困ったように言った。
「エルフの村に一人の女が現れたの」
「それが魔王だったわけか」
リリィが神妙な顔で言った。
「そう、“色欲の魔王”が材料を求めてやってきたの」
「材料?」
「そう、怪物の子供をつくるための材料集め」
「とんでもないな」
「魔王だしな」
リリィが頭を抱えるように言った。
「そうなのか?」
「最近、特に奴らも手を選ばなくなった。主が勇者の剣を作ったせいだな」
「そうなんだ。勇者の剣がそんな影響を?」
「それまではかなり魔王が優位に戦いを進めることが多かった。だが、勇者の剣がその状況を一変させた。勇者の剣による魔王狩りがはじまったのだ」
「なるほど」
「強すぎる力、故に人々に恐れられ。神聖視されるようになった。そして、その剣の元に人々が集まり、一つの国ができた」
「それが勇王国か・・・」
「そうじゃ」
「追い詰められた魔王が背に腹は代えられない状態になって、こんなことを?」
「そういうことだ」
「酷い。でも、魔王に支配されてもあまり変わらないから、文句は言えないです」
エルフが困ったように言った。
「魔王に支配されると多くの美しきものは魔王の慰め者になり、悲恋が生まれたと聞きます」
「あの男はそういう男だったな。故に、我が主に剣に変えられたのだが・・・」
「それ以来、私たちはエルフは純潔を守るようになり・・・」
「森に籠るようになったと、まあ、どっちもどっちじゃな」
リリィが困ったように言った。
「そのころからご在名の最長老様がその時のことを詳しく知っておられます」
「ほう、生きている者がいるとは・・・あってみたいのう」
リリィが懐かしそうに言った。
「そうか」
「まあ、訪れても面白いかも」
「まあ、余裕があればな」
「では、エル、エム、エヌの三人は元気ですと村のものにお伝えください」
長女が言った。おそらく、長女はエムなのだろう。
「わかった」
トールがいうとエルは嬉しそうにほほ笑んだ。その顔は天使のようにかわいかった。
「りりィさん敵ですよ」
「大丈夫、その女とはもう会ってないし」
「で、エルフの村にいったのか?」
「いや、これから行くつもりだ」
「何故?」
「魔剣が会いたいらしい」
「へえ」
「どんなことになるのか、楽しみですね」
「勇者の剣も持っていったら、面白そうだねえ」
「そこのくそ夫婦だまれ!」
トールはさすがにどなった。