勇者ギルド in 魔術学園都市 42
「手の程度かい?古き勇者?」
フィンは絶望に近いものを覚えていた。あたりには霧が漂っている。
相手の能力の解析は終わっていた。だが、それは対抗できるようなものでなかった。
同じように力をふるうこともできるが、同じように扱えるとは限らない。
“霧”。
それがアレスが新たに手に入れた“泉の精霊”よりもらった能力である。対象に視界を閉ざし、霧と意識を同調することによって“霧”の中にいる対象に攻撃を行う。
そういう能力だ。
“霧”の中にはアレスという怪物のほかに泥上の怪物が潜んでいる。それがトキア姫が作り出した泥人形というものだ。
これは泥人形というゴーレムに近い泥で出来た人形のようなものを動かすことによって攻撃を行う。その泥には魔力吸収の性質があり、まとわりつかせることにより、魔力を吸収し、さらにある一定の質量があるため、拘束もできる能力だ。
アレスはトキアと感覚を同調させることにより、その泥人形の使い方を学んだ。
そして、トキアはアレスから泥人形に魔力吸収の性質を含ませる要領を学んだ。
つまり、この恐怖映画のような現象は二人の合作に近く、二人が使うことができる異様な空間なのだ。
水属性は空間系の性質もあり、収束、分散などの系統も実は含んでいる。“七星”の水楔が対抗呪文的な性質を持っているのもこのためだ。
“水楔”は魔術式を分散させる効果があり、魔法対抗としてはかなり優秀な武器なのだ。。
もちろん、この“霧”も持たそうと思えば、そうした性質を持たせることができ、加えて、アレスには魔力吸収の性質も持たすこともできる。
アレスは自分はこの霧の中で魔法が使いたい放題かつ、その中に化け物を潜ませ、相手の魔力を奪う。
アレスは盾にして、自在に姿を変える武器を手に入れたのだ。
トキアと合流し、お互いの秘密を共有することによってはじめて得た力なのだ。当たらな絆の力ともいえるかもしれない。
故に今の彼がより“勇者”の剣が以前によりも必要なくなってしまった。逆にこの“霧”を維持するために“勇者”の剣が邪魔ですらある。
“勇者”の剣には実は“解析”をするためにある程度のリソースを割いている。アレスもそれなりに鍛えてはいるが、それでもこの“霧”と仕掛けを維持するに能力が足りていなかった。
同様のこと以上のことができる“嵐”には恐怖しかないが・・・(あちらは軍団をある程度維持し、数時間以上戦える化け物。数年以上かけて、毎日のように鍛え磨いてきた技術だ。年期が違うだが・・・)
対応に困っていたのは“勇者の剣”を手に入れ、数々のチートの魔王を葬ってきた歴戦の経験のある“勇者”でも異常ともいえるこの状況に対応できていなかった。
霧の中から繰り出される化け物と対峙してきたが、どれも厄介この上ない。
ほとんどが、リザードマンと呼ばれるトカゲの頭の化け物だが、切って切っても死なない。
生命ではないし、術式で動いている。その術式を探せということになっているが、“霧”で塞がれ、まともに戦うことすら許されない。
「厄介すぎる」
(あの子がここまで成長していたのは意外です)
「まあ、あなたが喋れたことが意外だよ」
フィンは困ったように言った。
(目覚めたのは最近ですからね。あの男に出会ったから)
「剣にした魔王だっけ?」
(ええ、あの暴虐武人なダメ男)
「あっそ」
不意に霧の中から現れた泥のリザードマンが姿を現し、泥で出来た槍でついてきた。
フィンはそれをギリギリで回避して、リザードマンを切りつけた。リザードマンの姿が泥となって消えた。
水魔法の性質を使って、リザードマンを構成する要素を分散させたのだ。“霧”の影響があって、剣本体をぶつけないとまともに効果が発生しないのだ。
「くっ」
フィンが思わず言った。メイドの時もこんなことはなかった。次々に姿を現すリザードマン。
二人の愛の情熱を魔力に変えるという、なんだかよくわからない性質を持っている“泉の妖精”の力によって破格の魔力を持つアレスがどんどんリザードマンを繰り出した。
「うざったい!」
フィンが叫ぶように言った。
(あっ!)
フィンがリザードマンに意識が行っていると、勇者の剣が上に注意ということを言われた。
フィンがそう思って上をみるとモップをもったアレスがフィンに打ち下ろしているところだった。そのモップにはたっぷり水分が吸い込まれている。
今のアレスにとっては鉄の剣よりも魔力が込められやすいものになっている。
魔力の大量に含んだモップの先がフィンに向けられて振り下ろされた。牛にはねられたような衝撃をもろに受けて、フィンは意識を失った。
「油断大敵」
そんなセリフをアレスが言ったが、フィンはこれは油断ではないとと断言した。
こいつも含めて、ここにいるメンツはやばいことにフィンは今更ながら気が付いた。
“勇者”とは解析するのが主な機能だ。そして、それを相手以上に使いこなす。
ただ、それにも限界がある。ただ、力を使うだけでいいものならいいが、逆に練度を積まなければできないものに対しては効果が低くなってしまう。
また、大量に魔法が必要だったり、魔法演算などとも言われている魔術式を立てる脳の機能、長年の職人のような繊細な集中力を要する技能などは解析ができても同じように使用できないことが多い。。
例に上げるなら、ガルドルの“炎身”なども、いちお、できることはできるが魔力が足りなくて、ガルドルのようにはならない。
普通に魔力で身体強化を行って対抗する方が、まだ、マシだったりする。“解析”をより深化させて、筋肉や目、魔力の動きなどから行動パターンを読み、先読みさせた方が分があったりする。
今回、アレスはその弱点を見事に突いてきたのだ。
これは“勇者”が理解できていないものでないとできない戦い方だ。
視界を物理的も魔力的にも封じるという“霧”の力を使ってうまく戦ったためだ。さすが、自称“堕ちた勇者”だ。強すぎる。
フィンは“勇者”になってもてはやされるとは思ってはいなかったが、こんな修行の日々が続くとは、弱さを知らしめられるとは思いもよらなかった。
今世は化け物が多いように思えた。魔王以上の・・・