勇者ギルド in 魔術学園都市 8
「勇者が来るわよ!」
クラス委員長であるパールが嬉しそうに言った。
「だりぃ」
「というか、勇者がくるからなんだんだ」
と、めんどくさそうにする男性陣。
「やる気がないみたいね。まあ、勇者様の前で恥をかきたくないのはわかるけどね」
パールはやる気がなさそうな二人に向かって揶揄う様に言った。二人はむっとした顔になる。
「なんで恥をかくようなことになるんだ?」
「武術大会があるからよ」
「へえ」「ほう」
パールのその言葉を聞いてもやる気のなさそうな二人組だった。
片方はレン、もう片方はシドという。二人とも次世代の勇者候補などともいわれ、魔術学園のホープである。
「あんたたちがしっかり取り組むように私が先生から言われたのよ」
「先生ね」
「アッシドか」
レンもシドもやる気がないように思えた。アッシドはパールの師匠であり、育ての親でもある。
孤児だったパールを広い育てたのがアッシドだった。ともて、子供を育てているようには見えないが、それは家政婦が手伝ってそうなっている。
パールは師として、アッシドを敬っているので彼の言うことは大抵聞く。
加えて、パールはレンやシドとならぶ、実力の持ち主、期待の星なのだ。
「そうよ。だから、ちゃんと言うことを聞かないと、追加の課題を出すかもよ」
「アッシドがそんなことするのかよ」
レンがめんどくさそうに言った。
「まあ、あの男なら、そういうこともする可能性もなくはないが、自分の言うことが聞かないからと言って罰を与えるような人間ではあるまい」
シドがのんびりつぶやいた。
同じ、重大とは思えないような尊大な物言いをする男だが、その実力は確かなもので、先生たちもシドの実力を認めざるをえないそんな状況なのだ。
それに数少ない異議を言えるのが、アッシドと呼ばれる先生だったりする。
魔法使いの冒険者で体術なども得意で、“七星”が現れるまでは天才の名を持っていた男である。本人はそんなものには一切興味がなく、普通に講師として授業を行っている。
昇進欲などはほとんどなさそうだが、しっかりとした授業を行うことで有名で、シドを倒したことがあることから生徒からも人気のある教師である。
「そうなんだけどね。今回、“七星”の前だから、しっかりみんなにはやってほしいそうなんだよね」
「“七星”?」
魔法の知識はかなりある癖に世間知らずのシドはその名を聞き返した。
「知らないの?まあ、自分の興味なさそうなことにはとことん興味なさそうだもんね」
「ほっといてくれ」
パールの呆れた様子に気が付きながら、自分ではその件についてはどうしようもないと言いたげにシドはうなづいだ。
「まあ、シドはしょうがないよ」
レンが優しくフォローを入れるとかけている眼鏡を動かした。
「“七星”とはうちの学校に在籍していた現勇者ギルドのメンバーだ。炎の勇者などとも言われたガルドルギルドのメンバーだった男でもある」
「そうか、炎の勇者か・・・いずれにせよ“勇者”と関わりある男なのだな」
「そういうことだ」
「で、その男が何が問題なのだ?」
「天才と呼ばれていたのよ。冒険者となってからはあまりぱっとはしないけどね。当時は不可能ともいわれていた“七星”の所持者に選ばれたのよ」
「“七星”?」
「七つの属性、七種類の精霊が宿っているとされている武器よ。これを手に入れるためには精霊が出す難題を突破しなければならないの」
「その七つを突破した地上初の男がその“七星”なんだ」
「地上初か・・・俺がいたら、俺がそれだったかもしれんのにな」
少し悔しそうにシドが言った。それに対してパールは苦笑いを浮かべた。
「かもね。シドもやるから・・・」
「まあ、そもそも“七星”になるためにはすべての武器を使いこなせなければならないから、魔法だけのシドだと・・・」
「まあ、シドの体術は並みだもんね」
「うるさい」
シドは魔法は得意だが、体術の方はあまりかんばくしくない。近接戦になる前に敵を倒せばいいので、今まではそれで大丈夫だったが、これからはそれで済むようなものではないだろう。
体術は鍛える必要があるのは確かなのだから・・・
「お前だって大したことねえじゃん」
「だって、女の子だもん」
パールは妖艶な笑みを浮かべていった。レンはドキッとした顔になったが、シドはそうはいかなかった。
「かわいいのは認めるがな」
「褒めてくれてありがとう」
シドは悪乗りでそういうことは口にしないのはよく知っていたので、パールはその賛辞は素直に受け止めておく。
シドは背伸びした。
「で、その“七星”を学園はよいしょして、どうするつもりなんだ?」
「“勇者”より核が上ってことにしたいのよ」
「なるほど、“勇者”よりも魔法学校から出た者の方が上の方が学校しても都合がいい」
「そういうこと」
「下らんな。人間は・・・」
「シド・・・」
パールは冷めた口調で言った。
「人間なんてそんなものよ」
「・・・・・・・そうか」
最初はどうリアクションしていいのかわからなかったので反応できなかったが、よく考えれば大したことがないので、適当に返した。
それを見て、パールは笑った。
「いま、この学園で特別なのは私たちよ。自称魔王の転生体のシド。天才魔法使いレオナード・グリフォン。そして、アシッドの弟子、パール」
自分たちのことをそういった。
「グリフォンの名を言わないでほしいな」
レンは自分の本当の名前で呼ばれることを嫌がった。その名が今はあまりにも重かった。
「だから、先生も私たちに期待している。だから、私もあなたたちには期待しているわ」
「なるほどね」
「おも!」
レンの対応は納得できてはいなようだが、いちお、うなづくが、シドは心底いやそうだった。
「自称じゃないんだけどな」
「まあ、平民出でその力はそう言われてもしょうがないけどね」
「うっせえ」
シドはバカにされているような気がして、思わずそんな風に返した。そんな二人を見て、嬉しそうに笑うパール。
「じゃあ、その自称じゃない証拠を見せてもらいましょうか?」
「見せてやるよ」
「僕自身、天才魔法使いと名乗った記憶ないのだけどね」
レンは困ったように言った。
「今はただのレンさ」
レンはのんびりといった。
「それでも十分よ。先生の期待に応えなさい」
パールは嬉しそうに言った。
「お前の部下に」「なった記憶はないよ」
と二人にそういわれ、パールは一回肩をすくめ、それからクスりと笑った。
「そうね。あなたたちは優秀な友人だもんね」
「友人を優秀とかいうやつは信用できないな」
「同じく」
「勝手に言ってなさい」
パールはそういうとそのまま二人に背を向けて歩き出した。
「私以外にいいところを見せないとモテないわよ」
「うっせ」「ほっとけ」
二人の罵倒を受けて、嬉しそうに笑顔を浮かべて、パールはその場から去った。