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勇者ギルド in 魔術学園都市 22




「随分とあっさり渡したものだな」




 男は嬉しそうに笑みを浮かべていった。


「これで魔王が蘇るの?」


 レイナは嬉しそうに目を細めていった。


「そうですお嬢様。これで我々は魔術の深淵に出会えるのです」


 レイナの執事である男は主を称える様に言った。


「魔術の深淵ね」


 レイナは少し嫌そうに言った。レイナは本来ならば、聖女になる予定だった。しかし、その計画も崩れてしまう。


 聖王国のセイラの存在だ。


 セイラは聖王国が望んでいた、聖王族直結の聖女候補であり、蘇生もすることができる隙のない女性だった。


 男性関係もほとんどなく、噂すらなかった。


 そんな弱点がほとんどないセイラに勝つためにあれやこれや工作を講じていたが、どれもうまくいかなかった。


 仕方なく、その立候補をあきらめたのだ。だが、レイナはそれが諦めきれずもう一つの手段を思いついた。


 聖女の暗殺である。


 だが、聖女が死ぬためにはそれなりの理由が必要だろう。そこで、強力な魔王の復活だった。


 かつて地上を支配したケンシロウという魔王を蘇らせ、それを聖女にぶつけ、その後、その魔王を自分とその仲間たちが倒すというシナリオを組んでいた。


 安直だが、他に手はないように思えた。


「これでうまくいく」


 レイナはうまくいくために祈るような気分でその言葉を出した。


 それを見て、執事の男はうれしそうに口元をゆがめた。


「フィン。それを持ってきなさい」


 フィンは勇者の剣を手に持ったままぼうっとしていた。


「フィン?」


 そういうとフィンと呼ばれたメイドははっとした顔になり、レイナの元に近づいた。




 それから、レイナは大きく後ろに飛んだ。




 その後をフィンが振った剣が通り過ぎていた。


「フィンどういうつもり?」


「手が勝手に・・・」


 とか言っているが、その目には殺意がありありと込められていた。


「もう一度聞くわ、どういうつもりでその剣を・・・抜いて・・・。抜いて!」


 フィンが勇者のみしか抜けないはずの剣を鞘から抜き、レイナに振っていたのである。


 まさか、フィンが勇者、もしくは勇者候補ということなのだろうか?


「あなたに勇者の才能はないはずなのだけど?」


「勇者とは才能で選ばれるものではないのですよ。お嬢様」


 フィンは静かに言った。


「自分の息子を守ってほしい。そんな女性の願いが込められた剣。それがこの勇者の剣なのです」


 そんな言葉を聞いてレイナは目を点にした。


「何を言っているの?息子を守ってほしい?そんなものが、そんなものが魔王を狩ってきた。剣の正体なんて言うの?」


「残念なことにね」


 フィンは静かに言った。


「あなた。私に長年使えてきたくせに逆らうの?」


「そのつもりです。再び、選ばれてしまったようですし・・・」


 少々つらそうに言った。


「けど、アテはあるの?あなたは勇者の剣を盗んだ仲間よ。あの竜の国のお姫様が許すとは思わないわ」


「ちなみに、大事なことをいってもよろしいでしょうか」


 改まった調子でフィンは言った。若干それに戸惑った様子のレイナ。


「なによ」


「この剣にあなたがのぞく魔王の魂は入っていませんよ」


 それを聞いて、レイナは男の方を見た。男は額にしわを寄せ、叫ぶ。


「そんなはずはない。勇者の剣は偉大なる魔王を封じた。それ故に最大の力を発揮できるのだろう?」


 信じられないという感じで執事の男は答えた。


「勇者の剣の力は魔王を封じた力をメインしてませんよ。この剣の最たる力は魔王の力を得ることによる強力な攻撃ではない」


「どういうこと?」


「相手の力を解析し、それに対抗しうる力を与えるだけ。それだけの剣。別名“理の剣”」


「つまり、その剣に魔王差は封じてないと?」


「そういうことです。勇者の強さは、剣の強さもあるが、たいていが本人の実力なのですよ。お嬢様」


 フィンは苦笑して笑った。それはレイナをバカにするようにも見えた。


 自分のメイドにこんなことを言われ、きれいないほど、彼女は人間ができていなかった。


「あらそう。それを渡したくなければ、主人に無礼を働いた罪に死になさい」


「無駄だと言っているのですが・・・」


 フィンが諦めたように言ったが、レイナは気にすることなく、男にフィンを殺すように目くばせした。


「死になさい」



 バン!



「あんたね。学校の校舎の一部を壊すんじゃない!」


「面倒なダンジョンよりも、俺の唾をつけた女がピンチらしいからな。仕方あるまい」


「困った人だ」


 とそこには大柄の男性に連れられた男と、それについていく令嬢と額に小さな傷がある男性。


 他校の生徒でとても優秀という話がある生徒たちだ。魔術大会でも優勝候補に上がっている三人だ。


 名前は・・・


「シド」


 とパール・ゴールドライアン、レオナード・グリフォン、そして、シド。


 フィンが静かにその名を口にした。


「何故、あなたたちがここにいる」


 フィンは殺気を込めて言った。シドの顔を見ただけで不快になる。その理由は明らかだった。


 あれは転生した魔王。フィンの前世において、唯一狩り切りなかった魔王だ。


「お前を嫁にすると言っただろ?どんな手を使っても・・・」


「丁重にお断りしたんですがね・・・バカな男だ」


「俺は一回死んでもバカは治らなかったようだ」


「愚かな・・・」


「今はフィンといったな。俺はお前を助けに来た。あれはお前の敵なのか?それとも俺の敵なのか?」


「・・・」


 レイナはソレを聞いて笑い声を上げた。


「どっちの敵でいいわ。だって、あなたたちはここで死ぬ運命にあるんですもん」


 レイナは高らかに笑っていった。


「お嬢様・・・」


 フィンは目を瞑り、ゆっくりと剣を構えた。


「お嬢様に手を上げるのは気持ちいいものではないですが、躾のためには仕方ありませんね」


「フィンやる気か。夫婦の共同作業といこうじゃないか」


「それはお断り」


 シドの言葉にフィンは切り捨てるように言った。つれないなと内心呟きながら、シドも魔法を唱える態勢に入った。


 元勇者と元魔王の共闘が唐突に始まった。 


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