友の剣 2
「さすがだ。これを成功させるとは・・・」
トールの発した光が消え、そこには美しい少女がぺたりと座り込んでいた。裸だったので、トールは羽織っていたマントを少女の体にかけた。
「さすが、俺」
トールは喧嘩に満足したようにいった。
ドラゴンの姿が変わり、そこには小さな少女がいた。
「すえおそろしいな。ドラゴンという存在を人型に圧縮したのか・・・魔力を込めれば、以前のように力が振るえる」
少女が右手を振ると傍にあった岩が何か巨大なものに薙ぎ払われたように粉砕された。
「人の身でありながら竜の力が振るえる。これはいささか反則じゃな」
少女はマントを羽織ったまま浮き上がった。
「竜翼、竜尾、竜の息吹」
少女は黒い霧を口元から噴射された。その黒い霧が岩にかかると岩を溶かした。
「お主最強では?」
「マジか・・・それって、火薬の材料・・・お前最高だ」
「いや、主突っ込みを入れるのはそこではないぞ」
錬金術師のサガなのか、トールが特殊なのか、喜んでいるのはそこではないと少女は言いたかった。
「ドラゴンバイト」
少女はそういって適当にあった岩に手を差し出すとその岩が砕けて、パラパラと散っていく。
「生命活動に人間並みの食事がいるだけで、あとは魔力を込めれば竜の力が振るえる。とはいえ、竜自身の魔力からすれば、肉体を普通に扱う程度に少々上乗せされた程度・・・使えるな」
少女は感心したように言った。
「これは幻獣どもがこぞってお主に依頼に来るもののような気がするが・・・」
少女はやたらと火薬の使い方を妄想してトリップ状態に入っているトールを見た。
「これで魔力を使えば、元に戻れるならよりいいもののような」
「できるぞ」
「へ」
二重の意味で驚いた。人の話など、聞いていなそうな状態であったが、聞いていたらしいトールから返事が返ってきたし、まさか、それができるという返事だった。
「出来てしまうのか?」
「ああ、いちお、竜化というスキルがある。ただし、長時間戻らないと人間にもどらない。要は俺の掛けた術がとけてしまうということだ」
「再び、かけることはできるのか?」
「難しいと思う。ただ、もっと、縁が深くなったりしたらできるかもぐらいだし、間違いなく、期待はしない方がいい」
「なるほど、それは難しそうだ」
少女は自分の体を見て、感心していた。
「まさか、このような術を成功させるとは、血は・・・いや、この場合は魂は侮れないな」
ドラゴン少女はうんうんと感心したように言った。
「そうそう、人型の時に名前がないと面倒だから、名前とか教えてくれ」
「名前か・・・付けてもらったような気がするが・・・忘れた。今の主はお主だし、お主がつけるべきだろう」
「ふむ、なんとなく、お目の姿が黒百合ぽいから、リリィで」
「リリィか、ドラゴンに性はないのだから、女性ぽくなくてもよいのだが、この姿では女性の名の方がしっくりくるからしたかないのかもな。では、我は今日からリリィと名乗ろう」
「頼むぜ、リリィいい相棒になりそうだ」
「火薬という言葉を忘れてそうだな」
「・・・そ・・・そんなことはないぜ」
「目線を逸らしては説得力皆無だぞ、主」
リリィの突っ込みにトールは苦笑いをした。
「さて、これからどうするよ。主」
「火薬の材料を集める」
「やると思った」
「ふっふふ、かやく、かやく・・・」
トールはうれしそうに歩き出した。
「主よ、大切なことを忘れてないか?」
「火薬以外に何か大切なことあったか?」
「ふむ、会ったような気がしたんだが・・・主は何でここに来たんだ」
「素材材料集め、竜の」
「ああ、我がここにいるし、問題ないな」
「だろ。さあ、集めようぜ」
「何か、大切なことを・・・」
リリィはいそいそと火山での火薬集めをし始めるトールをみて首を傾げた。
「勇者たちを忘れてますね」
「屑よりも火薬の方が大切」
「生存報告は大切。あの時、君はほぼ死んだことになっているからね。世間では」
「そう怒るなよ。アレス。こうして生きているだろ?」
「僕も不思議と死んだ気はしてなかったけど、予想の斜め上だよ。まさ、ドラゴンを従えているとは・・・」
「ふっふふ、我が主は人智を超えた存在ゆえにな」
「というか、そんな攻城兵器を作っていたんだ。それ各国が欲しくなるんじゃないのか?」
「欲しくなるかもな。けど、売る気はないぜ。俺は魔物に対抗するために作ったんだからな」
「それをあの時に間に合う様に来てほしかった」
「すまんな、生存報告をしなきゃと気が付いたの2週間分の食料がなくなった時だったんだ」
「それにしては随分と持ったような気がしますが・・・」
「我が採取してきたしな」
「まあ、俺の手にかかれば、山に素敵なキッチン付き山小屋なんて、すぐにできるからな」
「コトカリウスの羽毛でできた布団に、キマイラの毛で出来たマットなど珍妙な品物が多いですがな」
「なんでそんなものが・・・」
「我が狩った!いい力試しになったぞ」
「主が主なら」
「従者も従者ということですね・・・アレス」
「これは仕方ないね。トキア」
「「うんうん」」
「お前らもたいがいだからな!」
「「え?」」
二人の夫婦は目を丸くして、同じようにトールを見た。