勇者ギルド in 魔術学園都市 41
「“七星”を返す?」
思わぬ言葉が返ってきて、男は目を大きく開いた。
「ああ、俺じゃあ、お前らの期待には応えられない」
「バカな、それではどうするつもりだ?」
「何をだ?」
「それがなければ、お前はまともに戦えないはずだ」
その男は断言するようにいった。ラプサムはそれには肩を竦めて答えた。
「別に魔剣が“七星”である必要はないんだよな。俺」
ラプサムは質のいいソファーに座りながら、ふんぞり返りかえった。。
「俺以外の奴にやらせるのがいいだろう。俺も25を超えて、三十路に向かっている。そんな俺よりも10代とかの学生に持たせた方がいいに決まっているだろ?」
「“七星”では届かないというのか?」
「まあ、それだけじゃあ、無理だな」
淡々とラプサムが返した。
「“七星”派をつぶす気か?」
「まあな。そのつもりでもある。というか、俺はお前らに関わりあいたくはないしな」
「何をしっている?」
「精霊の支配」
それを聞いて男が立ち上がった。
「貴様らが精霊を支配し、暴虐のかぎりをつくしているのを知っている」
「いや、違うな。お前らが恐怖したのはある男の存在だ」
それを聞いて、男の顔色が急に変わった。
「“嵐”だろ?お前らが恐怖し、恐れたのは・・・」
「・・・そうだ。われわれはあの男が言うことが信じられなかった。魔王という精霊を呼ぼうとして、われわれから反発を受け、闇に消えた男。それから、突如、全世界に名前を轟かした“嵐”という風の精霊使い」
「まあ、“嵐”は精霊使いとして優秀なだけではないがな」
ラプサムは肩を竦めて言った。
「あの戦場を支配する正に嵐のようなあの男に多くのものが憧れ、そして同時に絶望を覚えたものだ」
「それほどまでにあの海戦はでかかったか?」
「・・・そうだ。やつが自分の国を粛正することによって、大きく軍の力が減ったと我々は思った。だが、それ以上におそろしいものがいた。あれは嵐の魔王だ」
「そこまでなのか?」
「そうだ。たった、一人の男に30分もしないうちに1万はいた兵の半数が死亡し、敗走が決まった。戦うことなどできなかった。気が付けば、次々に死んでいく仲間を見て、次は俺ではないかという圧倒的恐怖。あれはあそこにいなければ、わからない恐怖だ」
男は震えた。
「だからだ。だから、われわれはあの力が欲しくなり、精霊の力を望んだのだ。そして、支配してあの男のように使用することができれば、あの力を得ることができる。あの男のように・・・」
それを聞いてラプサムは大きくため息をついた。
「無理だ」
「何?」
「あれは長年の努力の積み重ねで出てきてるとんでもない技術だよ」
ラプサムは言った。
「お前は見たことがあるのか?」
「見たことはない。体験したことはない。だが、それに近い技術を知っている。そして、それを知って、噂に聞くあれのように扱えるなんて思ったことはない」
「何?」
「奴は300人の兵士を同時に操っているんだ。それも一人一人が高度な技術を持っている。人でないゆえに、人以上の腕を持たせたりしている。そんなことが一体一体にできるのだ。そこに行きつくまでどれほどの鍛錬を積んだのか俺は知らない」
「何?」
「“嵐”は天才ではない。愚直までの努力家なんだよ。故に誰よりも強く、誰よりも恐ろしい。戦場は奴にとってはホームグランドのようなものだ」
「バカな」
「一対一なら、何とかなるかもしれないが、戦場では奴には会いたくないな。正直」
ラプサムは肩を竦めて言った。
「でも、強くなれるのだろう?」
「奴の精霊の力は風を支配すること、物を音速で運ぶことだ」
「それだけで、あの力が操れると?」
「風で剣を作る。それを風で操る」
「それがどうした?」
「風で剣を作り、それを風で操りながら、もう一つ風の剣を作り、それを風で操る」
「風使いなら、多くのものができることだな」
「やつはそれを風で自分の感覚を広げながら、精霊の魔力を借りながらその数を増やしていった。そして、その一つ一つが達人級だとしたら?」
それを聞いて、目の前の男が血の気が引くような気がした。
「あの兵士はただの兵士ではない。すべてが“嵐”の分身であり、その技量は本人でもあるのだ」
「バカな」
「義弟曰く。300人分の訓練がフィードバックされて本人的にはかなりいい修行になるらしいぞ」
それだけで血の気が引くような気がした。ありえない。そんな言葉が頭中に木霊した。
「あれは“嵐”が使うから強いのだ。“嵐”でないと使いこなすことすらできない。奴はそれに完全に慣れている。普通の人間それをしたら、情報量で死ぬ。それだけだ」
ラプサムが突き放すように言った。
男はそれでうなだれた。
「元が強くなければ、あれには届かんと?」
「そういうことだ」
ラプサムは静かに言った。
「まあ、俺もガルドルも奴ぐらいになってやるから安心しろ」
明るく言った。それを聞いて、男は顔を上げた。
「炎身を手に入れたと?」
「ちょっと、違うがそれに近いものを俺は開発した。ガルドル様様だぜ」
ラプサムはそういうと“七星”を置いていった。
「代わりにスノードロップがほしい」
それを聞いて男はいぶかしげな顔になった。
「スノードロップは所有者を凍らせる魔剣。その力はすべてを凍らせる。お前では使えない」
「そうか?俺も奴に並びたいからな」
ラプサムは言った。その顔は余裕であふれていた。
「それに俺はじゃじゃ馬の扱いが得意なんだぜ」
ラプサムは嬉しそうに言った。