勇者ギルド in 魔術学園都市 28
「ところでいいのはいた?」
フェミンが興味深そうに試合を見つめているドレクに向かっていった。
「パールってのは優秀そうだ。ほかにも何人かはいる。突出したのはいないな」
「まあ、あんたがいうならそうなんでしょ」
フェミンが興味がなくなったのか、あっちの方を見ていた。お遊戯のような試合を見ていて飽きた。
一撃を入れたら終わってしまうので、先月見た闘技大会と比べたら、迫力や戦闘などに説得力などがなかった。
「まあ、仕方ないだろ?」
「世界で一番魔法が強いという話だったけど、若いうちはこんなもんなのね」
「基礎だからな。ラプサムだって、ここでは“天才”って呼ばれていたレベルだぞ」
「まあ、先輩は天才なのは認めるわ」
「そうかい」
フェミンが言った先輩に熱がなくなってきているのはドレクはよく知っていた。ラプサムがハーレムを囲っているのが彼女的には気に入らないらしい。
あれが本当にハーレムなのかどうかはドレクは首を傾げたくなる。
「あの二人に勝てそうなやつはいないと思うがな」
「ミラクは別として、ピルクは元々ここでもある程度認められていたみたいだからね」
「ヘレン以来の超攻撃魔術師だったか」
「そういうこと」
フェミンがめんどくさそうに答えた。現在のヘレンは攻撃力がさらに強化され、魔法防御壁の小技もだいぶ上手になってきていた。
「二人ともあんたのおかげで大分魔法防御壁が得意になったじゃん」
「俺は魔法防御壁の本場でさんざん訓練を小さい頃からしてきた秀才だぜ」
「自分で言う?」
「天才はアレスに譲る。というか、天才とかですましたくないぞ。俺のは長年の努力の結晶だからな」
ドレクが悲しそうに言った。その目には疲労に近い色がありありとみえ、苦労してきたんだなというものを思わせるものがあった。
「さすが、“王竜の契約者”様」
「・・・ここじゃあ、自慢にならないがな」
ドレクはフェミンの素直な称賛が全くうれしくないさそうにうけとっていた。
「あらあたしが珍しく褒めているのにうれしくないの?」
「全然、思ってねえだろ」
「正解」
ドレクは嬉しそうなフェミンの顔を見て頭痛のようなものを覚え、頭を抱えた。
「三年生となれば、頭角を現しそうなものだけどね」
「現わせなかった。不作なのか、あたりがミラクとピルクだけだったのか、よくわからんな」
「全員が出ているというわけではないだろうしね」
「13塔もあるんだ。それなりの奴がいてもおかしくはないと思うんだが・・・」
「外れ年ってことじゃない?」
「その可能性がないわけじゃあ・・・」
ドレクはこの魔術学園都市内で横行しているいじめなどのことを思い出し、いやな予感がした。
「出る目は潰されるか」
「何それ」
「つまりだ。才能があるやつがいじめなどで不本意なことをさせられたり、訓練にならなかったりしたら?」
「マジ?それってここのシステムが腐っているって言っているようなものじゃない」
「いやあ、もしもの話だ。しかし、案外外れではないような気がするぜ」
「なんで、そう思うの?」
「貴族と魔力だ」
「ああ、貴族の方が魔力持ちを持つ可能性が高いもんね。そして、より貴族は高い貴族が結び付き・・・」
「そういうことになるな」
ドレクがため息をつく様に息を吐いた。
「平民の私と王族のドレクじゃあ、魔力量が違うもんね」
「それはうそだ。普通は魔力量に差が出るのは、兄弟に神官が生まれ、その神官に与えられる予定の魔力が兄弟に与えられるとかパターンが多い。ピルクとミラクがそのいい例だ」
「でも、魔力量がすくなかったら、神官になりやすいんだっけ?」
「そうだ。聖拳技が使いやすくなるからな」
この世界の住民は多かれ少なかれ、魔力を持つ。ただ、魔力を少なめに持って生まれてくる場合ある。そうしたものは大気より魔力を吸収して、魔力をえることができるのだ。できなければ、死んでしまう。
この世界における乳児などの死亡率が高いのは、この魔力の吸収をうまくできない魔力が少ない子供が死んでしまうだ。
だが、それを乗り越えたものは確実に神官として職を得ることもできるし、普通に生きていくことも当然できる。ただ、魔法を使うには出力が足りないので魔法使いにはなれない。それだけだ。
ゆえに普通は聖拳技と魔術師は別に学ぶことが多いが、ここ魔術学園では両方を教えている。できるかできないかは別として・・・
「あたしはどっちでもないからね」
そして、多くの人間がフェミンのように極端に魔力が少ないわけで、自称に影響を与えるほどの魔力の強さを持っているわけではなかった。
ラプサムはどうやらフェミンと同じようなタイプであるが、“天才”的なセンスで様々な魔法が使えてしまったタイプだ。
それがのちに彼の道を一時的に閉ざしてしまうことになるのだが・・・
ドレクもどっちらかといえば、そちらよりのタイプである。
ただ、ワルシャル竜王国ではそうしたタイプでも特に問題なかった。何故なら、彼らは圧倒的も言える魔法防御障壁の魔法を叩き込むのだ。
魔法防御壁はそれほど魔力の出力が必要ない魔法である。魔力の塊をおけばいいという初級の魔法なのだが、それを騎馬を守るために発達させた超絶技術とも言える防御魔術を使えるように、王族は“王竜”の世話とともに小さい頃から鍛え上げられる。
それを極めたものがワルシャル竜王国の王族であり、そこに槍術を極めたのが“王竜の契約者”ということなるのだ。
本来はそこまでしないと王族を名乗ることは許されないのだが、世の中には例外もある。
「まあ、お互いない袖はふれないってことで」
「あの双子以外、収穫ナシは意外だね」
「まあ、ここのことはよくわからんからね。問題は武術部門で何かないかと・・・」
「あんたはでるんだっけ?」
「今回はでないぞ。出るのはアレスとダンナと“七星”だぜ」
「センパイがでるのか・・・」
「まあ、ダンナとラプサムが本気出したら、この会場壊れそうだがな」
ドレクがそういうとワルシャル城での二人の魔剣の打ち合いを思い出した。あれはドラゴンなどの大型騎獣を想定しているワルシャル城だからできた戦いだ。
普通の人間がやるような場所で二人の魔剣がぶつかり合うなど地獄絵図しか思えない。
「あの二人、スイッチはいると周り見えなくなるから」
「大人げないからな、二人とも」
「まあね」
二人ともスイッチはいると全力出していいのと目を輝かせて戦い始めるのを知っていた。
「「はあ」」
二人は同時にため息をついた。