友の剣 6
「錬金術師トールが生きていた!」
商業ギルドにて生存報告をすると驚きの声が上がった。
期待した通りのリアクションが返ってきてくれて、トール的にはうれしかった。
商業ギルドと自分は割と冒険者とは違い、同業者意識がある。そんな自分が勇んで冒険者についていったのだ。このリアクションは心配かけたんだなと思った。
にしても、多少この国で物を収めた程度で、このリアクションは異常のような気もしなくはないが、悪い気はしない。
付与師としての努力の積み重ねが世間で評価されているということだろう。
「今日は素晴らしい日になると思います」
「そうですか・・・」
受付嬢のリアクションにトールは戸惑うしかなかった。
「はい。これはあなたの国にも報告をしておきますね。あと、何か体に異常などはありませんか?勇者パーティーに対しての抗議文などは用意しておきましょうか?」
生存報告した後にさらに抗議文などをあげるなど、どういうつもりだろうか?
その前になんで自分が勇者パーティーといたことを知っているのだろうか?
とにもかくにも、あからさまに冒険者ギルドと商業ギルドでは扱いに差が出てきていた。
「そうだな。依頼主をドラゴンを前において逃亡したことを報告しておいてくれ」
「わっかりました!」
受付嬢はノリノリで言った。なんでこんなハイテンションなのか、トールは理解に苦しむ。
「なあ、なんかおかしくないか?」
「ああ、妙な気がするな」
トールはハイテンション過ぎて、逆に変なものに感じてしまった。
そもそも、ポーションを売りに出す薬屋などと、教会は治療という面で対立していることが多い。
上の方は仲が悪かったりしする。その聖都でこんな風にトールを迎え入れられるとは思わなかった。
「なんか、俺に賞金がかかっているのか?」
「というか、トール様が来られたら、勇者ギルドに来るように全商業ギルドに通達があります」
「はあ?」
トールはなんで勇者ギルドに呼ばれなければいけないのかよくわからなかった。勇者ギルドには勇者のあいつがいた。
今更、トールに何の用があるというのだろうか?
「トール様は正式に声明は出ていないのですが、勇者ギルドに入るように通達があります」
「・・・はあ?」
トールには信じられない話だった。なぜ、そんなことになってしまったのかもよくわからなかった。
憧れていた勇者パーティー、つまり、勇者ギルドに参加できるということだ。戦闘職としてほとんど訓練はしていなかったが・・・
まともに錬金術を使って怪物と戦ったのは、ドラゴンとの戦いだ。それを知られたとは思えない。
「どういうことだ?」
トールはリリィの顔を見たが、リリィも首を傾げた。
「しかし、主が正当に評価されて我はうれしいぞ。その勇者もなかなか見る目があるようだな」
トールはアレスのことを思い出したが、女の子のようなはかない少年像がそこにはあった。勇者が美形なのは世界に知れ渡っているし、実際会ったことあるトールもそのことはよく存じていた。
「にしても、いきなりすぎないか?」
「そうか?主に何か剣を作ってほしいのかもしれんぞ」
「勇者の剣以上の獲物を作れってそんなの不可能だぞ」
トールはあきらめたように言った。
「そうか?我を作り替えたのだ。我を人にしたように、何かを剣に変えることなど今のお主なら可能では?」
「自ら剣になりたいなんて生き物いるのかよ」
「ふむ、いるかもしれぬ。トールが勇者なら我は喜んで剣になるぞ」
「・・・いってろ」
少し恥ずかしくなって目線を逸らした。
「そうそう、トール様に神殺しの剣の依頼が来てるんですよ」
「ほう」
「“神殺し”ね」
受付少女が話を聞いていたのか、そんなことを口にした。
「はい。依頼内容はあって伝えるとのことで、“聖女”様か、“勇者”様に依頼内容を聞いてくれと・・・」
「随分なビックネームが並んでるな」
トールはとんでもないことに巻き込まれてるという自覚があった。
「いずれにせよ。俺は幼馴染と一回会わなきゃいけないのか・・・」
「がんばれ、主」
「はい」
受付嬢も元気よく言った。トールはより気分が重たくなった。
「酷いなとって食うわけじゃないんだから・・・」
「初恋の相手に緊張しているだけですわ」
「だまれ、一言多い王女」
「ふん」
「喧嘩するなよ」
「トキアと仲良くしてくれて、俺はうれしいぞ」
「「アレス・・・」」
「仲いいなお主ら・・・」
ドラゴン少女は呆れたように言った。