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友の剣 3




「ブラックドラゴンの前においてきた!」




 聖女であるセイラはその看板を殴り捨てるかのように驚いた声を上げた。


 相棒であるネヴィルが困ったような顔になり、彼女を制するような態度で落ち着くように促した。


「おちつけって」


「だって、一般人を自分たちが死ぬかもしれないのに勇者が置いてきたのよ。ありえないでしょ」


 セイラが他にも聞こえてしまうような大音量でそんなことを言った。聞こえても構わないと思ってやっているんだろうなとネヴィルは思った。


 魔王の剣の主であるネヴィルはひょんなことから、“聖女”様一行に加わることになり、現在では聖女のお目付け役になっている。


 ちなみに他にも仲間として2名が参加している。全員、幼馴染で今もそれなりに仲良しではある。


「まあ、ありえないというか、依頼者を放置して逃げるはな、プロとしても非常にまずいだろう」


 ネヴィルも勇者出した回答には賛成はできない。


「仕方ないだろ。あいつはに剣も魔法も通じなかったんだから・・・」


 それらを振る前に威圧を受け、尻尾を巻いて逃げてきただけなのだが、それすら口にしなかった。


 そんな理由で残された民間人にしか過ぎないトールがいかにして、囮になったのか、というかどうやって囮になったのかも気になることだ。


「よく、彼がそんなんで囮になれたな」


 ネヴィルが少し感心したように言った。一般人を放置しても普通は囮にもならず、道端にいる蟻のように踏みつぶされるのが普通だ。


 囮にすらない。


 それが囮になったのだ。ここにこの勇者がいるということは、トールという錬金術師は囮としての役割をこなしたということだ。


 たった一人で・・・


 それだけで、十分な価値があるような気もするが、そのことに目の前の勇者気が付いているのだろうか?


「つうか、民間人を連れて行って、そんなんじゃあ、お前らの立場大丈夫なのか?」


「うちの冒険者ギルドが依頼をなかったことにしてくれている」


「なるほどな」


 それで合点がいったような気がした。そんな依頼などなく、単身で乗り込んだことになってしまったのだ。


 生きていれば、文句の一つや二つもあるだろうが、死人に口なしということだろう。


「困ったことになったな」


 ネヴィルがセイラを見て言った。死体があれば、死体がちゃんとあれば、セイラの力で“蘇生”を行うことはできるかもしれないが、相手はドラゴンだその可能性も低いだろう。


 ただ、その僅かな可能性を掛けるだけの価値は“神殺しの剣”にはある。


 例の魂がいつ転生するかわからないし、それならば、勇者の剣に人間に戻っていただいた方がいいだろう。


 その方法も未知ではあるが・・・


「だって、あいつは一回の錬金術師、俺は勇者だ」


「勇者ね」


 本物の“聖女”が偽物の“勇者”を見た。


「ネヴィルの方が勇者ぽいね」


「どっちらかといえば、魔王に近いんだがな」


 ネヴィルが困ったように言った。すると、勇者がネヴィルの剣を見た。


「なんだ。それ・・・魔剣か?その割には恐ろしい力があると・・・」


「それくらいはわかるんだ。魔王の剣よ。ホンモノの魔王が剣になった剣。現存する剣の中では勇者の剣の次に出来のいい剣よ。だけど、それだと私たちが狙っているモノの首を取るにはちょっと力不足なのだから、もっと別の剣が必要ってわけ」


 それを聞いて、勇者が目を見開いた。


「そうよ。なぜ、その錬金術師が尊いのかわかった。あなたが一介の勇者だとしても彼は違うの。彼は勇者を生み出せるような存在なの?」


 セイラは勇者の額に指をさした。


「彼はある意味、あなたなんかよりも、いえ、私以上の高貴な存在なのよ。この世界においてはね」


 セイラは聖拳技を込めた突きをその額に刺した。その勇者は後ろによろめて、座り込んだ。


 その表情はおびえていた。


「バカな・・・あいつは勇者を・・・あいつが勇者を・・・生むって?だって、あいつは、あいつに並びたいだけの存在じゃないのか?あいつは・・・」


 自分のしてきたことにおびえ、恐怖を覚えていた。


 彼の中の何かが壊れているように見えた。


「哀れね」


「それ以上はいうな。かわいそうだ。だが、自業自得しか言いようがない」


 ネヴィルはため息をついた。そして、彼の姿がかつての自分のようにしか思えなかった。これは無理に冒険者をとして、英雄の子供として戦ってきたら、こうなってしまうのをネヴィルは容易に想像することができた。


 自分の弱さを人に押し付け、その犠牲の元、上にのし上がっていく姿。それが勇王国の勇者だった。


 彼が無能というわけでない。ただ、勇者になるには才能が足りなかったのだ。そして、それを補うだけの努力と知恵を振り絞らなかった。


 ただ、それだけ。


 それだけだが、そこがもっとも、人として重要な部分だった。


「行こう。辛くなる」


 ネヴィルは立ち上がって、セイラに他に行くように促した。セイラは何か言いたそうにしていたが、ネヴィルに従うことにした。


「ネヴィル。あの人は変わるかな」


「人はそう簡単には変われない。楽を覚えてしまったら・・・、快感を味わってしまったら・・・」


「ネヴィルは変わった?」


「わからん。だが、努力はしよう」


 ネヴィルは静かにつぶやいた。






「ネヴィルたちも大変だったな」


「ええ、あの人たちも急いで出発したら、本人たちがまさかの聖都に来ていたとは、というか、ニアミスしていたのか君ら」


「どうだろ。俺らがついたの聖女たちが旅立つ寸前だったから」


「あれはセレモニーで本人たちはとっくに出ていたけどな」


「マジで!」


「いや、影武者ぐらい仕込むよ。警備大変だし」


「初の王族にして聖女の巡礼ですから、仕方ないでしょう」


「うっそー、あれ偽物だったの・・・」


「ちなみにアレスの幻惑魔法ですけどね」


「勇者の剣か?」


「トキア。それはいうなって、僕の幻惑魔法は・・・」


「そうでしたね。今のアレスが使えることは内緒でしたね」


「だから・・・。まあ、同じギルドないですから大丈夫でしょ」


「まあね」


「つか、お前、ただの戦士じゃないのか?幻惑魔法が使えるって?何それ・・・」


「それらも水系の魔法ですから・・・」


「便利だな泉の精霊」


「泉の精霊は男を惑わし、水の底に誘うものもいるらしいですよ」


「こええ」


「まあ、気をつけた方がいいな。川や泉にいる上半身裸の痴女にはな」


「言い方酷いドラゴン様」


「お主、竜に恨みであるのか。元竜の姫。時々、我に毒があるような気がするぞ」


「きっとの気のせいですわ」


「あやしい」


「続きをしてくれるとうれしいな。二人の話が盛り上がる前に」


「そだな」

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