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感情複合バッドステタース32
「恩田君のあまりにも役立たずっぷりにーー」桜庭灰霧は嘆息をしたあと、僕を見下ろす。「私のSAN値は激減の一途を辿るばかりだわ」
ジュースを買い忘れたくらいで、お前は正気を失うのかよ……。
「なにを大袈裟な……」
思考がひり出した言葉は上手く音に変換できず、ザラザラした呼吸と一緒に出がらしのお茶みたいな声が外気に触れる。
声も震えているが、身体も酷い有り様だった。
無理もない。いくら女の子とはいえ、それなりの体重をもった立派な物体だ。それが動かないときたら尚更、死体を運んでいるのと同じことだろう。
それを一階から三階まで引きずってきたのだから、僕の身体もさすがに悲鳴を上げざるを得なかった。もっとも、内に潜在する野生が顕現していれば、こんな惨めな状態は回避できたんだけれどーーまあ、いずれにせよ後の祭りだ。
夏休みは、もうとっくに終わっている。
「それでーー」 桜庭の抑揚を欠いた声に、僕は再び顔を天井へと上げる。「本来私のジュースを握っているであろうその右手に握られているテディベアは……、一体どういうことかしら?」