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僕と勇者の出会い 2

僕と勇者の出会い2



「勇者助けたらしいじゃん!」



 随分情報が早いことでと思わず感心する。


 目の前には、嫁にしたい、一度は遊んでみたい女騎士で常にナンバーワンをとる薬屋の嫁がいた。


「あれがね」


 ほぼ、そうなんだろうなと思いながら、薬の調合を始める。


 それより、今年の薬草取りが失敗したことをどう師匠に報告しようかと考えるのが鬱だった。


 訳があるから、多少は許してくれるだろう。しかも、命の危険があった勇者を助けることになったし、特例でもう一度潜らせてくれるだろう。


 たぶん。


 そんな思いを抱きながら、彼女を見ると・・・


 お尻からしっぽが生えてたら、ブンブン振っていただろうぐらい体を揺らし、うれしそうな表情を浮かべ、ウキウキの彼女がいた。


 うん、今日も彼女はかわいい。異論は認めない。


 今日の彼女は巡回兵の鎧を着ている。騎士として名前がとある出来事から売れ始め、さらに腕まで上がってきている彼女は町では有名人だ。


 腕が上がってきている理由は不明だが、目標ができてからと推測するものが多い。


 本当は単純に薬屋の恋人が町から出ないようにするために、腕を上げているなんてことを知ったら彼女のファンたちは泣くだろう。


 彼女が騎士を引退し、冒険者になることが決まっていて、日夜、冒険者ギルドでは彼女を向かい入れるために争いが起きているらしい。


 そんな彼女はフリー志望のしかも、モンスター退治ではなく、薬草を集める地味な仕事をしたいなんて思ってもいないだろう。


 そんな彼女は今日も未来の夫である薬屋に悪い虫が付かないように巡回しに来たのだ。


 自分のかわいさをアピールするためにヘルメットは脇においてある。


「また来てんのか」


 と呆れたベテラン冒険者がいた。モンスターやゴブリン狩りを主においた冒険者で掃除屋とか呼ばれる男だ。


 彼はここの常連で彼女の事もよく知っていた。


「また、頼むわ」


「はい」


 彼の作る薬の出来がよいので、彼の師はほとんど薬を作ることがなくなり、彼がいない時に店番をする程度だった。


 しかも、彼の薬を転売するものも少なくなく、評判を聞きつけた商人がたまに来たりする。


「悪いな。これ高く売れるだろう」


「見習いですから」


「見習いがこんなの作ったらいかんだろう」


 彼がこの店に来て、1年半がたち、明らかに老人が作るものよりも質のいいものが多く、ベテラン冒険者では評判の店となっている。


「材料は一緒なんですがね」


 同じ材料でもポーションの類になると効果がかなり違ったりする。


 その中でも彼が作るポーションはたいていが当たりも当たり、大当たりの部類なのだ。


「作るやつが違うからな」


 ポーションを作る過程でしっかりと魔力を込めて、作るなんてことをうまくできる者はそう多くない。


 そうしたものは大抵、国に召し抱えられるのだが、彼は見習い期間の間にそれができてしまった天才なのだ。


 そうした貴重なポーションをなるべくなら、多く手に入れたい。いつまでこの値段で手に入れられるかわからない。


 そう感じているからこそ、このベテラン冒険者は毎日のように買いに来ているのだ。


 何故、毎日来ているかといえば、ポーションを一人で作れる量が決まっているからだ。


「正直、嬢ちゃんがうちのギルドの来てくれりゃあ、こいつから好きにもらえるかもしれないし・・・来ないか?」


「そんなサービスしませんよ」


 彼女はべーと舌を出して言った。


「そんなことしたら、店が潰れるもんな。すまんな」


 ポーションの料金を払うと、そのまま去っていった。


「ふんだ。私は何処にもいきませんからね」


 彼女は怒ったように言った。


「ほら、騎士団の分だよ」


「いつも悪いねぇ」


 ポーションを3本用意する。彼女がさぼっても怒られないようにポーションだ。


 それなりの額なのだが、冒険者以外のお得意様なので、そのサービスの一環とも言える。ちなみに師匠が昼間来たら渡すように言われているものである。


「話戻るけど、勇者助けたって噂だけど」


 また、その話題か。せっかくそれたのに・・・


 彼女の噂話好きにはもう慣れている。


「精霊の森の中で倒れていたのを助けただけだよ。なんで、あれがあんなところにいたのが不思議でしょうがないんだけど?」


「なんでも、ワイヴァーンの騎乗訓練と聞いたけど」


「飛竜のか」


「そう、その飛竜」


 ワシュタル国という国がある。


 その国はコーヒーとワイヴァーンの産地として、有名でどのようにしてワイヴァーンの卵を作っているのかは秘密とされている。


 一般的にはワイヴァーンの卵を国が管理して、その卵を庶民に売り渡し、育ててが竜騎士や冒険者たちに売るというのが一般的だ。


 ワシュタル国のワイヴァーンのみが人のいうことを聞き、共に戦うことができるらしい。


 野生のワイヴァーンには知能がほとんどないが、ワシュタル国のワイヴァーンは特殊で知能があり、人間の言うことをよく聞くらしい。


 ワイヴァーンはドラゴンにも勝るとされているのはそのスピードだ。ドラゴンも強さは圧倒的と言われているが、飛竜の名をもつワイヴァーンのスピードにはかなわない。


 ワイヴァーンの上級種の4つの翼をもつ種になれば、音速を超えたスピードで飛ぶことができるらしい。


 騎乗生物としてはドラゴンに次ぐ、人気があるのだが、実際はドラゴンは入手が困難であり、そもそもドラゴンの数が少ない。


 ドラゴンではなく、ワシュタル国が多数輸出するワイヴァーンが騎乗生物としてはメジャーなのは仕方ないことだろう。


 勇者殿はワイヴァーンに乗るための訓練を受けていたということだ。ワイヴァーンに乗れれば、どこにでもすぐに駆け付けられる。


 そのためにワイヴァーンに乗る練習というのは納得がいけるし、また、竜騎士は世界でも優秀とされている騎士だ。


 彼らから多くの事を学ぶために、勇者が彼らの元にいるのは納得ができる。自分たちが所属していた騎士団よりはマシなのは確かだ。


 その飛竜ならば、精霊の森の上空を精霊の力が及ばない高度まで上がることができる。


 しかし、それは同時にかなり高い高度まで上がらなければならず、普通なら未熟者なら避けるはずのコースだ。


 落下したら命が危ない。


 まず、高さも危険だし、精霊の森でその影響を受けただけで方向感覚をしなう。そのため、上空からの救助は不可能。


 精霊の森上空というだけで非常に危ないのだ。


 そんなところに勇者を連れ出すなんて、なんらかの悪意しか感じない。


「とんでもないことに巻き込まれてそうね」


「だね」


 彼女には彼の行き先は告げてある。


 つまり彼女は彼がどこでその勇者を拾ったのかを知っているということだ。


 嫌な予感がしたので、彼は近隣の村ではなく、信用できる神官の元に彼を連れいて行ったのだ。


「姉さんがいい判断だっていってたわよ」


「それはよかった」


「まあ、うちの姉さんも一番じゃあないけど、腕は確かだから・・・」


「上は聖女さまでしょ」


「そうそう、うちの姉さんは聖女選挙に負けたけどね。それはそれでよかったとか言ってるくらいだしね」


「まあ、殿方と結婚無理だしね」


「でしょ。義兄さんとうまく行ってるし。うちは安泰だよ」


 聖女に選ばれると男性との付き合いはできなくなり、聖女の修行と呼ばれる冒険者ともに世界を練り歩き、様々な冒険をしなければいけなくなる。


 女の幸せを失う活動も揶揄され、本人からすれば迷惑な話だが、聖女に選ばれた家には国からの報酬がもたらされる。


 その報酬と名声欲しさに聖女にさせたがる貴族は少なくはない。本人の気持ちはさておきだ。


 そんな聖女選挙に落ちてしまった姉がいる家だが、家に迎えた旦那が優秀な男で家の名を上げることに貢献している。


 具体的にいえば、大物モンスター討伐に夫婦そろって貢献しているためだ。


 そんな家の事は姉夫婦に任せる気満々な彼女だ。


 ちなみに彼女の義兄には挨拶された。店に来て、何本かポーションと塗り薬を持って行った。


 貴族とは思えないフランクな人で、ちょっとキザだが、悪い人ではなかった。


 彼も薬屋のポーションは割と気に入っていて、使いの者が買いにくることがある。彼もお得意様だ。


「まあ、勇者なんて、ただの薬屋でしかない僕には縁のない話だと思うけどね」


「まあ、そうよね」


 と二人はクスクスと笑った。


 様々な経緯によって、ここが王国でも1、2を争う有名な薬屋になっているなど、若い二人は気が付くはずがなかった。


 そして彼が少しづつ、“神の薬師”と呼ばれ始めていることを二人は知らなかった。



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