勇者ギルド in 魔術学園都市 25
「レイナ嬢ってあんまりいい噂ないんだよね」
パールがフルーツに生クリームを塗した料理を口にしながら、言った。
「それはアッシドの話か?」
「うん。彼女には気を付ける様にって師匠が言っていた」
パールの言葉を聞いてレンが困ったような表情を作って、シドを見た。
「気を付けるとは?」
「なんか、あいつの気配を感じるって師匠が・・・」
「また、名前を上げてはいけない御身か」
レンは困ったように言った。パールの師匠に頼まれて、それに関わる件を何度も調べさせられているレンはいやそうに言った。
「お前も関わっているんだろ?」
「父と母の敵と先生に言われているが、学園に入るまで知らない人だったしな」
レンは首をすくめて言った。
レンはアッシドに見出されて学園に入ったもの一人だ。アッシドは年間、何人か、そういうものを見繕っている。
シドは自分で入学してきたが、レンはアッシドに連れられてやってきたのだ。
「そんな魔王はいないはずなんだよな」
「そうなの?」
「ああ」
シドは困ったように言った。シドの予想では、そういう偶像を作ることにより、蘇った魔王の力を増幅させようとしていると予想している。
魔王とは本来、魔神と思われる神が異世界人を連れてきて、その精神エネルギーなどを変えて、この世界に送り込み暴れさせている存在だ。
シドもかつては普通の高校生であったが、魔神にこの世界に連れてこられて、魔王にさせられ、操られて暴れることになった。
シドの存在がバレていないのも、シドにかつてあった人類を滅ぼさないといけないという呪いのような思いも今は存在しなかった。
「パールには説明しただろ?魔王というものについては」
シドは魔神に対しても、思い入れは特にないので妄想と称されているが、説明はしている。
「あんたの妄想だと思っているんだけど」
パールは困ったように言った。
「そもそも、転生の魔法なんて聞いたことないのだけど?」
「俺が作った」
「そんな知識も技術もあると思えないけど」
「技術や知識以前にそれを可能とする魔力量が・・・」
レンが隣でくすくすと笑っていた。それを聞いてシドはレンを苦々しく見つめた。
「うっさいわ」
シドが逆切れ風に言った。
「聖拳技はうまくいっている?」
「形にはなった。だが、効率が・・・」
「ああ、あれが効率が悪いと使えないからね。そこは修行じゃない。ほら、ミラクさんを見習って・・・」
聖女候補にまでなった聖拳技使いの名前を出した。治癒よりも体を強化する方が得意のかなり特殊な聖女さまだ。
そんな正統派ではない子が、完全に正統派の聖女に勝てるわけがなく・・・
「うっさい。ところで、そのミラクが出るらしいな」
「対抗できると思わないけど。僕らに」
シドは話題を逸らすために別の話題を持ち出す。自分たちが出場する魔術大会についてだ。
「ピルクさんなら、勝てるともうけど。ミラクさんは直接攻撃型と思うよ」
「まあ、気弾を使うってことじゃない?」
「そんなんで、魔法障壁が破れるとでも?」
二人は首を傾げて言った。魔法障壁は魔法使いが自分の身を守るために使う魔法のことだ。たいていの攻撃はそれで防ぐことができる。
ただ、魔術師は体術が使えないので近づかれたら終わりだ。
だが、魔術大会での体術の使用は禁止となっている。それによるダメージを与えることはできないはずだった。
しかし、治癒師ミラクには対抗策があるように思えた。
「どんな大会になるのやら・・・」
レンは困ったように言った。
「勝つのは俺だ」
シドが力強く言った。
「「はいはい」」
魔法使いの弟子と天才は呆れたようにうなづいた。