勇者ギルド in 魔術学園都市 39
「勇王国では、アレス含め、フィンを勇者と認めていない。アレスが勇者をやめるのなら“勇者の剣”を勇王国に返すべきだということです」
トキアが手紙を静かに読み上げた。
「まあ、そういうことだ。我々と勇王国は常に反していてね」
メディシン卿は苦笑いをしていった。
「彼らは貴族主義でね。勇者貴族が成るべきだと思っているらしい。そして、今回選ばれたのもフィン。つまり、平民からだったからだ」
「私は平民というよりは奴隷なんですがね」
フィンは肩を竦めて困ったように言った。
「その点は安心してくれ、うちの国で圧力をかけて、そういうのを破棄させたから」
「圧力って・・・何をすれば・・・」
「“嵐”の出動」
その一言でフィンは息をのんだ。“嵐”というのはあの“嵐”のことだろうか?全戦無敗の一人で万軍を撃破できるというあの化け物のことだろうか?
「お知り合いなのですか?」
「義兄だ」
メディシン卿の一言で固まった。あの“嵐”の将軍と義兄とはとんでもない人が目の前にいた。
一国の王子なんかよりもネームバリューがあるような気がした。フィンは頭痛を覚えた。とんでもないところに来てしまったと今更ながら思った。
さすが、勇者ギルド。
「なので、フィンにはもうしわけないけど、君の力を示してほしい。君の経歴を見たけど、戦闘とはかけ離れた生活をしていたようだね」
「はい」
「一か月もあれば、それなりに戦えるだろう。ピルク、ミラクの卒業時期もそれに合わせることができる」
「つまり、ここ魔術学園で修業し、勇王国に向かうと?」
「そういうことになるね」
それを聞いて魔王であるシドを見た。
「俺はかまわない。まあ、そういうことなら、しばらく学園生活をするだけだぜ」
「ふん」
フィンは首を横に振った。
「つれないな」
「女なんてそんなもんだ」
バン!
ドレクが余計なことを言うとフェミンがその背中をたたいた。ドレクはかなりの衝撃音をさせていたが、特に表情を変えることなく、困ったもんだという顔になった。
「ふざけるな」
「おっと」
周りを見ると周りの女性陣の目も冷たかった。助けはいないようだ。
「まあいいや」
責められてもドレクは特に気にした様子はなかった。大した胆力だとシドは呆れてしまった。
「そういうことだから、しばらくは足止めをくらうことになった。それに気になることもあるしね」
メディシン卿はドレクの様子を鼻で笑いながら、言う。
「気になること?」
「ああ、魔王に関わる伝承やおかしな魔法がこの町で使われているような形跡があるんだ」
メディシン卿がいうとフェミンが大きく頷いた。
「レミングの目を借りての情報だけど。ちなみにレミングは私のかわいい相棒よ。こんなのとは違って」
「うっせえ」
フェミンの軽口にドレクが嫌そうに答えた。レミングよりもしたのが気に入らないらしい。
「で、レミングたち情報によるとレミング忍び込めない箇所が何か所かあって、さらにそこの警護が魔術的なトラップ含めていろいろと大変なの」
「うちの塔の秘密の部屋的なものか」
ドレクはやたらとなぞ解きをさせたがっていた秘密の部屋のトラップを思い出しながら言った。
そのなぞ解きも、魔王の力が使用できるようになったドレクがすべて術式を吹っ飛ばして解決したのだが・・・
緊急だし仕方ないだろう。
「ええ、おそらく。魔王の研究していた一派が仕込んだものと思われるわ。魔王の亡霊や影などを呼び出すようね」
「奴らの目的とはわかっているのか?」
「魔王の作成のようね。その中でも管理が割と雑だったのが、魔王の複製体の工場がここにあることがわかったの」
それを聞いて、シドは大きく目を開いた。
「魔王の複製体?」
「嫉妬の魔王の複製体ね。複製体のせいか、魔力はほとんどないけど、その回路は本物のようで嫉妬の魔王の力があるわ」
それを聞いてシドは顔をゆがめた。
「“嫉妬”か。ないものねだりの力ってことか」
「わかるのね」
「ああ、知り合いがいたからな。“嫉妬”の力を複製体にしようなんてクレイジーだろ?」
「“強欲”の魔王が仕掛けたらしいわ。それに送る書面の話をレミングが覗き見たから間違いないわ」
「“強欲”か・・・」
「知っているの?」
「慎重な男だったと思う。俺の時期も動いていたが、明らかに俺よりも自由意志が許されていた。俺が生まれるずっと前から存在していたと考えるべきだろうな」
シドの言葉に他のものがざわめき立つ。
「自由意志?」
「そうだ。俺の時はほとんど、自由意志はなく。妄執に囚われ活動していた。俺も人類を滅ぼせと奴に命令させられて、その命令に支配されていた」
「そんなことができるのか?」
メディシン卿が心配そうにシドに尋ねた。
「おそらく、意思の領域を魔術演算などに使用することにより、通常では扱いきれない高度な魔術演算を使用することができるようにデザインした」
「意思の部分のリソースを魔法の演算領域に充てることでより強力な魔王を使用することができたと?」
「そういうことになる。だから、転生した後の俺では使用できない魔法が多く存在している。魔術学校で訓練したことで多少は使えるようにはなっているがすべてが使えるというわけではない」
「魔力量には関係なくって感じね」
レミアが少し考え込むようなそぶりを見せた。
「思ったよりも厄介ね。簡単に意思を消して魔法に充てることによって、術式をくみ上げることができるってことね」
「つまり、お前の代は自分の意思がほとんどなかった。だが、お前はそれでも転生の魔法を使うことができた。おそらく、それは向こうが狙ってではないはずだ」
「ああ、それは俺があいつを手に入れたいと思ったからだ。勇者の剣に応対したとき、今の俺では勝てないと判断し、すぐに使った」
メディシン卿の言葉にシドは素直に答えた。そこには恥じらいなどはなかった。本人が目の前にいるのにも関わらず。
「熱いな」
「私としてはいやですけど」
メディシン卿の称賛とは打って変わって、嫌そうな表情を作ったのはフィンだった。
「もしかしたら、その気になれば、我々も魔王に作り替えられる可能性もあるということだ。これは注意が必要だろう」
「そうか、俺も気を付けた方がいいな」
メディシン卿の言葉を受けて、シドは困ったように言った。
「その時は私がぶったたいて起こしてやろう」
「頼むぜ。愛しの人」
「っ・・・君は本当に馬鹿だな」
フィンは困ったように言った。顔が赤くなっていたのを全員見逃さなかった。
「魔王の精神支配の対策をここで調べるべきだな。資料はあるし」
メディシン卿がそういうと全員その場で頷いた。