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感情複合バッドステータス30

 あぁ、確かに夢野先生(変態外科医のほうじゃない人ですよ。念のため)のあの胸部は、僕にとって斬新ではあったな。

 控えめとつるぺたの板挟みだった人生にひとしきり思いを馳せたあと、慇懃に首肯する。もし声に出して肯定したものなら、そのまま調子に乗ってS・O・Tスーパー・おっぱい・タイムになだれ込んでしまいそうだったので、もちろん口は噤んだまま。ついでに開きっぱなしの右脳も引き締めてみた。その際、「おっぱい万歳」などと言葉が練り歯磨きみたいに格好悪くはみ出したのはここだけの秘密だ。

「知ったふうなことを……」

「知っているから訊いてみたんだけどね……」

 さて、いまいち締まらないどこぞの馬骨野郎の冗談はそこそこにして――

 二人の言葉を皮切りにして、僕達を取り巻いている電子が一気に密度を増す。

 すっかり蚊帳の外にいる気分で、出会った頃からまるで成長の兆しすら窺えない幼馴染の胸に凭れながら日和っていたけれど、この剣呑な雰囲気に僕は流石に息を呑まざるを得なかった。

 呼吸ですら化学反応を誘発せそうな――危うすぎる雰囲気。

 電子の嵐が吹き荒ぶ廊下で、チリチリと、音にならない幻聴がさらに不安を急き立てる。

 開いたジッパーから伸びるコードを弄びながら、女の子はときどき僕に柔和な表情を見せる。女の子の(かんばせ)は仄かに朱色を帯びていて、瞳孔の焦点は定まらない。苛々しているんだかもじもじしているんだか、状況が状況だけに裁量を量りかねるな。

 しかし――まぁ僕と彼女の関係は概ね把握した。

 それと、彼女と彼女の関係もまた然り。

 前者のほうはもう少しだけ検証する必要があるけれど、後者に至っては検証の余地すらないだろう。

 後ろからベアハグきめているありすの反応から、彼女の感情は窺い知れる。そう。僕に触れているのを忘れるくらいに、こいつは平静を維持できていない。

「夏休みの間になにがあった?」女の子の声が1オクターブだけ低くなる。「キミに変化を生じさせる起因があったなら、その期間以外に考えられないからね。違うか? 夢枕ありす?」

 女の子の質問、いや、詰問にありすは応えない。

 ありすの反応に女の子は微かに唇を歪めただけで、それが沈黙を前提とした詰問であったことを僕は理解した。

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