勇者ギルド in 魔術学園都市 3
「サムくぅ~~ん」
レミアが夢見心地で抱き着きながら、時々そんな声を出していた。
「・・・」
ラプサムの顔から表情が消えていた。すでにこんなことがこの旅の間、ずっと続いていたのでこんなことになっているのだ。
そして、レミアの反対側に陣取っているヘレンも同様にラプサムの匂いを嗅ぎながら、目をつぶっていた。
時々、ラプサムの匂いを嗅ぐ鼻の音が聞こえてくるので、起きていることは間違いない。
黙っているから、邪魔になっていないだけだ。
「ツウか、動けねぇ」
ラプサムは久しぶりに帰るにも関わらずこんなことになっていることに、なんとなくだが、母校に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
なんでこんなことに・・・
ラプサム的には理解できない感じだった。レミアならまだしも、ヘレンまでこんな変態になっているなんて・・・
ラプサムはレミアを見た。
この女が変な風にヘレンを育てからに違いない。ラプサムはそう確信した。
「顔出しか、面倒だね」
メディシン卿はいやそうに言った。メディシン卿はかわいい嫁と娘が待っている家庭にさっさと帰りたそうだ。
この男が本気を出せば、数秒でたどり着く距離を何日もかけて移動している。
彼にとって、それが苦痛でしかない。
「いいたいことはわかりますが・・・」
アレスはため息交じりに行った。
聖王国を救ったことはすでに世界中に広げられている。そのすべてを勇者とその仲間が倒したことになっていた。
実際は目の前にいる夫婦が半分、後の残りをドレクとアレス達で倒したというのが、事実だ。
強いことは知っていたが、あれを自分たちが一匹を倒している間に2体も倒すなんて、とんでもない夫婦だろう。
「すでに仲間は十分に集まっていると思うが?」
「それでも世界にアピールしろとトキアが・・・」
「まあ、トキアの言うことには俺らは逆らえねえ」
トキアというのは竜王国の王女にして、アレスの妻である。さらに同時に勇者パーティーから勇者ギルドに昇格したアレスたちの最も大きなスポンサーでもある。
「彼女には運営を任せているからね。竜王国からそういう人を雇っているけど、いろいろと大変らしいよ」
「連絡口だからねぇ。いろいろな依頼が来ているかも?」
「はい。すでに何件か、大口の依頼が来ています」
「大口か」
「はい、海獣退治の依頼なども・・・」
「海のモンスターか。やっかいそうだな」
メディシン卿はのんびりといった。やっかいと言っている割には余裕があるようにしか思えないそんな姿だ。
「師なら余裕でしょ」
「上に上がってくればな。さすがに水中で戦いたくはないぞ」
手を振って、無理無理というサインを送った。
「そういうことなら、お前が契約している精霊の方が相性がいいんじゃないかな?」
「わかりませんね。僕もさすがに水中での戦闘はないので・・・不可能ではないような気がしますが・・・」
「まあ、いずれにせよ。先の話だ。今はのんびりと外遊を楽しもうじゃないか」
「そういうことにしておきましょう」
勇者は苦笑いをして答えた。メディシン卿はそっぽを向いていた。
「先生、精霊の契約って大変なの?」
「私たちもするんですよね」
不安そうにするピルク、ミラクが順にメディシン卿に声をかけた。メディシン卿はうっすらと微笑みながら、ゆっくりとした動作で返す。
「そうだな。お前らにはとある精霊と契約してもらう予定だ」
「どんな精霊なんですか?」
ピルクが首をかしげて聞いていた。
「マグマの精霊だ」
「マグマ?」
「ああ、グレンファーフォン火山を統べる溶岩の精霊だ」
「グレンファーフォン?それって温泉地とかで有名な火山ですよね」
「そこにいる精霊とお前たちの愛称がいいのではないかと、精霊王に言われた」
それを聞いて、ミラクは驚きの顔になった。
「精霊王と知り合いなんですか?」
「精霊王と知り合いゆえに様々な精霊を紹介したりしているんだが?」
メディシン卿が苦笑いを浮かべていった。
「そもそも、精霊と契約できる人間が俺の周りになんでこんなに多いのか、疑問に思ったことは?」
「そんなに多いのですか?」
「だって、俺の関係者、ラプサムと“王竜の契約者”以外は、ほぼ全員だぞ」
「なんですって?」
精霊との契約は“光の戦乙女の契約者”が有名なように圧倒的な力を持つとされる。人間がそれを確認できるのが唯一、“光の戦乙女”なだけでとある条件を満たせば、高位の精霊と契約ができるそうなのだが、その条件というのが不明なのだ。
その精霊との契約を行う条件を知っているだけでかなりの価値のある情報になるだろう。多くの人々が欲しがる情報に相違ない。
“光の戦乙女”はその条件の難しさから、現在では一人しかいないといわれている。その契約者が目の前にいる男、メディシン卿なのだ。
「精霊王が俺が縁を繋いだものから、良き精霊を探して見繕ってくれるんだ」
さり気にとんでもないことを言った。
「なるほど」
驚きのあまり、あまりいい反応とはいいがたい反応をピルクはした。
「だから、俺の関係者は精霊の契約者が多いんだ」
メディシン卿がいうと、納得した顔にミラクはなった。
「待ってください。フェミンさんも契約者なんですか?」
「レミングという精霊と契約している」
メディシン卿の言葉にミラクは首を傾げた。
「あの人魔法が使えないんですよね」
「障壁魔法も使えないはずなのに、なんで契約できたんですか?」
ミラクの疑問に、さらにピルクが続く。
「あの子の場合は珍しい例だ。精霊の方から彼女を契約者として認めた稀有なパターンだ。普通はそんなことはないのだが、彼女の場合は精霊の方から彼女を契約者にしたのだ」
メディシン卿の言葉にミラクとピルクは呆けた顔になった。
「ちなみ、お前らの場合は、結構厳しい条件だ」
「何を頼まれるんですか?」
「火山の精霊、マグニートの核を掴んで「捕まえた」というらしい」
「「・・・なにそれ」」
メディシン卿の出した条件に二人の顔が強張った。
知識があるためにマグニート言う精霊がどういうものかということも知り、それがいかに難しいかを知った。
「核に触るということは倒さずに燃え盛る体に腕を突っ込んで触るってことですか?」
「まあ、そういうことになる。しかもマグニートはかなり巨大で核に行くまでが大変だ」
アレスの言葉にメディシン卿が遠い目になりながら言った。
「大変ですね」
「まあ、精霊の契約なんて大変なもんだ。まあ、正直、“光の戦乙女”の契約条件が簡単に思えるほどのものがほとんだからな」
メディシン卿はため息をついた。
「そう考えると僕の精霊は簡単なほうでしたね」
「あれはあれで特殊だろ」
メディシン卿はアレスが契約している泉の精霊のことを思い出した。かなり特徴的な精霊で、永遠の愛を誓った二人が1時間以上一緒に抱き着いてキスしたまま、水魔法の力を借りず、かの精霊がいる泉に潜っているというのが条件だ。
アレスはトキアと一緒に潜ってその条件を共にクリアした。
ようは1時間以上、空気を取り入れた円状の物理障壁を作り続けて、特定の場所で1時間口づけをするという甘くはない条件を乗り越えてきたのだ。
「どんな条件ですか?」
「そだね。まあ、普通には難しいかな。愛し合う男女でもなかなか難しい奴だからね」
アレスは恥ずかしそうに言った。その時のことを思い出していたらしい。
「男女?」
ピルクは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「男女じゃないといけないんですか?」
「そうだな」
メディシン卿はため息をついた。
「いちお、他にももっと特殊で簡単な奴もあるにはあるが、あれはあれで難しいからな」
「シルキーは大手の貴族なら達成しやすいですが、それを認識できるかどうかは才能ですからね」
「まあ、うちの嫁もそれはあっさり見つけられたし」
「シルキーが主に認めないといけないのは、なかなかそれはそれで条件が厳しいですよ」
「まあな、まあ、精霊との契約には一筋縄ではいかない条件が多い」
「お二人の話を総合すると、精霊契約は大変ということですね」
「まあ、そういうことだ」
「それに似あった力を得ることもできるけどね」
アレスが嬉しそうに笑った。
二人は顔を合わせて、困った顔になった。