友の剣 1
ホワイトデーですね。たまたまなんですが・・・
他のメンバーの動きをトールを中心に書いていきます。
(よくぞもったな。裏切りられたにもかかわらず)
「ドラゴンに褒められてもうれしくない!」
即席の塹壕に籠りながら、勇者パーティーに見事に見捨てられたトールは毒づくように言った。
そこであることに気が付く。
「ドラゴンが喋った!」
トールが驚きの声を上げて、ついつい顔を出す。
(そう言えば、王竜殿などはあまり人前ではしゃべらないようにされていたな)
「何を言ってんだ?」
出てきた言葉に首を傾げた。“王竜”というのは実質的にワルシャル竜王国を支配していると言われているドラゴンの名前だ。
その知り合いでもいるのだろうか?
というか、そんな噂聞いたことがない。ドラゴンがお告げをしてくれるなどというのは・・・
(それはただしくないな。あちらは我らの言葉でしゃべることができ、王竜や我は人と暮らしていた期間がある故に喋れたのだな。普通の竜族はしゃべることはできても人語を理解しようとは思わんだな)
さり気にとんでもないことを言っているような気がしたが、そんなことより現在の状況である。
最初は一人でも多く逃がすため、気を引き、くそな勇者の逃走を援助していた。
特殊な螺旋状の溝を彫りこんだ筒を作り、爆破物と岩を詰め込んでぶっぱなすという攻城兵器のようなものを作り、それをぶつけて気を引き、塹壕に籠りながら、さらに離れた場所に砲台を作り、それで弾を飛ばすということをやっていた。
ドラゴンのブレスで壊されてはソレを作るということを繰り返していた。
割とマグマを溶岩で包み込んだ弾は効果があるということがわかり、それをよくぶつけた。
火山地帯ということで溶岩とマグマ、火薬とい呼ばれる爆発する黒粉の材料には事欠かなかった。
材料があれば、トールの錬金術の腕があれば、何とか作ることができる。というか、そうでもしないとここの空気がトールにとってはかなりの毒のようで、その毒を集めていたら、火薬の材料の一つであり、もういくつか材料を集めると火薬ができた。
下手に穴を掘ると毒ガスがでてくるのだ。それを何とか集めながら、ブラックドラゴンと対決するというハードな戦闘をこなしていたのだ。
そうでなければ、トールがダメージをそこそこ当てて、気を引くなんてできかった。
これらの知識はトールがアレスと共闘する際に怪物との対決になる可能性を考え、錬金術の本からこういう攻城兵器について魔王軍の使っていたものについて調べていた。
かつての魔王軍の中にはこういうものを作り出す天才がいたらしい。その魔王の知識を頼っていろいろと探すと銃と呼ばれるものや大筒などのものがあった。
あとはミサイルと呼ばれるものもあった。かなりの遠距離を飛ばすことはできるが、問題はその精度だ。当然だ。
何キロもさきにあるものに充てるのに風向きや様々な要因があるにも関わらず手足のように動かせるわけがなかった。だが、そのミサイルはわずかに自立して動けるらしい。どんな風にすればそうなるのかわからないが、特とにかく凄い兵器なのは分かった。
トールはそうした夢のあるよくわからん眉唾物としかもえない技術に憧れて、それらを研究していた。
もっとも得意とする錬金術、錬金術とも呼べないものでは、勇者と一緒に戦うことなどできないからだ。
“神の薬師”、勇者を治療術で助け、冒険者を連れて行かなければ、入ることすら容易ではない精霊の森を徘徊する薬師。
騎士の特性のないトールはそういう存在に憧れていた。
騎士の特性を持つには剣の腕や聖拳技などがなければいけないが、トールが持ちえたのは錬金術だ。しかもかなり特殊な錬金術だ。
錬金術の腕があれば、実は装備品の維持費が安くて済むので、重戦士向きととも言われている。
装備の維持費が安く、また、ポーションを自分で作れたりするので、薬代も安い。冒険者としてはタンクと呼ばれ、前線を維持できるのである。
トールもそうした冒険者を目指したが、やはり、戦闘の才がほとんどなく、芽を結ばなかったので、こうして支援に走ることになった。
そんなトールだが、今回の件でトールが怪物たちに対抗できうる手段を手に入れた。
故にこんなところで死ぬ気なんてなかった。
くそでも勇者としての才を開花しうる者たちに未来を繋ごうと思ったが、そんなことよりも自分の方が価値があるように思えた。
だから、塹壕を作ったり、穴を掘って地下に逃げたりをなどを繰り返して生きているのだ。
ポーションで水分と気力を確保しつつ、干し肉を熱くなった溶岩で焼きながら、しゃぶりついて、ここ何日か戦っていた。
ここ数日、まとも寝ていない。寝たら死ぬと思っていたからだ。
そんな戦いがずっと続いているとさなか、竜が話しかけてきたというわけだ。
(あんな者たちよりもお主の方が明らかに価値があるように思えたな。我が火傷を負うような事態初めてだぞ、人間)
「おほめにいただき光栄ですよ」
空中の毒ガスをかき集める錬金術をしながら、そんなことをいった。トールはこの命のやり取りの中で、また、一つも二つも錬金術の腕をあげていた。
繊細な空気中の薬成分集め、岩で作った大雑把な大筒づくり、ちなみに現在では真直ぐ飛ぶように改良もされている。
ブレスですぐに壊されるので、使い捨ての奴で充分だと判断し、そこそこの耐久で作っているので、今のトールならものの数分で作れるようになった。
ちなみにこの物の数分で作れるもので、攻城兵器としては破格の性能をもっていることに、トールは気が付いている。
もう少しマグマ弾の皮を厚くし、壁にぶつけるだけで壁がマグマの熱で溶解し、そこにもともと質量もあるので、その一撃で守っている側はかなりの大打撃となる。
市街地にこれを放り込もうなら、阿鼻叫喚としかいいようのない恐ろしい事態になる。
町の建物は木でできている部分も多い。納屋や柱などがそれだろう。それが燃えてしまうのだ。そもそも、街中にマグマが降ってくるようなことは想定していない。
このマグマ弾10町に打ち込むだけで・・・
トールはその事実に気がついていたが、そんなことにならないように願うばかりだ。
そんなドラゴンが動きを止めて、空からこちらをじっと見つめている。
(おぬしは・・・まさか)
「なんだよ」
ドラゴンは以前にトールにあったことがあるような対応をしてきた。むろん、トール自身ドラゴンに合うような状況もなければ、縁もほとんどなかった。
ドラゴンの素材ですらあったことなく、仕方なく冒険者に依頼して連れてきてもらったのだ。
王国の勇者を名乗る者たちなら、何とかしてくれると思ったのだが、世の中層はうまくいかないらしい。
(勇者が友人にいたりするのか?)
「妙なことを聞くな。アレスは確かに俺の友人だ」
(なるほど、主が相当な手練れの錬金術師だと思ったが、そういうことか)
「何が言いたい」
(お主は我が守れなかった主の息子の魂を受け継いでいる)
「はあ?」
(転生者・・・というほどの大げさなものではないが、お主を主と認めよう)
「・・・信じられるか」
(わかった。何をすれば証明できる?)
「何をか・・・」
そこに不意にトールの頭にはある錬金術が浮かんだ。存在そのものを作り替えるという禁忌の錬金術。
攻城兵器ようの錬金術を見つけたに見つけた禁呪らしいが、そもそも、それが使えるほど人から信用を得なければいけないらしい。
「ふんじゃあ、一つ試そうか」
トールはやけくそになって出てきた。
もうすでに食料も尽きている。ここで戦っても飢餓で死ぬのだ。それならば、ここで潔く死んでも構わない。
アレスと共闘するという夢は潰えたが、自分が生きるか死ぬかの状況でそうも言ってられない。
うまくいけば、自分を置いていったあいつらを見返すこともできる。
「お前にとある秘術を使ってやる。それが成功したらお前を信じてやろう」
(ほう・・・)
「別に死ぬようなことはしない。お前を作り替えるような術だ。何、お前が俺を信じなければ、何も起きない術だ」
(おもしろい。それは主が魔王を作り替え、己を作り替えたあの術のようだ。お主ならできるかもな)
それを聞いてトールは額にしわを寄せる。
人を作り替える?性質を変えるだけではなく、存在そのものを物体に変える。そういう術があるらしい。
トールの錬金術に近い、または、親子関係にありそうな術だ。
「あんたは俺を信じるのか?」
(信じよう。主と同じような道をたどろうとも、お主にそうされるなら、本望といえよう)
「わかった。俺があんたをかわいい幼女に変えてやる?」
(幼女なぜ?)
「なんとなく」
(まあ、人型のデザインはお前に任せる)
「行くぜ!」
トールはドラゴンの体に触わろうと手を伸ばした。ドラゴンは地面に着地し、トールに向かって頭を垂れて、トールに触れさせた。
トールとドラゴンの魔力があたりを包み込んだ。
「何故。幼女?」
「初恋が、とある少女のような少年だったからな」
「ああ、なるほど・・・って、コラコラ」
「アレス・・・」
「さすがに手を出さないから」
「まあ、アレスは幼い頃はかわいい子でしたから・・・許しましょう」
「トキアさん。あんたとは仲良くできそうだ」
「やめて」
「「はい」」
「俺を通して仲良くなるなよ」
「お主はいろいろな意味でモテモテじゃな。さすが勇者」
「元だし、それはいやだ」
「はっははは」
「笑うとこか?ロリドラゴン」
「楽しそうな方々ですね」
「困った幼馴染だ」
「いいではないですが、私も困った幼馴染がいますが・・・」
「トキアのとは、方向性が違う」
「確かに」
どこかの竜騎士がくしゃみした。