僕と勇者の出会い 1
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僕と勇者の出会い1
「よう薬屋」
精霊しかいないような人がいるはずもないところでいきなり背後から声をかけられた。
精霊の森と近隣の村から呼ばれている場所に薬屋は来ていた。そこには貴重で強力な回復薬の原料になる薬草が多く生えているのだ。
それを精霊との盟約を元に採取しにきた。
これが取りに来れるのは年に1度、そして精霊に選ばれたものだけである。
今年は彼が選ばれ、ここに来ることが許されていた。なんともまあ、精霊に縁がある歳だ。
妻になる女性を置いて、仕事でここに来た。一緒に来たいとか言われたが、彼女も引退するために騎士団としていろいろな仕事があるので断った。
ここに来れるのは盟約を交わしたものだけだ。精霊は人を好まない。なぜなら、悪いものが彼らと契約を無理やりすることが多々あり、弱いものでも契約をしようとする。
そして使い魔として無理やり使役するのだ。
そうした歴史があり、精霊はなるべくなら、人前に姿を現さくなり、精霊の多くは森に籠ったりした。一部は人のいなくなった屋敷に住み込むなどが見られるが、それは珍しいケースだ。
珍しいケースのはずだ。
「君は何のようだい?」
そう、人語を発するものなど精霊ぐらいしかいない。人に声をかけないだろう精霊が薬には話しかけてくるのだ。
「ポーションは作れるようになったのか?」
「・・・・・・それくらいできるよ」
ヒールポーションぐらいは作れるが、目の前にいる精霊はパンと呼ばれる。男の精霊だ。
酒と歌、踊りが好きな陽気な精霊で多くの精霊がそうであるように悪戯好きだ。
そんな彼らがポーションと呼ぶのは、エリクサークラスのポーションの事だろう。材料があれば1日、普通のポーションでも3日かければ、ギリギリで作れるものだ。
そんな貴重なものを手持ちにはない。
「ウォーターの方は?」
「ヒールウォーターの方?正直、セイントウォーターの方が僕は得意なんだけどな」
こちらは魔法の話。薬屋は基本的な魔法を大体使えるが、攻撃魔法には向かず、付与系、回復系の魔法が得意だ。
そもそも、得意属性が水と闇の彼にとって、光属性が強いヒールウォーターよりも、水属性強いセイントウォーターの方が得意なのだ。
「なんでそんなことを?」
「できるのかと聞いている」
「・・・どういうこと?」
「人が倒れている」
パンから出た意外な言葉に目を点にした。
「・・・こんな森で?」
「そうだ」
薬師は少し考えるような動作をした。それから、納得した顔になる。
「しょうがないな。考えても始まらない」
彼はそういうとゆっくりと歩き出した。
パンが彼の目の前に立ち、歩いて誘導を行う。飛び跳ねるようにうれしそうにそれは歩いていた。
しょうがないやつだなと思いながらも静かについていく。
すると、折れた木々の枝の中に埋もれた一人の少女・・・いや、少年が転がっていた。
かわいらしい容姿に思わず女の子かと思った。
よく見れば、皮の鎧のようなものを着ている。かなりできのいいものだ。
「なんだこの子は?」
思わず呟いた。
こんな森の中にいるような少年にはとても思えなかった。
この森には精霊だけではなく、かなり危険な魔物の類もいる。一流の冒険者がパーティで挑むような森である。少年が一人で来るところではない。
自分とさして歳が変わらない少年がこんな所に何をしに来たのだというのだろうか?
少年に持ってきたポーションを飲まそうとして、舌打ちをした。少年は飲めるような状態ではなかったのだ。
全身を骨折し、意識もほとんどなかった。その状態でポーションを飲ましても、飲めないだろう。
舌打ちをして、契約している精霊、光の戦乙女と呼ばれているヴァルキリーを呼び出した。
いろいろとあって、彼女と契約することになった。ちなみにこのことが国にバレれば、一躍、国の英雄まったなしなのだが・・・
「光の戦乙女の祝福を、ヒールライト!」
ヴァルキリーは戦の精霊であると同時に強力な回復魔法を使うことができる精霊である。
その力は神官の使う奇跡と呼ばれる魔法と遜色がない。
それほどの奇跡が目の前で起こっていたのである。
「ん?」
少年は一瞬目をさました。そして、痛みなどで意識を失われないように頑張っていたのだろう。
痛みが消え、助けが来たことで気が緩み、その意識が飛んで行ったように安心して寝た。
そこで薬屋は違和感を覚えた。彼は明らかに全身が骨折するほどの怪我を負い、死の淵が見えていただろう怪我だった。
それがヒールライト如きの回復魔法で一瞬にして治るなどありえなかった。
ヴァルキリーの魔法と親和性が強すぎるような気がした。ヴァルキリーの祝福を受けた伝説に謳われし勇者としか思えなかった。
「これはいったい・・・」
思わず呟いた。薬屋が怪我を見たところ、全身のヒドイ怪我が治っているようにしか見えなかった。
2、3日ぐっすり寝れば、元のように動けるようになるレベルだ。正直、異常ともいえる回復レベルだ。
上を見るが森にわずかに隙間ができていて、多少のそれが見える程度だが、時折、何か上から落ちてきたものを受け止めたように気に折れた後のようなものが見られた。
上から落ちてきたのだろうか?
「これほどの怪我で生きている人間か・・・やはり、ただの人間ではないが、竜騎士か?」
竜騎士には飛行するワイバーンなどから落ちた時に、強力な落下ダメージ軽減の特殊な魔法をしっかり教わる。
ただ、その魔法は竜に祝福された魔法使いのものであり、精霊がわざわざ助けに呼ぶようなことはない。
竜と精霊の仲はあまりよくない。
しかし、この少年は竜騎士に目指すにも関わらず、精霊とも相性がいい。精霊が救助するほどに。
何よりも、ヴァルキリーの魔法の相性の良さ。
この子は存在が認められていない勇者なのかもしれない。そんな予感がした。
「仕方ない。これも何かの縁だ」
人を運べるようにその辺に落ちている木と持っていたロープを使い簡易担架を作り、少年の体を毛布で包みロープで固定した。
「とんだひろいものだ」
彼はそう呟きながら、持っていたバックを前にかけ、その少年を背負った。
騎士の訓練時に重い鎧を着て、さらに予備の鎧まで背負わされて歩かされた日々を思い出いだす。
あの頃とは大分体力が変わってしまったが、そんな行軍訓練を思い出しながら、鼻歌を歌いながら歩き出した。
あの頃、予備の鎧を持たせたものたちは元気に騎士をやっているだろうか?
そんな懐かしいいじめの記憶を思い出しながら、歩いた。