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僕と勇者の出会い 4

僕と勇者の出会い4



「ここは?」



 気が付くと大都市部にありそうな立派な治療院にいた。


 周りを見たがあの森の側にありそうな治療院ではなく比較的立派と思える治療院だった。


「起きられたのですね」


「トキア様をお呼びします」


 そんな僕の様子を見て、安心したような表情のシスターと優しい笑みをこぼすトキアの従者。


 トキアの従者は立ち上がってパタパタと走って部屋から出ていった。


 その後、しばらくすると多数の足音がし、部屋にトキアとフェイルズがその他の従者達を引き連れて中に入ってきた。


 目覚めた僕をみて、フェイルズは一瞬嫌そうな顔になったのを見逃さなかった。


「アレス!!」


 涙くんだ声でトキアがうれしそうに僕に抱き着いてきた。


 彼女の匂いと彼女の温もり、重さ、肌触り。それが感じることができ、生きて帰ってこれてよかったと思えるのに十分なものだった。


 もっと、彼女を感じたくて、フェイルズがいようとも僕は彼女の背中に手を回した。


 ああ、彼女だ。


 彼女を抱きしめているだけ体がほんわりと温かくなって行く感じがし、幸せというものを感じた。


 そんな僕らを邪魔するためか、フェイルズが声をかけてきた。


「あそこから寝ずに君をここに運んでくれたものがいるらしい」


「ほんとよかったですよ。通りがかったのが“神の薬屋”と呼ばれる方で本当に幸運でした。あの方でなければ、あなたは助かりませんでしたよ」


 その神官は自分の事のように嬉しそうに言った。


 “神の薬屋”そんな名前は聞いたことがない。


 そんなに有名な方なのだろうか?


 たしかに光の戦乙女と呼ばれている精霊ヴァルキリーを従えている薬屋がいれば、そんな名前を与えられてもおかしくはないだろう。


 そんなものがいれば、この国だけではなく。世界にも轟きそうな気がするが、僕には思い当たらない。


 ただ、あんなことができるのはただの薬師ではないのはわかる。


「その方は何者ですか?」


「元騎士見習いの方なんですがね。その方が作ったポーションがかなりの効果があるって、最近、有名になりつつある方なんですよ」


 そういえば、隣国の騎士団などで質のいいポーションが回っているという話がある。それのおかげで大分被害が減っているという噂が確かにあるはあった。


 それを作っているのが彼ということなのだろうか?


 確かにあんな森に出入りできるような人間ならかなりの腕の薬屋の可能性はある。


 しかも、ヴァルキリーと契約ができているものだ。さぞ、高名な方だったんだろう。


「フン」


 そんな方のはずなのに、フェイルズの反応はあまりよくない。


 その方に何かあるというのだろうか?


「聞けば、騎士団を抜けた腑抜け、そのようなものがたいしたことがあろうはずがない」


 とフェイルズが言うと、神官がむくれた顔になる。


「それは・・・」


「そんな方なんですか?よくわかりませんがその方が騎士になる途中でやめられるような方とは思えませんが・・・」


 神官の言葉を遮り、トキアが首をかしげていった。


「騎士になる訓練は厳しいものです。それに耐えれず逃げ出したに違いない」


 フェイルズがバカにするように言った。


 そんなはずがない。


 たかが、薬屋が気を失った僕を背負ってあの森を抜けて、近隣の村を寄らず、寝ずに三日かけてここまで来たのだ。


 それだけでも十分にただものじゃない。いくら僕が軽装で男性でも割と軽い方だとしても・・・


 これは推測でしかないが、彼が騎士団を抜けたのはヴァルキリーと契約してからかもしれない。


 ヴァルキリーと契約するにはヴァルキリーに剣の腕で勝たなければならない。


 そして、ヴァルキリーの剣は魔力で包まれた剣で打ち合うしかないのだ。


 そんな芸当ができる人間がどれだけいると思っているのだろうか?


 本当にその薬屋というのはいったい何者なのだろうか?


 何も知らないフェイルズの前では、彼がヴァルキリーのヒールライトを使った契約者であることは、伝えるべきではないだろう。


 恩人を妙なことに巻き込みたくはない。


「その方は足に怪我をおい、足が悪くなったので騎士団をやめたんです。その後、わたくしがその足を直したんですがね」


 シスターが胸を張って自慢した。


 彼の足を直したのが自分であり、その彼が僕を運んだと自慢しているようにしか見えない。


 フェイルズが何か言ったような気がした。おそらく、余計なことをとかいってそうだ。


 ここまで性格が悪い奴だとは思わなかった。もう少し立派な方だと思っていたが残念だ。


「トキア」


「はい」


 旦那様とか語尾につけそうな嬉しそうな口調で彼女は答え、僕から離れて楽しそうにその瞳が僕の表情を捉えた。


 彼女の大きくて綺麗な瞳が僕の顔を映していた。間抜けな顔をしていた。


「様、動けぬ私に変わって、その者に礼を言ってくださいませんか?」


「もちろんです。その任、私が代わって礼をいいましょう」


 胸に手を当て、王に心酔する臣下のように彼女は答えた。


「姫様がそんなことを・・・」


 フェイルズは未だにトキアが自分の女であることを主張するように言った。


 加えて、恩人である薬屋に合わせたなくないというという空気も出していた。


 だが、姫様の性格を考えれば、お礼を言いたくてしょうがないだろう。


 こうして二人が無事にこの世で出会えたのである。当然と言えば、当然だろう。


 そんな僕らを見て、フェイルズは殺気立った目でこちらを見つめていた。


 殺したくてしょうがない気持ちが隠せていない。ここがワルシャルならそれも容易だっただろう。


 だが、ここは異国の治療院。


 世界の希望と言われている勇者である僕を殺すことなどできるはずがない。


 本国では僕を森の中で不幸な墜落事故で死んだということにしたかったんだろう。


 だが、僕は薬師に助けられ生きている。フェイルズの予定では僕がそこで死ぬことになるはずだった。


 それはあの森だ。フェイルズからは事前にあの森が精霊の森と呼ばれていることをちらっと聞いていた。


 精霊のせいで探索ができず選ばれた者しか入れない森であると。


 だが、それが逆にこうをそうしてしまった。


 僕を助けるに適切な人材が見つけたのだ。


 彼は僕が何者かを判断し、近隣の村ではなく、自分が信頼を置いている治療院まで連れてきたのだ。


 寝ずの三日と王都にそこまで歩く胆力、そして、僕がただものでない、何かあるという適切な判断力。


 体力含めてまさにバケモノと言えるだろう。


 おそらく、近隣の村によらかなったのはフェイルズの手の物がその村に潜んでいる可能性を考えての事。


 王都の治療院を選んだのは、僕が特別であることを踏み、ワルシャル国の者が手を出せないようにするための配慮だ。


 ここでワルシャル国の者が手を出したら、その者もただでは済まない。


 戦争を誘発する可能性があり、責任問題になるだろう。そして、それに関わったものは死刑になるだろう。国賊として。


 そんなリスクを犯さないために彼はわざわざここまで連れてきたのだろう。


 どんな修羅場を越えれば、そんな判断ができるというのだろうか?


「彼の方は僕の恩人ですから、礼をいうのでしたら姫のような方がふさわしいと思います」


―君は僕の愛しの人。


―はい、私はあなたの愛しの人です。


 トキアと目と目で見つめあい静かにそんな会話を交わした。頬が温かくなるような気がした。


「ふん、辺境の村出身の騎士を諦めたような若造にそんなことをわざわざそんなことをしなくても・・・」


 フェイルズは僕らの様子を見て、不快になったのか、そんな口調で言った。


 彼の中で気になるフレーズがあった。


 若造?


 信じられない。ヴァルキリーを従え、“神の薬屋”とまで呼ばれ、危険な森を踏破できるような男が若造?


 フェイルズは二十歳手前、そんなフェイルズが若造と言わせるものはかなり若いということだ。


 そんな同世代でそんな才能あふれた人間が、将来魔王を倒すためにパーティを組むだろう僕の元に、その情報が届かないのはおかしい。


 彼は本当に何者なのだろうか?


「い・・・いや、同世代ならあって友達になるといいよ」


「そうですか・・・わかりました。同世代の方なら私も興味があります」


 トキアは華がある素敵な笑顔で言った。それを見ると僕も笑顔を返したくなって、笑顔を返した。


 温かい空気が二人を包み込んだ気がした。


―見極めてきます。


 それから目を開き、目でそんなことを伝えてきた。


―頼んだよ。


 と頷くことでそれを返した。


 彼女は僕のベットから出ると、ドレスのスカートを両手でつかみ、うやうやましく礼をした。


―承りました。


 そういうと彼女は嬉しそうに鼻歌を歌いながら、部屋から出ていった。


 フェイルズは一度怒気のこもった目で、こちらを睨むと歩き出した。


 シスターが側にいたこの国の騎士に何か話しかけるとその騎士も何か考えるような素振りをして一緒について行った。


 その後、シスターがこっちを向き嬉しそうにウインクをした。


「大丈夫、最近、あの子たちトラブルに巻き込まれているから」


 と何故か嬉しそうに言った。


 意味が理解できなかった。

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