僕と勇者の出会い 5
僕と勇者の出会い5
「いらっしゃいませ」
笑顔で言ってみた。
視線の先には随分と身なりのいい少女とその親衛隊と思えるようなものたちがいた。
その親衛隊のうちの一人が初対面にも関わらず一切殺気を隠さずこちらを見てきていた。
不祥事で死にそうなった勇者を助けた恩人に対する目ではなかった。
年上なのに大人げないなとそんな印象だ。
まあ、そういう目はかつて所属していた騎士団ではよく向けられていたので慣れているが。
「動けないアレスに代わって礼を言いに来た」
「それはどうも。勇者様の使者ですか?」
「そうよ」
彼が勇者であることを隠す気はないらしい。助けたというオフレはもう回っているしな。
「これはこれは、気高く美しい」
そっと立ち上がり、騎士団時代に習った礼で答えるため、カウンターから出て、少女の前に左片膝をつき、右膝を折り、頭を垂れた。
恰好が恰好なだけに大変残念なものである。
「お礼の言葉、ありがたくいただきます」
「うむ、大儀であった」
薬屋の反応はそれだけで少女を満足させるものであった。
「ワシの名はトキア。ワルシャルの王女だ」
「はっ。しかしながら、私はあなた様に名乗るような名はありません。ただ、薬屋と呼んでもらえれば幸いです」
礼をかいていたが、そう答えた。
「おもしろいやつじゃ。まあ、アレスに代わって礼を言いに来ただけだし、お主の事は薬屋と覚えておこう」
「よろしくお願いします」
その返答に満足したらしく、彼女はそのまま背を向け歩き出し、途中で止まった。
「してそのほう」
「はい」
「いかにしてアレスを治した」
「秘薬でございます」
「秘薬か」
「はい、秘薬でございます」
「・・・それは人に言えぬから秘薬なのか?」
「はい。これはあなた様が王族だろうとお話することはできません」
「わかった。お主はこれからも世話になるかもしれんしな」
随分と聞き分けがいいなと思った。
ただ、世話になるというのは気になるセリフだ。
これからも関りを持とうとする気らしい。まさか、勇者の仲間に・・・
そんな嫌な予感を感じながら、膝をついたまま、彼女を見送っているとフェイルズはこっち向き殺気を隠すことなく見つめてきた。
自分より年上の癖に随分な態度をとるなと感じた。
すると一緒にいたこの国の騎士の男が軽く手を振った。頼りになる人が彼女の側に今いるらしい。
フェイルズよりもはるかに頼りになる男だ。あそこに彼を預けてよかったと思った。
兄か・・・
そんなことがふいに浮かんで笑みを零した。
ゆっくりと立ち上がってカウンターに戻った。
そろそろ、彼女が戻ってくる気配を感じた。僕と彼女は繋がっているから何処にいてもすぐにわかる。
あの美姫と勇者はどんなステキな関係なのだろう。僕よりも素敵な関係なのだろうか?
想像しただけで楽しい気持ちなる。
もうすぐ彼女がそこにくる。そう思うと不思議と幸せな気分になった。
「あれが噂の王女様?」
自称、薬屋の嫁が店に入ってくるなり嬉しそうに言った。
笑顔が素敵な娘だ。
薬屋としては彼女を嫁にする気はないのであるが、彼女の方が大分乗り気でそのためにいろいろと動いている。
それらを行動をむげにできないし、むげにするには彼女は美しく可愛らしく愛しかった。
加えてすでに周りから固められている状態だ。堀は完全に埋められ、あとは本丸に乗り込むだけの状況だ。
正直、彼としてはもう少し生活が安定してる職業の方と付き合うべきと思っているのだが、誰がどう見て彼女は自分に惚れている。
どんな鈍感なやつでも、それに気が付くだろう。これは飽きられめて受け入れるべきだ。
彼女は間違いなく優良物件。
そして、薬屋は当然のように彼女に惚れていた。こんな幸せなことはないだろう。
騎士団時代は憧れの程度であったが、今は違う。
彼女がここに来てくれて、こうして話をしてくれることが、今は非常にうれしく楽しいものだった。
この生き生きとした笑顔が失われる前に事件が解決して本当に良かったと思っている。
薬屋としてはそれだけで十分なのだが・・・
まさか、嫁に来てくれるなんて思いもしなかった。
非常にうれしく、非常に誇れることではある。
きっと、彼女はそれほどまでに貴族たちに不信感があるということだ。
それも仕方ないだろう。
そういう手合いに彼女はひどい目にあったのだから・・・
ということに彼の中ではしている。
そんなことをふと思い返しながら、彼女の話に耳を傾ける。
「義兄さんが警護についていたけど、また、面白そうな事件に巻き込まれそうね」
「全く嫌になるよ。自分の不幸に」
肩を竦めながら、彼女のからかいに答えた。
「あの親衛隊やばそうね。義兄さんも気苦労が増えそうだ」
親衛隊というよりはそれのリーダー格の男だろう。彼に対して一切の殺気を隠さなかった。
腕もそれほど良いものには感じられなかった。
「ああ」
「やっぱ、あなたならわかっちゃうか」
「もちろん」
「ああゆう、悪意にさらされていたもんね」
「まあ、経験者だから同情はするが、何ができるわけでもないんだよね」
同情は先ほどまでいなかった勇者に向けたもので、王女ではない。
「あれはやばいねぇ、よくもまあ、あんなの堂々と連れて歩けるよ」
「かなりの胆力があると見えるわね。王女も」
「周りが悪いのか本人が悪いのか」
「バカは訓練しても治らないというわよ」
「ありゃあ、王女がかわいそうだ」
「あれが婚約者だったら最悪ね。勇者含めてみんながかわいそう」
「俺が勇者を落馬?落竜させましたって顔って言って様なものだしな」
「勇者もあそこまでひどいといえないのでしょ」
「ひどい話だ」
「まっ、どうせ、上手いこと誰かにおしつけて自分は無罪を主張するのってとこかな。ひどい男よね」
「まあ、証言するのは彼の手ものだろうしね。拷問すれば吐くだろうけど、吐いても証拠にはならんだろう」
「だよね」
「この国の話だからこの国で調査できれば、まだ、ワンちゃんがあったかもしれないが、さすがに軍の訓練の話を他国が介入はまずいよね」
「うちの国の審問官は優秀だしね」
「助けられた」
「ねえ」
「正直、この件にかんしてあの王女様があれをどう思っているかわからんしね」
「勇者との仲はいいみたいね。噂では」
「なるほど、婚約者の前でもしっかりアピールと、より歪むと」
「勇者様、美形らしいしね」
「一目見た時、女の子かと思った」
「マジ?」
「ああ、それぐらいの美形だよ。彼」
「そりゃあ、あれよりはそれを年頃なら取るだろうし、しかも、それが勇者様・・・惚れても致し方なし」
「まあ、彼よりは勇者様といた方が幸せだよ。勇者が彼よりも同じ様な性格だとしても」
「あれはひどい部類に入るからね」
すると彼女はカウンターテーブルに身を乗り出して、自分のセクシー部分をアピールしていった。
「でさ、あなたが勇者ならどうする?」
「俺が勇者ならか」
「うん」
「そうだな・・・・・・」
薬屋は妻となる彼女の笑顔を見ながら少し考えを巡らせた。
彼女に見つめられると集中はしずらいが、悪い気持ちにはならなかった。
思考が停止しそうになるのを、がんばって回して考えた。
それほどに彼女は魅力的だ。