友の剣 4
「聖女様一行が旅立たれました!」
おおとどよめく声と共に歓声が上がった。
「“聖女”が旅立ったぞ」
「綺麗な方じゃないか」
隣に並ぶ、少女を見ながら言った。少女もなかなかの美人であることは、製作者であるトールは知っていた。
トールは山から徒歩で戻った後、と名付けたドラゴン娘の力を試すために“聖女”選挙で盛り上がっている聖都にやってきた。
残念なことに“聖女選挙”が終わり、“聖女”としての初めての巡回が始まる。なんでも、危険なドラゴンを倒しに行くらしい。
ドラゴンを退治か・・・
隣に座る少女を見た。
「それにしても、ずいぶんとまがまがしい剣を持っておるな。知っている剣によく似ているし」
トールの思いを知ってか、知らずか、彼女はそんなことを口にした。同族が倒されることに関して何も思っていないように思えた。
「知っている剣?」
「魔王を封じた、いや、魔王を変化させた剣によく似ている」
トールの前世の親が作った剣のことだろう。結構前になるらしいので、かなりの前世だ。千年ほど前って前世とは言え、全くの他人のような気がしなくもないが、目の前のドラゴンにとってはそうでもないらしい。
なんでもドラゴンは不滅の存在で、そのほとんどが死ぬと次の代に魂が引き継がれるらしい。そのために自分用の卵は大事に保管してあるらしい。
つうか、こいつも千年生きている。その魂はどれくらい生きているのかよくわからないレベルだ。
「そんな禍々しいものを持っている剣士がいたのか?」
「ああ、“聖女”のそばにおった」
「それは驚きだな」
意外な答えだった。ちまたで噂になりつつある魔王教がその存在を知ったらのどから手が出そうなものだ。
魔王とは魔王を蘇らせ、魔王を使って世界を思うがままにしようとしている者たちだ。邪教の類とされているが、結構な教徒がいるというからやっかいなのだ。
聖都が直々に戦うことを誓っているが、その尻尾を掴ませていないというのが本音である。
実際は影で聖都が糸を引いているような気もするが、トールには実際どうでもいい話である。
「しかし、魔王の剣なんて使えるのか?」
「魔王に意識が残っており、使用者に使わせる気があるのなら、使うことが出来るだろう」
「なるほどな」
「まあ、使う側も魔王の力が入るのだ。ただ、ではすまんはずだが・・・」
そういう言って考え込んだが、しばらく考えてやめた。無駄と思ったらしい。
「まあ、“聖女”の傍におるのなら敵ではないだろう。あの男もそれほど危険というわけではなかったしな」
「知っているのか?」
「ああ、主の夫であり、お前の前世の種主だったからな」
「人を馬みたいに・・・ええ?つまり、俺の前世では父だったのか?」
「・・・おう。そういうことになるな」
ポンと手をたたいていった。
「だからといって、お主とあの男の関係など薄い気がするがな」
「そうなのか?」
「おそらくな。あってもなんも反応しないはずだ。何せ、我が主も数ある妾のうちの一人であったし」
「そうなのか・・・ええ」
「その男は数少ない世界を征服することができた数少ない魔王だったぞ。主が剣に変えなければ、世界は終わっていた可能性もあったからのう」
「世界を救ったのは錬金術ってわけか・・・なんでも、それが伝わってないのか?」
「ようはわからんが、どうせ強欲な魔術師どもが錬金術が世界を救ったなんて伝説残すわけがないだろうしな」
「ああ、そういうこと」
どうやら、母の錬金術師の秘密は錬金術よりも魔術が優位に立たせたい魔術師側が潰したと言っている。
確かに母の時代から錬金術が発展していれば、世界もだいぶ違うことになっていただろう。
特に銃関係は一般人が魔法使いに対抗しうる力であり、貴族が多い魔術師はほっとくわけにはいかなかったのだろう。
「そういうことね」
文化の発達が遅れているのも魔術師の影響なのかと、嫌なものを感じさせられてトールはため息をつきたくなった。
こうした利権のためにこの世界の文化を遅らされていることに、嫌物を感じた。
「まるで神の意志が働いているようだな」
「そういえるかもな。我や我のような存在がいるのも、文化を遅らせるためにあるともいえる」
「こういう世界がお好みか」
「そういうことだろうな」
ふうとため息をついた。トールは悲しそうなソレを見て、なんだか切ない気持ちになった。
「千年たっても、ほとんど進歩のない世界をみて、主がいたあの頃が懐かしい気持ちになった」
「意外だな」
「なんだ」
「守護者であるお前が、錬金術の存在を認めるとは・・・」
「まあ、同じ景色がずっと続くのは飽きるものだよ。今は人の子として様々な景色を見れるから、楽しいがな」
ドラゴンは嬉しそうに笑った。
「まあ、我も勇者の仲間になって、守護者と戦ってみたいしな」
「なんか、制約はないのか?」
「制約?あるわけがなかろう。所詮この世は弱肉強食。そういうことだ」
ドラゴンはそういうと、目の前にある料理に手を付けた。
「ふむ、うまそうな料理だ。人間になれてすばらしいのは料理というものの味が楽しめることだ」
「確かに、ドラゴンに味覚もくそないしな」
「エネルギー量も必要で味覚などもなかったし、ひたすらでかい獲物を倒して、食べるだけの日々から卒業できそうだ」
「そりゃよかった」
「主には感謝している」
ドラゴンは嬉しそうに笑った。
「そ、そうかよかった」
素直な返事に困ったようにトールは答えた。
「まあ、今は料理を楽しもう。これが終わったら、ギルドに報告しに行くぞ」
「ほうほう。ところでなんの?」
「俺の生存報告に決まってんだろ」
「ああ」
「それで町にいたのか」
「ああ」
「もう少し早ければ、あんなことにならなかったのに・・・」
「まるで俺が悪いように言うなよ。いろいろとあって遅れただけだろうが」
「空の観光をしていたぞ」
「バ、バカいうな!」
「そんなことだと思ったんだよね」
「いいだろ。ドラゴンライドなんて竜騎士でもなければできないんだからな」
「一般的にはそうだね」
「そうですね。アレスはその訓練をしていたわけだし」
「くっそ、うらやましいぞ。勇者」
「勇者の特権だし。それは文句ないだろ。ちなみに今は勇者じゃないので、元をつけろよ」
「なんで、勇者をやめることに?」
「「ひみつ」」
「夫婦で嬉しそうに言うな」
「仲がいい夫婦とはいいものだな。なあ、主」
「お前と夫婦はいや」
「なんでだ?」
「なんでも」
「冷たい・・・」
ドラゴン少女はうなだれた。