勇者ギルド in 魔術学園都市 38
「ようこそ、勇者ギルドへ」
随分といちゃちゃしている奴らが多いなという感想がシドに浮かんだ。
女を囲っているやる。女に寄り添っている奴。距離が近めの男女、イチャイチャする双子、そして、新しい勇者。
「すまないね」
シドに精霊を召喚して契約させた男が苦笑いしていった。
「いろいろあって、こんなことになっているのさ」
そうした輪に加わらない唯一の男がいた。“光の戦乙女の契約者”という名前を持つ男だ。彼が握手で迎えてくれた。
「自称魔王様か、意外ね」
と切り出したのは猫を思わせるような釣り目の女だった。脇にいる巨漢の男が苦笑いをしているが、彼女の無礼な素振りを止めるようなことはしない。
「偉そうにあんた何もんだ?」
「自己紹介はするべきじゃないかしら、自称魔王君」
「・・・っち。俺はシド。魔王の転生体だ。魔王の時にそこにいる勇者の前世に殺されそうになって転生魔法を使用し、こういうことになった」
シドは静かに言った。
「卑怯者」
現勇者であり、前世のシドを殺した勇者だったフィンはそんなことを言った。
「気になるのはお前が俺たちの敵かどうかだが・・・まあ、精霊王が認めたんだから、味方なんだろうな」
精霊王?
女を囲っている男が嬉しそうに言った。挑発する素振りにしか見えない。この男がかつて“天才”と言われ“七星”を手に入れた男であることはすぐにわかった。
炎の勇者の下にいて、随分と落ち着いたらしいが、それがなかなか挑発的な態度だ。
明白にこちらを試すようなそぶりをしていた。
「俺は現勇者の力になりに来た。前世からの縁で共に戦いと思っていた」
「負けたからか?」
「惚れたからだ」
「ヒュー」
シドの返事に満足したのか、“七星”のラプサムはそれ以上何かいうようなことはなかった。
「恋か」
困ったものだという顔をして、元勇者であるアレスを見た。アレスは今はそっと妻であるトキアの二の腕を優しくさすっていた。
トキアもそれを人前であるが素直に受け入れ、嬉しそうに目を細めて受け入れていた。
元一国の姫とは思えない甘えっぷりである。
「そんなんで、腕を鈍らせるような奴は内に入らないからね」
“光の戦乙女の契約者”であるメディシン卿は笑顔で切り捨てるように言った。殺意のようなものが込められている。
「あの二人はいいのか?」
「今は特別期間だから、これ以上はナイーブな問題だから聞くのはなし」
メディシン卿にそんな風に言われたら、それ以上を聞くにはなれなかった。只ならぬことであることはよくわかった。
「ちなみにうちには後衛の枠には余裕があるから、君はそっちを担当になるだろうね」
冒険者のパーティーにおいて、前衛と後衛、中衛、補助と4つのポジションがある。
前衛は戦士に代表されるように前に立って敵の動きを止めるタイプの兵士だ。後衛は魔術師や神官が務め、回復薬や巨大な敵を倒す攻撃魔法を放つ役割を持っている。
中衛はその中間でそれらの動きを補助したり、遠距離攻撃と近距離攻撃の二種類を使えたりするなど、割とやることが複雑でバラエティーに富んでいたりする。
補助はパーティーやギルドの物資の管理をしたり、情報を集めたりするなど、直接戦闘には関わらないタイプの冒険者だ。補助は大型ギルドになれば、なるほど重要なポジションとなっていたりする。
補助の情報でパーティーの生死が決まることが多々あるからだ。
シドは冒険者の役割について思い出しながら、自分がつく後衛について考えた。
「勇者とかは後衛なんですか?」
「普通は中衛のポジションだ。だが、彼女はうちのパーティーだと魔法が不得意の部類だろうだから、前衛になってしまうだろうね」
「まあ、中衛は層が厚いから」
「前衛ができる中衛が多いからなうちのギルドは」
そういって、アレス、メディシン卿、ラプサムの三人がお互いの顔を見た。
「ピュアな前衛は俺だけだぜ」
ドレクが言った。
「障壁を張れますから、後衛もできますよ」
アレスがドレクについて笑顔で言った。それにフィンが驚きの顔になる。そんな器用なことができるとは思わなかったらしい。
「まあ、他の奴らと比べてトリッキーな動きはできないから、補助的な動きができるというぐらいだな」
ドレクがフィンの顔を見ながらそう断言した。
「みなさん、すごいんですね」
フィンがため息交じりに言った。
「“勇者の剣”があるから君も嫌でもできるようになるよ」
「そっちは魔王になれたから、その力は折り紙付きだろうな」
アレスとメディシン卿が新規メンバーである二人をフォローする。
「新規メンバーを含めて話し合いを行おう。我々は今、大きな問題を抱えている」
メディシン卿は少し困ったように言った。