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勇者ギルド in 魔術学園都市 36




「別に助けてあげてもいいわ」




 元“聖女”のレミアは開口一番、そういってくれた。


「フェミンからも、センセイからも報告は受けている」


 先生?フェミン?


 このパーティーには調査部門的な者たちがいるのだろうか?それもそうか、勇者パーティーとなれば、情報集めや裏どりなど必要になってくる。


 そういうことなのだろう。


「羽虫とはね。蟲使いは初めてだったけど、ずいぶん厄介そうなのと戦ったみたいね」


 レミアは余裕の笑みを浮かべていた。その背後には“紅蓮”と“七星”が静かに立っていた。


「だからといって、ただで助ける気にはならないわ。条件があるの」


「お前が俺たちの仲間になることだ。いちお、俺たちは世間では勇者ギルドということになっている。そのギルドに勇者の剣がないのはまずい気がしないか?」


 “七星”がのんびりとした口調だが、異論は許さんと意思を込めて言ってきた。


 言われてみれば、それはうなづける話だ。ただ、フィンから単純に奪えばいい話な気がしたが、あちらはそうは思っていないらしい。


「新たに生まれた勇者の手から力づくで奪ったとなると、われわれ的に対面が悪い」


「アレスがトキアのために剣がいらないとか言い出したしね」


 レミアがそれに続く。“七星”であるラプサムとはすでに夫婦のような雰囲気が出ていた。


 夫婦か、フィンの頭の中に浮かんだのは一人の男。魔王と夫婦とかありえない。


「その剣が男だとよかったんだけどね」


「こればかりはしゃーない。トキアも予後で不安定だしな」


「まあね」


 フィンは何か大きなトラブルがあったように思えた。何があったというのだろうか?


「いったい何が?」


「流産だよ」


 それを聞いて、フィンの背筋が凍るような気がした。おそらく、無理な転移が妊婦のトキア嬢にストレスを与え、お腹の中にいた子が流産したのだ。


 いまさらながら、とんでもないことをしてしまったような気がした。


「トキアの体の方は直してもらったのだけど・・・心はね」


「アレスはそっちの方で忙しいから、勇者稼業どころじゃないだろう」


 レミアもラプサムも二人のことを気遣ってそんなことをいう。良い仲間という奴だろう。


 こんな気遣いができる仕事場をフィンは見たことがなかった。フィンが前世にいたパーティーもこんな気遣いをしてくるようなメンツではなかった。


 全員が利己的で自分勝手だった。いかにも実力だけで集められたメンバーであり、最後には裏切りがあった。


「そうですか・・・」


 私はこのメンバーの中でうまくやれるのだろうか?


 そんな恐怖が襲ってきた。すると、ラプサムが頭を撫でた。


「安心しろ。うちじゃあ、誰もお前を責めることはない。今回の件で悪いのはお前ではなく、元勇者のアレス方だろうな」


「だね」


「そうそう、あなたが気にすることではない」


 レミアが続き、ヘレンが断言するように言った。口数が少ないタイプの彼女が断言したのだ。


 かなり事実に近いだろう。


「いったい何があったんですか?」


「勇者の剣がな。実は元が女とわかってな」


「はい」


 フィンはそっと勇者の剣を手に取り見た。


「マニタニィーブルーのトキアがその件を心配してて・・・」


「運悪くな、そういうときにトキアが捕まり、剣を渡せと言われ・・・今回の件につながるというわけなんです」


 ラプサムに続き、レミアが言った。それを聞いて、フィンは首を傾げた。


 というか、理解が追い付かなかった。


 もともと、赤ちゃんがお腹にいる奥さんが他の女と一緒にいることを心配して、ブルーになっていて、さらに今回の件が起き、それが表面化し・・・


 何それ。完全に踏み台というか、利用されてないか?


「剣と私どっちが大事なのと言われ、剣を差し出したと・・・」


「まあ、なくても強くなったしな。うちの勇者は・・・」


 ラプサムが困ったように言った。


「どっかの誰かさんみたいに鬼のように訓練を始めたしね」


「どっかの誰かって誰だよ」


「鏡見れば・・・」


 レミアとラプサムが仲良く口論をした。


「こっちとしては盛大に巻き込んだ気もするから、お礼も込めてよ」


「はい」


「その代わり、あなたには勇者として私たちの訓練を受けてもらうから・・・何、簡単なことよ。勇者にとってはね」


 レミアがいたずらぽく言った。


「カンタン・・・便利な言葉」


 レミアの言葉を聞いてヘレンがちょっと嫌そうにした。一流の魔術師でもきつい修行なのだろうか?


「こいつなら、あれしなくてもできるんじゃない」


「でも、集中力だけは上がらないから、日々の訓練は必要らしいわよ。アレス曰く」


「まあ、あいつはあいつで五年頑張ったらしいからな」


「ドレクもよ。ちなみに」


 レミアが続けて言った。この人たちは勝手に何を言っているのだろうか。


 修行に5年とはなかなかの月の日のような気がするが、身につくのだろうか。


 というか、私が持っている力以上の何かが存在すると言っているような気がした。この人たちは何と戦っているのだろうか?


「あの羽虫をあなたも落とせるようになりたくない?」


 それはあいつらが使っていた魔法のことだろうか。そういえば、あれの原理がよくわからなかった。


 勇者の剣は解析してくれなかった。というか、すでに解析済みで教えてくれないのか?


「私でも使えるようになるのか?」


「コツがいるけどね」


 レミアが嬉しそうに笑った。




 これから苦しい日々が始まろうとしていた。だが、今までの日々とは大きく違う日々が始まろうとしていたのは、明らかだった。




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