勇者ギルド in 魔術学園都市 12
「あんたが勇者かい?」
一人の男がアレスの前に立っていた。貴族たちとの絡みなどがあり、アレスは一人になりたくて、ローブを羽織り、剣を大剣のように偽装して持っていた。
普通の人間として歩きたかったが、いかんせん容姿がいいので普通にしていても目立ってしょうがない。
そのため、隠者のマントと呼ばれる隠蔽系のローブ型の魔道具を羽織っていた。
その魔力を掻い潜り、自分の正体に気が付くようなものにアレスはほうと感心したような態度をとった。
「何者だい?そういう君は?」
「勇者が護衛もなしとは不用心だな」
「護衛を引き連れちゃあ目立つし、それに護衛が必要な勇者って何?って感じだけど?」
アレスがそんなことを言ってくるものに対して、軽口を返してみた。真面目そうで気の利かない男だ。
ただ、いきなり襲い掛かってくるのではなく、声をかけてくるあたりは敵とはアレスは思えなかった。
いきなり、暗殺対象を確認する暗殺者はアレス的には暗殺者失格な気がしたからだ。
「それもそうだな。単体で化け物を倒せるらしいし」
「あれははじめてじゃないんだけどね」
竜王国では竜を相手に模擬戦を行うなんてざらだった。その経験が生きていたともいえる。
「おもしろいことをいう」
その男から黒い闇のようなものが出てきた。
「面白い力だね」
「これが“嫉妬の魔王”の力だ」
アレスはそんなことを言われて、首を傾げた。魔王にしては力が弱いというか、魔力が少ないような気がした。
剣になった魔王の魔力と比べると、搾りかすほどの魔力しか存在していない。だが、その黒い力は確かに強そうな、いやな感じがした。
『魔王の力のみの存在。あれに魔力はない』
剣からそんな言葉が返ってきた。
魔力はこの世界における物理的な力以外に重要なファクターとなる力である。ありとあらゆるものに魔力が宿り、それが生命活動を支えている者の一つとも言える。
魔力だけの生き物つまり、妖精なるものもいるのだ。それが存在しない。
この世界にはありえないものだ。
『アンデットに近いが、アンデットにも魔力がある。それとくらべても魔力が微弱。魔吸空間などが無効の可能性が高い。辛うじてそれを構成する要素分しか存在しない』
つまり、かなり異質なものであることは確かだ。
「さて実験の時間だ!」
男はそういうとその顔が大きく変わった。アレスと同じような顔になる。
「何?」
「きれいな顔だな。うらやましいな。いいな」
男はそんなことを口にしながら、アレスに近づいて剣を抜いた。素人に毛の生えた程度の剣技だった。
アレスは魔力で魔剣を作り、その剣をはじいた。
見た目にはアレスが何もしていないように見えるが、魔力で作った不可視の魔剣で男の剣をはじいたのだ。
“嵐の将軍”のようにはできないが、アレスにもこれくらいはできるし、剣を握るほどの技量があるようには見えなかった。
「なんだ?超能力か?」
どうやら、その男は目で見たもの、感じているものしか真似ができないようだ。
わざわざ、風の魔力で剣を作り、それを風の魔力を操作することで戦っているなんて思いもよらないだろう。
「お前いったいなんだよ」
それはこっちのセリフだとアレスは思うと、容赦なくその魔剣を振って、男を切り裂いた。
「うそだろ?この魔王が力が負けるなんて・・・」
男はそういいながら倒れていった。
「これはいったいなんだ?」
『魔王の複製体、アンデットに近い存在。彼らの言葉ではクローンというものに近い』
なんでも、教えてくれる勇者の剣がそんなことを言った。
「彼らの言葉?」
『彼の記憶の一部を読み取った』
「解析ってのは便利な力だね」
『解析は錬金術の基本』
記憶まで読み取れるとは“勇者の剣”の元の錬金術師がかなりの使い手であることが察せられた。
「トールがここまで成長できているのか?」
アレスはどうやら自分が“勇者”に選ばれる原因となった青年のことを思い出した。
かつての兄貴分だったが、本当に祝福されているのが自分だと知ったら、彼はどんな反応するのだろうか?
彼の者はかつての魔王と勇者の剣の製作者との間に生まれた子供の生まれ変わりらしい。
『私も“勇者の剣”として、成長している。剣として誰よりも魔王を狩っていると自負がある』
そりゃあそうだ。勇者というものができたのは彼女が生まれたためだ。そして、勇者が出てきてから千年ほどの月日が経っている。その間にどれほどの魔王を倒してきたのか、アレスにはわからなかった。
『この戦いを終わらせるために神を倒す』
“勇者の剣”は静かにつぶやいた。その言葉に決意が込められていた。
「そうだね」
アレスは二つに分かれた死体を見つめた。その顔はアレスの顔ではなく、黒い物体になっていた。
「随分と不気味なものになったな」
黒い肉塊のようになったそれを見て、アレスは思わずつぶやいた。
『実験の動物の成れの果て』
勇者の剣はそれをそう酷評した。