勇者ギルド in 魔術学園都市 32
「アレス・・・様すみません」
自分の足元に広がる血の海を見てすまなそうにトキアが言った。
「私が不覚を取ったために・・・」
「トキア・・・」
アレスはその細い身をゆっくりと抱きしめた。久しぶりに抱き合うのに穏やかな気にはなれなかった。
そこにぬくもりなどはなく、底冷えするような寒気に近いものだった。悲しみというものだ。
「ごめんなさい」
「僕も悪いから」
妊婦における転移の影響を理解していなかった。まさか、それが破産につながってしまうなんて誰も思わなかった。
トキアの子供はまだ小さかった。自己というものに確立する前に使われてしまったのだろう。トキアも守る魔法を使えばよかったのだが、とっさのことでそこまで気が回らなかったのだ。
「すみません」
血の海の上でトキアが言った。
「ごめん」
アレスも抱きしめたまま言った。
「約束しよう。君を連れていくと」
「・・・わかりました。共に生きましょう。私も悪鬼の道を行きます」
「ああ」
アレスは流れ出てしまったソレを見て、静かに言った。
その瞬間、勇者は勇者で完全になくなってしまった。
勇者とはいったいなんのか。アレスはついと問いたくなってしまった。
今の自分はそれにふさわしくないと・・・
「勇者をやめる?」
「はい」
アレスは転移の魔法でトキアと一緒に戻ってきたいた。お腹の方はレミアに治してもらっている。
直したその足でアレスはワルシャル竜王国に転移し、アレスは義父あるワルシャル王の前にトキアを共に連れて行っていた。
「トキアはわしの娘であり、予後が悪くては残するなど・・・」
「強制的に使われた転移魔法のせいです」
「それで勇者をやめるなど・・・」
「勇者の剣を奪われたのはトキアかわいさです」
「・・・・」
「私はトキアかわいさに、世界の平和よりもトキアをとったのです」
「・・・・・・」
アレスの言葉にワルシャル王は困った顔になった。
「これはワルシャル王の意見ではない。娘を思う父親として言おう。お前の判断は間違っていない。世界を敵に回してもわしはそう言おう。だが、ワルシャル王としてはなんてことをしてくれたんだと言わざるを得ない」
「わかります」
「勇者の資格を失ってもトキアと一緒にいてくれるのか?」
「もちろんです。俺は彼女のと会うためにこの世に生まれたんだと思います。勇者の剣を手にしたのも彼女と会うためだったと今では思います」
アレスはしっかりとした口調で答えた。
「ならば、それを認めるしかあるまい。そして、トキアよ。お前は勇者の剣を勇者から失わせた罪がある。王族の資格を剥奪だ」
「はい」
トキアもその返事は厳粛に受け止めていたが、どこか明るいものがあった。
「どこぞの馬の骨ともわからん奴とどっかにいってしまえ」
王の言葉は粗暴であるがどこか暖かいものがあるように思えた。
「元来、体の弱いお前だ。薬師の言うことをよく聞き、幸せにな」
「はい、お父様」
トキアは嬉しそうに答えた。
「お前とは父親の縁は切れてしまうが、お前たちならいつでも会いに来い。孫を連れてな。しばらくはできないと思うが、お前たちは若い。時が来れば、また出来るだろう。その時に顔を見せておくれ」
「「はい」」
王の言葉に二人は深く頷いた。
「達者でな」
「「はい」」
二人は頭を垂れたまま頷いていた。