勇者ギルド in 魔術学園都市 14
「だりぃ」
ドレクはめんどくさそうに言った。
「ちゃんとしなさい。任務よ」
フェミンが冷たい目になって言った。二人が駆り出されたのはミラク、ピルクの護衛である。
二人がこの魔術学園都市で学園生活に別れを告げるために、最後の期間を過ごすというものだ。そのメインイベントが魔法技術大会となる。
こちらはワルシャル王国の提案なのだが、それを行うことによって、ミラク、ピルクの才能が勇者パーティーにふさわしいものであることを示すそんな大会だ。
「あいつら、バレねえようにあれが使えるのかね」
「というか、私はできないんだけど」
「修行のみ」
フェミンの文句にドレクが突き放すように言った。ドレクからすれば、フェミンも筋は悪くないが、そもそも魔法をしっかりと勉強してこなかったツケが今になって彼女に降りかかってきている、それを積む時間が少ない体と思っている。
諜報活動などが忙しいせいだ。
そのため、あまりドレクも焦らないように、できてなくても、努めて平然としていた。
ドレクも習得するのに数か月はかかったものだ。習得さえすれば、あとはたいしたことはなかった。魔剣作成系の方がドレクは不得意ではある。
「先輩はあっさりできたのに・・・」
「ありゃあ、天才だよ」
ラプサムについてはドレクも驚くほどの才能があり、あっさり魔剣作成や魔吸空間理論を習得してしまった。天才と呼ばれたことがあるだけのことはある。
それらに関しては師であるメディシン卿と並ぶような腕を今では持っている。女を侍られているだけのただの男ではない。
伊達男だけじゃないということだろう。
魔剣研究によく没頭しているのは知っている。そして、誰よりも強さに貪欲で努力を積んでいる。そんな男だから、レミアもヘレン、そしてフェミンも彼のことが好きなのだろう。
ちょっとくやしいが・・・ドレクは思った。
「その先輩の命令なんだからがんばるぞ」
フェミンはこぶしを握り締めていった。
ドレクは体よく厄介払いされたなと思っていたが、口にはしなかった。すれば、喧嘩になるだろうし、本人も本当はわかっているのだろうが、わからないフリをがんばってしている。
それについて、ドレクがとやかく言うべきではないし、彼女の自尊心を傷つける必要もないので言わなかった。
それも彼女ためだ。少し切ないが・・・
「まあ、いいや」
ドレクはそこから先を考えたら、面倒なことになりそうだったので、思考をするのをやめた。仲間に向けるべきではない感情が芽生えそうだったからだ。
そこらへんは割り切るしかない。ドレクはそう思っていた。
そこに一人の男が姿を現した。
二人がいるのはミラクとピルクがいる塔の屋上である。そんなところにわざわざ来るようなものがいるはずがない。
だが、実際に来ているのだ。
しかも、学校の関係者には二人がここにいることは伝わっている。故に入ってくることなどないはずだった。
立ち入り禁止の看板はしっかりといてある。
それにも関わらずやって来たということは害意があることが明らかだろう。
「なにもんだ?」
「勇者の仲間だな。お前ら」
随分な物言いだなとドレクは思った。偉そうな態度が気に入らないというよりは不自然な感じがした。
初対面の人間を相手にするような態度には思えなかった。
「お前ら強いのか?頼めしてみるぜ!」
「うっさい」
フェミンの姿が消えていた。ドレクには動き出しが見えないくらいの素晴らしい動きだ。
少し前のドレクなら、首の皮が危なかったかもしれない。
「何?」
男はあっさり首を斬られた。男はよろめいた。
ドレクはその男から魔力の流れを感じた。“再生能力”に近いものが発生したらしい。
ドレクはすぐに傷口に魔吸空間を展開した。
フェミンもドレクもそれまでに違和感を感じ、すぐにその原因が分かった。
男から出血がなかったのだ。
「どんなバケモンだよ」
ドレクは呆れたようにいい。フェミンは身の危険を感じたのか、すぐにその男から距離をとった。
「ば・・・ぐ、ぎぎぎ」
声にならない声を上げてそれは倒れた。倒れると同時にぐちゃぐちゃの黒い血の塊のようなものに代わる。
「なんなのこいつ?」
「聞く前にやっちまったからな」
ドレクは呆れたように言った。
「あんたが再生能力封じるからでしょ」
「首切った奴が言うセリフじゃないな」
しばらくお互いに見つめ合い、そして言った。
「「なかったことにしよう」」
やはり仲がいい二人だった。