勇者ギルド in 魔術学園都市 21
「バカな勇者がいたものだ」
男は嬉しそうに言った。手紙の返事に大いに満足していた。
「随分とあっさりと手放したな。勇者の剣だぞ。使いこなせば強いと言われている・・・」
「だが、それも女が人質になっちまったら・・・」
黒い影の男は嬉しそうに笑った。
「これで魔王を呼び出すピースができた。あの方が来てくだされば・・・」
「しかし、勇者の弱みもわかった。これでゆすり続ければ・・・」
そこで、二人は足元が冷たいような気がした。下を見るとそこには泥のような水が足首まで来ていた。
「なにこれ?」
それがゆっくりと上がっていく。
「えっと?」
気が付けば、それがひざの高さまで上がってきていた。
「魔法か!」
「いや、精霊の力かもしれない!」
そういわれて、二人の男は焦った表情になる。
「バカな。勇者が取り戻しに来たのか?」
ふと気が付くと、二人の前には泥で出来た蛇が口を大きく開けていた。
「なんなんだ?」
「モンスター?」
二人は同時に逃げようとして、何かに足を絡まれた。それは泥で出来たタコのような生き物が足に絡みついていたのだ。
「うっそだろ?」
「お腹に子供がいる身なので無茶はできなかったので、少しづつでありますが、力を使わせてもらいましたわ」
トキアが静かにその少し大きくなったお腹をさすりながら、目を細めていった。
「無茶をさせないでくださいませ」
どうやら、周りにある泥の化け物は彼女が呼び出したらしい。
「アレスの手を煩わすのも気が引けたので密かに行っていましたが、それがきっかけでこんなことになってしまうとは・・・。それでもうれしいものですね」
トキアがうっとりしたような顔で言った。
「勇者の地位よりも私を選んでもらうというのは・・・」
トキアは愛しそうに手紙を受け取った。
「さて、私の血。勇者の剣を使って何をする気だったのか教えてもらいましょうか?」
泥の中にあって、トキアの服は一切汚れていなかった。
泥に包まれて動けなくなった二人の男は恐ろしいものを感じた。そして、二人はさきほどから魔法を発動しようとするがすべて無効かされていることに気が付く。
「なんなんだ?」
「知らないのですか?対抗魔法は水属性なのですよ。私の泥は水魔法の力を秘めております。つまり、魔法が効かないのですよ」
トキアは嬉しそうに目を細めていった。
「なんだそれ!」
首から下をすべて泥に包まれた男は叫ぶように言った。
「まあ、いいです。特別にお話を聞いてあげましょう。場合によっては勇者の剣を差し上げてもよろしいですよ」
「なんだって!」
「ええ、勇者の剣は女性らしいのでね。それが私よりも長く私の勇者様と一緒にいるのはちょっと不快だったので・・・」
さらっととんでもないことを言った。
「マジかよ」
「ええ、これは本音です」
トキアはお腹の子をさすった。
「世界で一番、彼を愛しているのは私なのですから・・・私以上に彼のそばにいるものが許せますか?ましてや、それが女のですから・・・」
「・・・・・・」
「ええ、私は剣にも嫉妬してます。ええ、そうです。この子を授かってもあの方は素敵ですからね。私の下にいるという確証はない」
「・・・・・・」
「人は変わっていくものです。さてさて、なので、私的には捕まって剣をあなた方に差し上げてもよろしいとぐらいには思っています」
「・・・・・・」
男は黙って聞いていたが、苦しそうに言った。
「王女がくるっているとはな」
「まあ、子供を産む女性とは穏やかになかなか慣れないんですよ。夫が遠くにいたりする場合など」
トキアは少し悲しそうに言った。
「ましてや、四六時中女と一緒にいるなんて考えると気が狂いそうでした。勇者の妻としては相応しくないのかもしれません。けど、私も人間ですから、弱いのです。不安なのです。だから、あなたに協力してあげようと思います。理由によっては・・・」
「こえなあ」
「これくらいは普通でしょ」
その言葉の後ろには貴族としてはという言葉が付いていた。
「くそ、なんて奴に手を出したんだ!」
男は嘆くように言った。
「さてさて、あなた方はどんな作戦で勇者様方を苦しめようと思ったのか、話してくださいませんか?ここには心強い協力者がいますよ」
トキアが静かにほほ笑んで言った。
「あんたが協力してくるっていうのか?」
その悪魔のような天使の微笑みを浮かべるトキアを見つめて男はすがるような気持ちで言った。
「場合によっては・・・」
男はソレを聞いて、わずかな望みをかけて口を開いた。
「時と場合に寄ります。さあ、どうします?」